日本でも1on1ミーティングを取り入れる企業が増えてきています。
「これまでの経験やスキルが通用しない」「これまで通りのビジネスを行っていても成功しない」という状況が生まれつつあります。不確実性の高い市場の中で企業が成長するためには、従業員一人一人が常に新しい情報に敏感になり、自律的に目標を設定し、イノベーションを起こしていくことが求められます。
そのために必要なのが、メンバー間の「協働」や上司から部下への「対話」です。「協働」や「対話」を進めるためには、上司と部下の信頼関係や相互理解が不可欠なため、1on1での対話が重要視され始めたと言えます。
女性の活躍といったダイバーシティーを推進・受容する動きや、テレワークといった働き方の多様化などが、働き方改革の一環として進められている現在。多様な働き方や価値観に対応するため、上司は部下の状況を把握し、一人一人が自律的に行動できるようサポートする必要があります。そのための手段の一つとして、1on1が日本でも広がり始めました。
よく耳するようになった1on1ミーティングとはいったい何なのか5W1Hで分かりやすく解説、また面談との違いや効果、会社としての利点といったところもご紹介します。
目次
1on1、1on1ミーティングとは
「1on1」をよく耳にするようになった方、実際にチームで導入・実施しているという方もいるかもしれません。
1on1(わんおんわん)、 直訳すると「1 対 1 の」という意味です。
定期的に上司と部下が行う1対1の面談のこと。面談や面接、メンター制度とは違います。
今回は5W1Hで分かりやすく解説していきます。
いつ(When)
評価面談というと1年に1回または半期に1回、多いところでも四半期に1回に行われる会社が多いのではないでしょうか。
1on1ミーティングは週に1回~、最低でも月に1回程度のペースで頻度高く定期的に実施します。
どこで(Where)
会議室での上司部下二人きりでの1on1は、あまりおすすめできません。
会議室という場は緊張しやすい空間。また1on1ミーティングが行われることを知らないメンバーから見たときに呼び出された、と捉えられる可能性も。特に異性の上司と二人で個室にこもるというのはストレスに感じる方もいるでしょう。オープンに1on1を行うことをおすすめします。
場所は、オープンスペースやカフェといった身構えず気を遣わずに話せる空間を選ぶ。事前にグループのカレンダーや予定表等で、この時間は1on1ミーティングを行っているといったことも分かるようにしておくほうがいいでしょう。
対面で座らずに斜めの位置に座るのが良いと言われています。斜めに座ることで、緊張感が緩和され意見の衝突が起こりにくく、親しい関係を期待できるそうです。
アメリカの心理学者グレゴリー・ラズランの実験により明らかになっているランチョンテクニック(食事をしながら交渉事をする手法)。昼食を取りながらだと交渉事がうまくいくとされていますが、交渉ごとだけでなくお互い話す時にも有効だといえるでしょう。コーヒーやお菓子を口にしながら話すことで、互いの態度をやわらげることができ、建設的・恒常的な会話につながりやすくなるはずです。
また昨今ではオンラインでの1on1ミーティングも増えているかと思います。この際にも共有のカレンダーに予め予定としていれておくなど1on1ミーティングを行うことを他のメンバーにも知らせておくようにします。
お互い好きな飲み物を持ち寄る、お菓子やちょっとした軽食を食べながら話すといった工夫をすることもいいかと思います。
誰が(Who)
直属のリーダーや上司と行います。経営者や部門の上司といった場合も想定されます。
それ以外に評価・ 被評価の関係でないチームメンバーともとや、他部署のメンバー同士で行う1on1ミーティングを取り入れている企業もあります。
何を(What)
話す内容は「自由」です。上司にサポートしてほしいことや仕事の悩みはもちろん、プライベートの悩み、上司に知っておいてほしいことといったことを話します。
プライベートから仕事に関する内容まで幅広く話し合います。
1on1では部下の本音を引き出すことが重要。部下の話を深堀するためにも、「はい」「いいえ」で答えることしかできない質問ではなく、自由に答えられる「オープンクエスチョン」を用いることが大切です。
