Habi*do通信

【開催レポート】シニア層ビジネスパーソンの活躍が カギを握る未来!~心理的資本セミナーvol.5

制度論に終わらせない! シニア層ビジネスパーソンの 活躍がカギを握る未来!

先行きが不透明で変化の激しい時代には、”人の力″を引き出して業績を高めることが求められます。今回は、高年齢者雇用安定法の改正や2030年問題も迫るなか、特にシニア層ビジネスパーソンの活躍に焦点を当て、トークセッションをお届けいたしました。題して、「制度論に終わらせない!シニア層ビジネスパーソンの活躍がカギを握る未来!」

お迎えしたゲストは、シニアについて課題意識を持ち研究・提言を行う川口雅裕氏(NPO法人老いの工学研究所 理事長)、池口武志氏(一般社団法人定年後研究所 理事)、企業内でシニアの活躍支援に向けて実務を行う寺井昌和 氏(豊通ヒューマンリソース株式会社)の御三方です。

当日の内容をダイジェストでご紹介します!

パネラープロフィール

パネリストのご紹介

  • 川口雅裕氏(画面右上)
    NPO法人老いの工学研究所 理事長
  • 池口武志氏(画面左下)
    一般社団法人定年後研究所 理事
    株式会社星和ビジネスリンク執行役員
  • 寺井昌和氏(画面右下)
    豊通ヒューマンリソース株式会社 キャリア開発
  • 石見一女(画面左上)※モデレーター
    株式会社Be&Do 代表取締役 CEO

パネリストによる自己紹介

川口
川口
NPO法人老いの工学研究所にて、高齢者の問題を人のイキイキやWellbeing、ハピネスといった観点から研究・執筆活動を行っています。実は高齢者は全員とは言いませんが、平均的にはめちゃめちゃハピネスなんです。この辺りも後ほどお話させてください。
池口
池口
定年後研究所という所属になっていますが、普通のサラリーマンです。生命保険会社から今の会社に出向しています。定年前後の人生が豊かになるような、充実させるために3年前に定年後研究所を設立しました。中高年層のキャリアの充実に資する調査やそれに伴う施策を行っていますが、これから新しいチャレンジを試みたいと思っています。今日はよろしくお願いします!
寺井
寺井
豊通ヒューマンリソースで特にシニアの活躍支援を担当していますが、自分自身も当事者です。2013年頃から豊田通商でキャリア支援ということで研修を行ったり、セカンドキャリアを支援する設計運用なんかもしていました。研修後の面談もキャリアコンサルタントとして行っており、昨年も定年を迎える160名の社員と面談をしました。この辺りの実感からお話したいと思っています。
石見
石見
御三方よろしくお願いします!気づけば、シニア活躍の問題については自分も当事者になっている。60歳になって思ったのは、「めっちゃ若いやん!」ということです。60歳を越えてもめちゃめちゃ元気なんです。そんな中で、定年ってどう考える?働くって?老後ハッピーに生きるためには何が大事?そのようなことを皆さんとディスカッションできると、シニア人材の課題について企業でシニア活躍をご担当される方も、実際に当事者となるシニアの方にとっても、良い気づきにつながるかと思っています。

シニア活躍の何が課題?

