Habi*do通信

企業は人なり~人的資本経営そしてISO 30414とは~

HRテクノロジーが根付き人の能力をデータとして示せるようになった今、人材を資本として評価することが可能となりました。欧米を中心に求められていた人的資本の開示は、日本でも求められるようになっています。
今回は昨今求められるようになってきた人的資本・人的資本経営について、また人的資本に関する情報開示のガイドラインであるISO 30414についても解説していきます。

人的資本(Human Capital)とは

人的資本とは人の持つ能力を資本としてとらえたもの、経済学の用語です。
経済協力開発機構(OECD)の定義によると、人的資本は「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に備わったもの」とされています。

今まで中心であった人的資源(Human Resource)は人を資源として捉え、管理するといった考え方。人件費をコストとしています。
それに対し人的資本(Human Capital)では、人を経営に必要な資本として「投資する」ものであると定義しています。

人の持つ能力やスキルを資本と見なす概念である人的資本。人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出す、そういった流れが世界的に求められています。

人的資本経営とは

人的資本

人的資本経営とは、人材に投じる資金を資本として捉え、価値創造に向けた投資として考える経営。

昨今、欧米を中心に人的資本の開示要請が強まっており、日本でもその兆候がみられています。
ESGやSDGsが求められるようになってきた昨今、あらゆる物事の持続可能性が問われる中、企業の経営、人、業務フローといったことにも「持続可能性」が問われるように。人材を使い捨てにしない、過重労働を強いない、これから未来も継続可能な事業・経営といった持続可能性が企業にも求められています。

求人サイトやホームページに並ぶ「我が社は人材を大事にしています」といった文言。ではこれらを裏付ける数字はどこにあるのでしょう。
会社の経営や財務状態を示す財務諸表は存在していますが、人に関する指標が並んでいる会社はまだ少ないのではないでしょうか。財務と同様に人的資本を具体的な数字で示すことが求められつつあります。

注目を集める「ISO 30414」

人事・組織情報開示のガイドラインとして、「ISO 30414」に注目が集まっています。ISO 30414とは、国際標準化機構(ISO)が発表した人的資本に関する情報開示のガイドラインです。

人的資本の開示。国際的かつ標準的なフォーマットは少なく、具体的な示す方法が分からない状況でした。そこで2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表したガイドラインが、ISO 30414です。

ISO 30414は資本市場対応の目線で語られることが多くあります。しかし資本市場対応だけでなく、その背景では、人的資本が果たした役割を明らかにすること、そして無形資産の強化に向けた取り組み推進が求められている。また無形資産が企業価値の中心になりつつあるといったことが示されているのです。

ISOとは

ISOとは、スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関 International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略称。国際間の取引をスムーズにするために規格を制定、ISOが制定した規格をISO規格といいます。

ISO

品質マネジメントシステムに関する国際規格であるISO 9001、環境マネジメントに対する国際規格であるISO 14001、また翻訳サービスの国際規格であるISO 17100といったものも存在します。

日本における「人的資本」の歴史

人的資本という考え方、真新しい概念のように感じられますが、実は日本において、人材に投じる資金を資本として捉える考え方は昔から存在するものです。

近江商人

近江商人の精神である「買い手よし、売り手よし、世間よし」の三方よし。売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ、日本にはそもそもこういった考え方が根付いていました。しかしバブル崩壊後は、雇用と賃金の両面から人件費を抑制。人への投資をコストと捉え、人への投資を削る方向へと転換します。

グローバル化が進み企業は国際間競争に晒されるように。
M&Aや組織の再編成、ビジネスモデルの変更をすることを余儀なくされるほど企業間の競争は激化。扱う商品やサービスも大きく変化しています。
企業が人材への投資を削減・抑制してきたという面ももちろんありますが、激しく速い環境変化続く中、企業は人材にどのように投資すればよいのか分からなくなっているといった側面も。

2022年1月17日に召集された第208通常国会。岸田文雄首相は衆参両院本会議で初の施政方針演説に臨み、再教育の充実など官民で「人への投資」を「早期に少なくとも倍増させる」と強調しました。

職業人生が長期化し、環境の不確実性が高まる今後、どのように人に投資していくのか、より一層真剣に考えるフェーズへと移り変わってきています。

まとめ:「人」は経営の「原動力」

持続的な企業価値の向上を実現するためには、人を経営の原動力として考えることが重要。企業価値の評価基準が有形資産から無形資産に移行していく中、人的資本の価値を最大限に引き出すための「人的資本経営」を行うことが重要です。
人的資本経営を行うことは企業の優位性へもつながります。

経営が人的資本への投資を真剣に議論することが求められています。
個人の成長は企業の成長へ、そしてステークホルダーの成長へと繋がります。人的資本経営をスタートさせるのは「今」なのでしょう。