『タレントマネジメント』を知っていますか?
「社員の能力やスキルを発揮させるための、戦略的な人材配置や人材育成」のことです。もともとアメリカ生まれのマネジメント方法ですが、最近は日本でもよく耳にするようになってきました。
日本企業でタレントマネジメントを用いている会社の多くは、グローバルリーダー人材の育成を求めています。グローバルリーダーと聞くと、特殊で優秀な人材を思い浮かべますが、その候補者は社内にいるかも知れません。
「うちにはそんな原石は眠っていないよ?」と思いますか?
しかし、他社から転職してくる優秀な人材も、「元いた会社で、正しく能力を見つけてもらえなかった」から、転職してきたのではないでしょうか。あなたの会社にも、光るスキルが眠っているはずです。それを見逃さず、自社内で活用するためのヒントとして、タレントマネジメントを活用してみてください。
タレントマネジメントとは?
「タレント」と聞くと、「TVに出ている人のこと?」と思うかも知れません。実は、芸能人を意味する「タレント」という言葉は和製英語。英語の「talent (タレント)」は、「才能・能力」や、「才能がある人」を意味します。とくに人事領域における「タレントマネジメント」の場合は、「才能のある人材」という意味で使われることが多いです。
この意味からもわかるように、「タレントマネジメント」はそれぞれの人材が持つ「才能や能力」に重点を置くマネジメント方法です。現状のスキルにバックグラウンドなどを加味し、「才能や能力」をどのように見つけ、どのように高め、どのように会社の利益のために使うか…それを戦略的に考えることが、「タレントマネジメント」の基本です。
タレントマネジメントが生まれた背景
タレントマネジメントは、アメリカで生まれたマネジメント方法です。その背景には、人材の流動性がありました。アメリカの組織は日本のような「終身雇用スタイル」ではなく、優秀であれば年齢関係なく出世することも可能な企業が多かったからです。
だからこそ、タレントマネジメントは「優秀な人材を素早く見つけ、長く働き続けてもらう」ことが目標とされてきました。
「タレントマネジメント」には大きく2つのメリットがあります。
一つ目は、個人の持つ才能や能力がデータとして登録されるため、客観的で適材適所な人員配置が可能になります。人材を最大限に活用し、会社全体の業績アップにつながります。
二つ目は、社員のモチベーション向上と離職防止です。社員それぞれの能力を最大限に生かすことで、モチベーションが維持され、満足度も向上します。能力と希望に合った仕事ができれば、エンゲージメントも高まり、離職防止にもつながります。
タレントマネジメント 日本の場合
一方、日本はどうでしょうか?
かつての日本企業には終身雇用制や年功序列が根強くあり、人材の流動性はアメリカほど高くありませんでした。そして人材も豊富にいました。だからむしろ日本で重視されていたのは、人材をどう活かすかよりも、どう会社に合わせるか。人材よりも会社が重視されていたのです。このような企業風土では、「タレントマネジメント」はさほど定着しません。
しかし、近年、日本でもタレントマネジメントの重要性が増してきています。それには4つの理由があります。
1. 少子高齢化による労働人口の減少
労働人口の減少により、新たに人員を増やすことが難しくなった。今いる社員で生産性を向上させることの必要性が一気に増している。
2. 仕事に対する価値観の変化
終身雇用制や年功序列はもはや昭和のもの。新卒で入社した会社で定年退職を迎えることはほぼない。転職活動は当たり前になり、人材の流動性が高まってきた。
3. デジタルトランスフォーメーション(DX)による変化
デジタルトランスメーションとは、会社のさまざまなデータを活用し、業務に良い影響を与えること。人事データもそのひとつで、人事データから優秀な人材の育成や定着へとつなげる「タレントマネジメント」の可能性が注目されている。
4. イノベーション人材の育成
世界規模の競争が繰り広げられる現代社会で生き残るためには、新しい価値やアイデアを生み出すイノベーション人材の育成が必要。今までとは違う「タレント」に着目した戦略の必要性が高まった。
「だれ」のタレントをマネジメントするのか
「タレントマネジメント」の重要性がわかりました。
では「だれ」のタレントをマネジメントするのでしょうか?これには2つのパターンがあります。
【パターン①】
優秀で能力の高い人材にフォーカス。限られた優秀な人材のみが「タレント」とされ、育成される。リテンション(必要な人材を企業内に引き留めるための方法)やサクセッション(後継者の育成)によく用いられる。
【パターン②】
全社員が「タレント」。それぞれの社員が、個々の能力を伸ばすことで、会社全体の生産性を向上させる。また、それぞれの人材の可能性を引き出す。
会社の規模や業種により、どちらのパターンが適しているかはさまざまです。ただ、タレントマネジメントに求めるものが「適材適所の人材配置」であることを考えれば、一部の優秀な人材に対してのみ実施するのではなく、社員の全体的なボトムアップを目指すのが正解だといえそうです。
「タレントレビュー」でスキルを正しく評価する
タレントマネジメントには「タレントレビュー」が必要です。
「タレントレビュー」とは、部門ごとに上司や人事担当者が集まる会議のことです。過去の実績などのいわゆる「成果」が話題に上がりそうな会議ですが、「タレントレビュー」は違います。この場合、話し合うのは「社員それぞれの強みや成長課題、そして育成プラン」。過去の実績ではなく、社員のそれぞれの未来に焦点を合わせます。
キャリアと紐付かなくては意味がない
とても大切な「タレントレビュー」ですが、昇進だけを目的としたものではない、ということはしっかり確認しておきましょう。「社員の願う未来」が、必ずしも昇進とは限らないからです。
今の時代、「出世したい!」と思っている社員ばかりではありません。自分の理想のキャリアプランに「管理職」という選択肢がない人もたくさんいます。人によって希望するキャリアはさまざま。「タレントビュー」が社員の未来を考える機会であるのならば、会社は多彩なキャリアが実現する仕組みを作る必要があります。
また、社員も自分のキャリアプランについて、自律的に考えるべきです。社員のキャリア育成に最も大切なのは、会社の方針ではなく本人の意志。マネジメント自体は会社が行うものですが、社員自身の意思が伴わなければ意味がありません。
会社は、先走って社員を置いてきぼりにすることのないようにしましょう。そして社員は、自分の望むキャリアを明確にし、言語化できていることが理想です。
タレントマネジメントでつくる未来
社員たちは、人のかたまりではありません。会社がそれぞれのスキルや将来に向き合うことは、社員のモチベーションを上げ、ひいては会社の業績を上げることにもつながります。
才能や能力の把握には非常に時間がかかりますが、それだけの価値のあることなのは間違いないでしょう。タレントマネジメントは、単なる才能の発掘を超え、会社に貢献する考え方です。会社も社員も、どのような「未来」を目指すのかを明確にすること。ここが揺るぎないものになれば、社員は自立を重んじる優秀な人材に、また会社は凡庸な人を卓抜した人材に変える装置へとなるでしょう。