Habi*do通信

従業員エンゲージメントの功罪を考える~知られざる組織コミットメントの負の側面

人材不足傾向は強くなる一方。
バブル期を超える人手不足感が続いているというニュースもありました。(人手不足感、バブル期超え続く 北洋銀19年調査,日本経済新聞

そんな中、人材を定着させ、パフォーマンスを向上するためには「従業員のエンゲージメント」が重要という話を聞くことも増えてきました。
従業員のエンゲージメントは、学術的に近い分野として「組織コミットメント」に関する研究があげられます。
組織コミットメントには、功利的コミットメントと情緒的コミットメントが存在しますが、特に従業員のエンゲージメントが語られる場合には“情緒的コミットメント”を指すことが多いようです。

組織コミットメントについては、こちらも併せてご覧ください!

組織コミットメントが変化するきっかけとは?

一般的に組織コミットメントが高いことは、良い側面ばかり注目されがちです。
経営者・事業推進の責任者・組織づくりをしている方は、実は良い側面ばかりではないということを理解しておく必要があります。

そこで、本記事では組織コミットメントの功罪について触れたいと思います。

組織コミットメントのプラス面

組織のコミットメントが高い状態なら

組織コミットメント(情緒的・功利的問わず)が強い人材は、その組織を離れようとする意識が低いため、離職率を下げる効果が期待できます。
安定した労働力を確保できるという点や、採用や育成にかけた投資的コストを利益として回収するという点ではプラスの側面といえます。

もうひとつあげるならば、特に情緒的コミットメントが強い人材は、組織の価値観に共感しているケースが多く、企業の理念や価値観にそった行動を行います。
そうした従業員が多ければ多いほど、相互のコミュニケーションがスムーズになる可能性も高い。そのため生産性が向上しやすいのです。

その組織に情緒的なコミットメントをしている状態なので、社内外に対してポジティブな言動をとることも多いでしょうし、組織の目的に対して積極的に取り組もうという意欲にもあふれています。

組織においてコミットメントが高いことは、確かにプラスの側面が期待できることは間違いないでしょう。

組織コミットメントのマイナス面

離職防止策

組織コミットメントの負の側面とはどのようなものなのでしょうか。

例えば「イノベーションを起こそう!」「業務を大幅に改革しよう!」のように、変革や創造を求められる場合にマイナス面の影響が考えられます。
こうした場面では「現状を否定し、これまでと異なる状況を生み出す」ことが求められます。
情緒的なコミットメントが強い人材は、組織の理念や価値観に対して強い愛着心があり一体感をもっているものです。

価値観に縛られたり、これまでの枠や概念から突き抜けた考え方をなかなかできなかったりという思わぬ逆効果もあり得ます。
(もちろん、組織のためにひと肌脱いで現状を打開しよう!という良いケースもあると思いますが)

「現状」に対する組織コミットメントが強いということは、現状に満足してしまっているというケースも含まれてしまいます。ですから、組織の成長の障害になり得ることもあるのです。
コミットメントが強いがために、コミットしている組織の成長を阻害するというのは、意外なマイナス側面です。

大切なのは変化に適応できる現場力

現場力のある組織とは

人や組織が成長するということは、常に変化しているということのはずです。

少し考えてみてください。
今、市場環境の変化は速く、新たな価値を生み出していき、絶えず個人も組織も“アップデートをかける”ことが必要です。
それこそイノベーションが求められています。変化が多い時代、組織も市場に適応していかなければなりません。

これは私の主観ですが、ただただ「従業員のエンゲージメントをあげよう!」「従業員満足度を高めよう!」というようなアプローチに違和感を感じています。
組織コミットメントを高めることで定着率をあげる点にだけフォーカスしてしまうと、そもそもの事業成長、組織目標の達成、業績向上といった目的からブレてしまいかねません。

変化に適応するためには現場力を高めることです。
現場力のある個人・組織とは、自律的に問題解決をする力です。

苦境に陥ったときに活路を開いたり、協働して解決策を前向きに考えたり、創意工夫をしたりするのも、現場力のある組織です。

現場力のある組織は「目標が明確である」「プロセスが共有化されている」「メンバー間に信頼関係がある」ものです。
福利厚生や制度では現場力は残念ながら高まりません。

現場力は、現場でひとりひとりが仕事のなかで培われていくものです。

従業員の定着率を向上することも大切ですが、ひとりひとりが自律的に問題を解決できるように成長を支援することです。
そのうえで、結果として高まったエンゲージメントであれば、プラスの側面がより大きくなるでしょう。

参考文献:入門 組織行動論,開本浩矢編著/第3章 組織コミットメント,鈴木竜太