なぜ(Why)
評価面談とは別になぜわざわざ1対1で話をする時間を作る必要があるのでしょうか。
組織のフラット化や流動化が進み、多くのマネージャーがプレイングマネージャーです。そのため、マネジメントを放棄したいと思っていなくとも、部下と接する時間そのものが少なくなってしまっているという現実があります。
テレワークや多様な働き方の選択肢が進む今、飲みニケーションとタバコ部屋といったインフォーマルなコミュニケーションをとる機会の創出も難しくなっています。
変化の激しいVUCAの時代。経験やスキルの陳腐化が速くなり、今までの成功が通じない、上司も正解が分からない時代です。上司から部下への一方的な指示・命令ではなく、対等なコミュニケーションが組織として必須。
相手の強み、そして個を活かす体制が必要なのです。
どうやって(How)
1on1ミーティング。部下と上司の関係性は一律ではありません。そのため形がこうである、というものは存在しません。
関係性が出来上がっていない状態であれば、上司と部下で話すこと自体が緊張とストレスといった場合もあります。その場合は1on1ミーティングが雑談の場となっても問題はないのです。
業務と切り離した時間と場所で、個を大切に対話の時間を持つこと。そしてそれを続けていくこと。回を重ねることが関係性の構築・向上につながります。
1on1と評価面談の違いとは
半年や一年といった評価期間の中で、人事評価表を作成。それに基づき、昇給、昇格、給与や賞与(ボーナス)といった待遇を決める。これら評価の伝達を行うのが評価面談の場です。
単に評価を伝えるだけでなく、期初にたてた計画・目標の達成状況を振り返るとともに、計画・目標達成の成功要因、未達成の失敗要因を分析し、問題と課題、次期の改善策を考える場でもあります。
普段の関係性や面談の進め方次第では、モチベーションを上げるどころか部下のやる気を削いでしまう可能性もあります。日ごろから上司と部下の信頼関係を構築しておくことが、評価面談の効果を上げることに繋がります。
評価面談は、部下の人事評価を通知することに目的の重きを置いています。一方で、1on1では部下の能力を高め引き出すことが目的です。
評価面談は上司から部下へ向けて話すことが多く、1on1では対等な立場で部下が中心に話すことが多いという違いがあります。
目的の異なる評価面談と1on1。1on1を定期的に行うことで評価にも生かされ、うまく関係性を保てていることは評価面談の場に生かされます。
1on1を行う意味・目的とは
上司・部下の間での1対1の対話の場。目標管理制度(MBO)における、半年に1回の人事評価面談を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
それ以外で上司と部下での1対1の対話となるとどうでしょう。他のメンバーがいないところでわざわざ話さなくてはいけない内容。ミスを上司に咎められる、失敗を責められる・指摘される、ネガティブなイメージを持つ方が多いかもしれません。
それはこれまで上司と部下の関係性が「上司が一方的に指示・指摘する関係」であったからに他なりません。世の中の変化は激しく、今までの経験則が通用しない時代になっています。一方的な伝達でなく、上司部下関係なくすべてのメンバーが解を考え行動に繋げていく。「自律」が求められています。
世の中の変化により早く柔軟に対応、一人ひとりがリーダーかつ実行者であるために。業務報告やネガティブな会話以外でも常日頃からフラットな立場で話す、意見を交わす場が必要となってくるのです。
1on1の効果は
1on1ミーティングを取り入れることで、部下の育成が効果として期待できるでしょう。
例:スケジュール管理能力や、時間に対する意識が低い部下がいたとします。本人が自覚できているか否か。上司は分かっていない状況です。
1対1で話す中で、部下から時間管理ができていないことをもちかけてきます。相手がそれを伝えてくれたこと、自分から伝えてくれたことを認めます。話してくれたことで、次の手立てを考えたり、対策を考えたり、前に進むことに繋がります。
うまくいっていないこと、失敗であっても、上司が認める、そもそも話してくれたことから「認める」ことを始めます。
