組織と個人の在り方が問われる時代が到来しています。デジタルシフトがコロナ禍で加速する中、働き方も多様な広がりを見せています。それは世界とつながることで、変化が大きくビジネスのスピードも早く複雑になっているということでもあります。
そんな今、求められる人材はどのような特徴を持つのか。将来の事業推進や事業開発を担うリーダーを発掘し育成するために、経営者が持つべき考え方や具体的なアクションとは。そしてひとりひとりの働き手が意識したいこれから活躍する人材像とは。
これまで国内外の事業会社にて現場・事業企画そして戦略人事の立場から人材マネジメントに携わって来られた積水ハウス株式会社の藤間美樹氏、グローバル人材の育成やタレントマネジメント研究の第一人者である立命館大学の守屋貴司氏、目標マネジメントを通じた組織活性化に取り組んできた株式会社Be&Doの石見によるトークセッションを実施、オンライン配信しました。
当日の内容をダイジェストでご紹介します。
ポジショントーク
グローバルで活躍する人材像とは?
積水ハウス株式会社 藤間美樹氏
執行役員 人材開発担当
グローバルで活躍する人材を探すという時に一番大切なのは、「日本型のリーダーシップは世界で通用しない」という事実を経営陣や人事が認識することです。日本で成功するリーダーのイメージで発掘・育成しても不十分です。
グローバルで活躍できるというのは、文化的な多様性に富んだメンバーと健全な議論をして成果を出していくことができるということです。日本人が最も苦手なことだと思いますね。では、どういう人材が求められるのか。端的に言うと、まったく知らない世界、どんな反応をするか分からない人たちの中に入ったときに対応できるかどうか。新しい経験をどんどん取り入れて学び、学んだことをまた新しい場面で活かしていける、そんなものが求められます。
日米の野球の内野シフトの例えが分かりやすいのでご紹介します。日本人上司はよく「外国人は三遊間のゴロを取らない」と言います。しかし、外国人部下からは「日本人の上司は三遊間のゴロが取れるように指示をしない」と思われています。つまり、リーダーが明確に指示するのがグローバルで、部下の頑張りに頼るのが日本です。
なぜ日米でマネジメントが違うのか?日本では成果を出すことよりも失敗しないことを重視している傾向がある、人と違うことをするときに過度に周りの目を気にするなど、理由は様々です。これらの背景には、文化的な違いだけでなく雇用環境の違いもあります。新しい会社に身を置いたら成果を出そうとチャレンジをする、一方で終身勤める会社であれば堅実にミスなくという心理的な状態になると思います。
人材育成プロセスについて、平等に研修を実施し育ってくるのを待ち、育った人材をピックアップするというやり方になっていませんか?海外では、希望制の教育プログラムやeラーニングなどをメニューとして用意し、将来の経営層と目される人を早くからプールして意図的かつ集中的に育成をします。ここでいう育成は研修ではなく、タフアサインメントです。チャレンジをさせて学ばせます。
人材選抜方法として、欧米で一般的なのがタレントレビューです。ポイントは“ラーニング・アジリティ”で、ラーニング・アジリティの高い人は、多種多様な緊急かつ逆境にある仕事にも迅速に対応できます。面白いことに、これが心理的資本とものすごく近いんですね。根っこは同じかと思います。
タレントレビューを行うことで、組織強化と人材育成が推進され、キャリア自律や人を育てる組織風土が醸成されます。詳しいことが知りたい方は、調べてみてください。
参考:藤間氏執筆記事「これが伝えたかった! 日本人だけが知らないタレントレビュー」日経BP
人財に求められるメンタリティ
株式会社Be&Do 石見一女
代表取締役
弊社は、現場の力を最大化する運用ツールとしてHabi*doというwebアプリケーションを提供しております。このHabi*doは心理的資本を高める運用ができるものです。私たちは、Habi*doをシステムとしてご提供するだけでなく、心理的資本を高めるマネジメント手法の導入のご支援も一緒に行っております。
心理的資本というのは、Hope(目標に関わる意思と経路)/Efficacy(効力感)/Resilience(困難に打ち勝つ)/Optimism(楽観主義)の4つの構成要素があります。これらはグローバルで活躍する人材にとっては、かなり重要な要素ではないかと思います。
Habi*doソリューションの実績としては、売上の向上や人材の定着、労災減少などの成果がありますが、これは心理的資本、いわゆる「やり遂げる自信」のようなものを伸ばすことが成果に繋がっています。
心理的資本は、10年程前から注目をされ始めています。業績に影響する心理状態を意味し、モチベーションに近いものではありますが、計測可能で開発可能な資本という点でモチベーションとは異なります。ちょうど日経新聞でトヨタ自動車さんやロート製薬さん、積水ハウスさんが経営の理念の中に「幸せ」という言葉が入るようになったと取り上げられ、まさしく「幸せ」「心の資本=心理的資本」というものが、大きな話題になっているということです。