石見
石見
先ほどおっしゃっていたこと、なぜシニアはハッピーなんでしょうか?
川口
川口
加齢のパラドックスと言われていて、6つくらい学者から提唱されている理由がありますが、今日は2つだけご紹介します。
一つ目に離脱理論。仕事をしているときは、嫌な事しなあかん、嫌な人会わなあかん、そしてルールに縛られていますが、現役を引退すると嫌な事しなくていい。だから幸福感が高まるという説です。
もう一つが最適化といわれるもの。年齢を重ねると年の功でいろんなものごとを上手に解釈できる。だから目標達成しなくても、それほど落ち込まない。処世術も身に着け、精神的に安定している。若いころのように一喜一憂しない。
目標管理という仕組みが組織にはあるが、若者はそれで頑張るかもしれないが、高齢者は何があっても安定し一喜一憂しないので、目標でマネジメントをするには限界があるんです。お金もある程度あるし、報酬での動機付けも難しい。高齢者の雇用問題の本質は、動機付けは何になるのかということだと思っています。
石見
石見
川口さんのお話を聞いていると、シニアっていまいちなイメージがあるかもしれませんが、実はシニアはハッピーなんですよね。一方でハッピーにたどり着く前の悩んでいる最中の人はどうなんでしょう?
池口
池口
たしかに目標やノルマ、肩書やキャリアといった外的動機づけのようなものは、年を重ねるごとに薄まっていくんだろうなと思います。定年後研究所で行った調査によると役職定年や関連会社への出向、再雇用に伴って、給与水準が下がったことによって4~5割の方がモチベーションが大きく下がった、または喪失感を感じたなどという回答がありました。周囲の諸先輩も見て、決して明るい将来像ではない。
こういった状況は、定年が延びていくなかで、個人としても会社としても非常に勿体ない。日本は世界の中で生産性という水準で劣等生と言われていますが、増加の一途をたどる50~60代の社員がモチベーション下がったままでは、企業としてもまったく成り立たないというのが私の課題認識です。
寺井
寺井
2013年ごろに社内で「キャリア」という言葉を認識している人は少なかったです。「キャリア」という言葉にネガティブなイメージを持つ人が多かったのです。年々社内で浸透し、なんとなくキャリアを考えていかなきゃという風潮は出てきましたが、実際に面談をしていても定年後をイメージしている人は少ない。
再雇用制度が拡大し当社では今、9割くらいが再雇用になっています。世間では収入のために65歳まで働いていると言われてますが、再雇用社員160名と面談した個人的な印象としては、少なくとも当社ではお金のことで再雇用をになっているわけではい。どうして働くのかと聞くと、健康や使命感、なんとなく定年を迎えたという方が多い気がするんです。
昨年は160名でしたが、この数が2~3年後には400名になる、2030年には800名くらいになって社員の2~3割を占めることがわかっています。日本の人口構成を見れば明らかです。経営層は中身よりも、とにかく数が増えることを過度に恐れている印象を受けています。

シニア活躍のための施策は?

石見
石見
経営者のお悩みでお聞きするのは、年齢の高い方が多く長期に渡って会社にいると若手の成長の芽を活かしきれないのでは、ポストに人が溜まってしまっているため若い人のポジションが見えてこないといったお声です。
施策として有名なのはサントリーのTOOは「隣のおせっかいおじさん・おばさん」や、他には役職定年はなく活躍によっては給与も上がるといった制度を耳にしますが、いかがでしょうか?
川口
川口
聞いていて思うのは、多様性がない!ということです。皆同じ基準で生きているから、椅子がとられたらモチベーションが下がる。ここは施策を分けて考えたいです。60代になってから多様性を求めるのは酷な気がします。だから60代には居場所作り。40~50代も放っておくと多様性なく育つので、いかに多様性を要求するのか。
多様性があって、技があれば、役職定年は怖くないはずです。実はこの多様性のなさは、職能資格制度が生んでいると思っています。
石見
石見
多様性って女性活躍だけではなく、”人材”と考えると、年齢とか関係ない。職能資格制度で画一化された人材が今まさにシニアになって、課題となっているわけですね。
池口
池口
これからは、これまでの職能資格制度がそのまま通用する時代ではないということは自明の理です。多くの企業も一律運営からの脱却を図っています。一人一人の個性を活かさないと、60代を10年間雇い続けられません。一人一人、will-can-mustを考えて、mustには会社からだけではなく社会から求められていることも踏まえて、一つの会社の中にがんじがらめになっていた思考を一旦溶かすことが必要です。こういうことを自分でやり始める人は少ないので、企業として機会を作ることが必要です。これまでどおり職能だ、資格だ、ポストだ、肩書だ、という価値観のまま、60代に突入すると暗い10年間になってしまいます。
これからは会社を使って何ができるのか、会社のリソースを使って自分のやりたいことを実現していけるのか、友人や地域など会社の枠組みを越えて俯瞰的に物事を考えないといけないですね。
寺井
寺井
職能資格制度はネガティブな議論が巷にあることも承知しているが、当社のなかでは上手く機能していると思っています。例えば「明日から部長をやってください」と言われたときに、部長ができる準備ができている。準備が出来ている・能力がある故に等級が与えられている。準備が出来ているということを会社が認めているから、給与が支払われている。
そういう側面を考えると、職能資格制度のなかで「仕事内容と給与が見合ってない」とネガティブな意見を突きつけられるのはいかがなものかなとも思うんです。
川口
川口
高齢者の問題で考えると、職能資格制度を悪いとは言いませんが、やはり同質性が高まってしまう傾向にあります。これが本当に競争力の維持につながるのか。同質性が高いことによって高齢期の同じような人が埋もれがちになってしまう。全員一律で年収が6割になりますという発想がTHE日本。こういう仕事が60歳以降で選べます。こういう値段です。さあどれにしますか?というカードを出す。高齢者にまずジョブ型をいれるべきではというのが私の意見です。
寺井
寺井
再雇用社員は1年毎の契約を仕事と金額を決めて行っています。だからジョブ型のように見えますが、働き方や仕事内容は定年前の延長線上になっているのが実態です。
池口
池口
身近な例でいうと、今度お辞めになって独立される先輩が、会社からもこの人にしか出来ないことがあると認められ、今業務委託の交渉のやりとりをしている真っただ中です。こういった1対1の関係づくりみたいなものが増えていけば、シニアの活躍につながるのではないかと思っています。

シニア活躍の問題はシニアだけの問題?