急に上司と話す時間を作られたとしても、突然素直に話せるわけがないのです。まずは、素直に話せる伝えられる関係性の構築から始める必要があります。あくまでも考え行動する主役は「部下」です。まずは認めることで、次の手段や手立てに繋げることができます。
また、部下の育成だけでなく上司自身の振り返りにも繋がります。
部下が振り返ると同時に上司自身も振り返る。「何か他のやり方をとっていれば結果は変わっただろうか」と過去を視る。より良いやり方改善に結び付ける「良い反省」をする機会となります。
そして、上司と部下双方にとっては円滑なコミュニケーションのきっかけになることが期待されます。双方向のコミュニケーションにおける認識の齟齬は、積み重なると業務上のさまざまな弊害や意思決定における誤解につながります。そういったことが社員のモチベーション低下や離職につながるケースも少なくありません。副次的な効果ではありますが、社員の離職率低減も1on1ミーティングを行うことで期待される効果のひとつといえるでしょう。
1対1での面談は、お互いの共通目標や個々人の目標を確認し、対策を打ち続けるための良い手段。
共通の目標を持っていれば、達成に向けた知識の更新もできますし、達成するための方法を考え続けることができます。そして結果、互いの目標が達成できると感謝し合える関係になれますよね。企業での1on1も、そういう関係性を築く手段のひとつとして行えると良いのではないかと思います。
会社やチームとして1on1を捉える
1on1をなんとなく取り入れるのではなく、会社の『施策』としての旗振りが重要です。
会社としてまたは導入する部署やチームとして、1on1の実施目的を示し、伝えること、を大切にします。目的が伝わらないまま進めていけば「時間の無駄」「何のためにやっているかわからない」という認識につながってしまいます。1on1ミーティングをやるようにと一方的に言われても、通常のミーティングとの違いがわからず、現場は困惑するだけです。
1on1ミーティングの結果を会社側にフィードバックしてもらうことで、会社への意見やビジョンの浸透度合いを伺うことができます。それにより、会社の仕組みや体制を見直すきっかけにもなります。
会社に対する不平不満を聞いた後そのままにしていてはただの愚痴になってしまいます。真摯に向き合い、対策はどうしていくか、上司だけでなくチームそして会社も共に考えていく形を作っていく必要があります。
人事や組織論から注目を集める1on1
1on1ミーティングは人材育成施策としても人事や組織論の方面から、注目を集めています。組織力を向上させるための人材育成の手法。
1on1ミーティングを定期的に取り入れることで、日々の仕事をなんとなくで終わらせずに振り返ることができ、経験学習のサイクルがまわります。ひとりひとりの成長に繋がり、結果として会社の発展や組織成果にも繋がるのです。
組織行動学者であるデービッド・コルブにより提唱された、経験したことから学びを得る「経験学習」。
「経験」「省察」「概念化」「実践」。この4つのプロセスは、学び経験する、そしてサイクルとして繰り返すということ。
まずは経験をすること、具体的な経験を得ることから始まります。経験を振り返り、失敗そして成功どちらも理由や背景について深堀していきます。この際に周囲からフィードバックを得られることで、内省がより深まるだけでなく、今後の行動の参考となるような有益な指針をつかむことにも繋がります。今取り組む課題だけでなく、他の場面でも応用できるよう、概念化も進みます。
1on1ミーティングというフラットに話せる場があるからこそ、成功だけでなく失敗についても自分の言葉で話すことができる。また、忙しいとついおろそかにしがちな内省をしっかり行う場ともなるのです。
1on1ミーティングとは、指示命令と異なり、部下自身が自分自身で考えて課題解決する行動を上司が傾聴する場。「考える」を促し、問題解決する力を向上させることにも繋がるのです。
テレワークという働き方が定着し、業務効率化が進む今。1on1ミーティングはもちろん、上司部下だけでなくメンバー同士が対話をし、互いを理解する価値観を高めあう場はより重要となっています。
多様な働き方が進む中で、1on1ミーティングは施策として取り入れる会社が増えていく、また1on1ミーティングが施策として成功するか否かが会社の今後にも繋がっていきそうです。