石見
石見
満足のいく老後を迎えるためには、本当はもっと若い頃から自分のキャリアを考える必要がありますよね。
川口
川口
日本では、老いに対してネガティブイメージが定着していて、年をとると衰えると思われています。確かに単純な記憶力や計算のスピードは若い人には叶いませんが、語彙が増えて表現力は豊かになるし洞察力も磨かれる。物事を俯瞰して見えるため、判断力も上がっていく。
もっと言うとシェアードリアリティです!会社の歴史や上手くいったビジネスの話など、冊子にして渡しても伝わりませんが、昔を知っている人が語らう機会があると伝わる。こういうことが出来る企業は強いです。昔を知っている人にやってもらうべきことは必ずあります。弱い人に何をやってもらうかではなく、発達した人に何をやってもらうのか。それを考えながら、もっとチャレンジしてもいいはずです。
石見
石見
人間は生涯発達し続けるもので、シニアは決してお払い箱じゃなくて、その人の能力を最大限活かすためのポテンシャルを持っているということですよね。ただ、ずっとぼーっとしててもポテンシャルは持てないですよね。
川口
川口
早いうちに皆と同じ基準でキャリアを考えることから抜け出す必要があります。人と比べるような人生を送っていると、いい結果にはなりません。
池口
池口
当社では生保レディから入社して管理職までなった方々が、平均年齢70歳くらいなんですが、現在保険代理店としてのお仕事をしてもらっています。やはり現役時代に管理職までなられた方々なので、いまだにこのコロナ禍でもバリバリとお仕事をされている。川口さんのおっしゃるリアリティみたいなものですよね。次の世代のためにも身近なロールモデルがものすごく大事だなと思います。
寺井
寺井
個人的にシニア社員の方々と接していて思うことなんですが、皆さん「出しゃばらない」という言葉をよく口にされます。理由は年下の上司への遠慮のようです。一方で年下の上司に話を聞くと積極的にやってほしいと言うんです。この辺りのミスマッチも実際の現場では起きているのではと感じています。

質疑応答

成果を時間で測るのがナンセンスであるように、年齢で管理をすることがナンセンスであることは分かりました。では今後何で管理すればいいでしょうか?あるいは管理することがナンセンスだとすれば、経営者や人事責任者にとっては何が必要になるでしょうか?

池口
池口
年齢が管理の視点から完全になくなるということはないと思います。一方で管理よりも大事になるのは職場でのコミュニケーションです。先ほどの寺井さんがおっしゃった「出しゃばる・出しゃばらない」もそうですが、コミュニケーションギャップが多いと思うので、年下の上司も意識的に本音のコミュニケーションができるように仕掛けていくことが、マネジメント上大切です。
川口
川口
管理は無理があります。画一的な管理ではなく、個別性の高い契約になっていくと思います。1対1のコミュニケーションを大事にしながら、個別に契約をしていく。これが最も人間的なマネジメントだと思っています。
石見
石見
私も同感です。性差でも年齢でもなく、個別なんですよね。マネジメントも塊として見るのではなく、一人ひとりを見ていく必要があると感じています。

参加者の皆さまへのエール

寺井
寺井
実感として、なんとなく定年後も同じ会社で働くという考えに流されているが、本当に定年後も同じ会社で働く必要があるのか、こういうことを若いうちに考える機会があれば良かったなと率直に考えています。
池口
池口
自分自身も60代に向けて学びなおしやブラッシュアップが必要だと感じている。ぜひ経営者や人事の皆さまには、社員に考える機会を与えることをしていただきたいです。
川口
川口
2つ提言があります。
一つ目は「高齢者」を「”向”齢者」にしてはどうでしょう。齢に逃げずに向き合おうということです。
二つ目は、40歳でのダブル成人式を推奨したいです。10歳での二分の一成人式ってありますが、40歳になったときに今一度初心に立ち返り、感謝をして、その後の人生を描く機会をもってください。