心理的資本と業績との相関は研究によって証明されており、その他にも心理的資本のもたらす効果は組織コミットメントやハピネス、ウェルビーイング、健康、ストレスや不安など多様です。また、神戸大学の服部先生のスター社員の研究においては、心理的資本が高いかどうかと成果を出し続けることができるかどうかの相関が高いという結果が発表されています。様々な研究結果から、心理的資本とラーニングアジリティーや人材発掘との関連性が深いということが分かります。本日私からは「グローバル基準の人材を発掘する上で、メンタリティー(心理的資本)は評価されるのか」とうことを皆さんと議論させていただけたらなと思っています。
参考:心理的資本を高めるマネジメント手法の導入コンサルティング×Habi*do
古い(二国間)人事から新しいグローバル人事へ
立命館大学 守屋貴司氏
経営学部 教授
私の専門である外国人材研究から少しお話をしたいと思いますが、外国人留学生の日本での就職率は57.4%で、日本人大学生の就職率97.6%に遥かに及びません。そこで外国人材の本音に目を向けると「日本語や日本的文化に埋め尽くされていて、日本人学生と外国人留学生を平等に扱って、日本人化を求められる」といった、グローバルやダイバーシティとは離れた状況が、今の日本では見られます。さらに、外国人材の不満としては「労働時間が長い」「サービス残業がある」「給与報酬が低い」「昇進が遅い」等々、様々な不満があります。
外国人材が日本企業に定着しない原因を明確にワンポイント挙げるとすると、長期雇用に基づく企業依存型のキャリア形成の日本に対して、外国人材からすると日本企業では主体的なキャリア形成が出来ない。日本企業でしか通用しない人材になるのではという恐怖感から入社しなかったり、定着しないということが起こっています。しかし、皆さんに考えていただきたいのは、「やりたいことができない!」「本当の専門性が養えない」といった外国人材が定着しない理由や、実は日本人の35歳以下の優秀若手人材の離職理由と重なってるんですね。これは、大手企業の人事の方から若手層の離職について相談を受けて調査を行った結果、見えてきていることです。
今日は、海外の日系企業の視点から考えてみたいのですが、これまでは日本の本社からの指示や意向を中心に在外子会社や在外工場が動くということが多かったです。世界の中で見ると、日本だけが属人的な人事をしていて、在外子会社はいわゆるジョブ型のような形になっている。そのような状況にも関わらず日本本社からの意向を中心に動くというのはかなり矛盾がありました。
ただ、海外の日系企業は今かなり上手くいっているんですね。海外ではダイバーシティマネジメントが当たり前で、日本人駐在員は現地化するということが求められます。さらにその中では、日本人駐在員と現地人材の中間に立つブリッジ人材というものが活躍しています。日本人駐在員の中には海外経験を通して、普遍的なリーダーシップやマネジメント能力の獲得する人が多数現れてきています。
コロナ禍が続く中で、海外現地法人においては人事制度変革への関心が高くなっています。日本人駐在員を送り込めない、だから現地人材を海外現地法人の経営幹部に登用して、日本人駐在員を減らそうという背景です。同時に国をまたぐリモートマネジメントの効果性を高めようという動きがかなり進んでいます。
ニューノーマルな環境下でコミュニケーションやメンタルの課題が海外でも明らかになっており、まさに心理的資本のようなものが業績においても実はとても大切だということがあぶり出されています。
二国間人事という点においても、JTさんのように海外に本社を移し、海外ベースで人事を行うような会社も出てきています。さらに、在外子会社と日本親会社は対等な関係で、新興国子会社によるイノベーションを日本の親会社に受け入れる。在外子会社の人事手法から学び日本の親会社の人事も変えていく、というような新しい二国間人事の融合化が図られています。
最後に新しいグローバル人事へ!ということで次のような提案をします。
・ダイバーシティな企業風土への転換
・多文化・多価値的な意識改革
・本社と在外子会社共通のグローバルビジョン
・主体的なキャリア形成と報われる報酬制度
・言語化されたコンピテンシーや理論的な説明能力や批判的思考の育成
・コミュニケーションとメンタルの促進
強い心理的資本資本を持つ人材を育成することが、グローバルに戦っていくという点において求められています。
パネルディスカッション
D&I行動では、待ちの姿勢ではなく、リーダーがメンバーに働きかけて、任せて、褒めて、方向性をアドバイスしてあげると、若い世代も外国人材もやる気になって働いてくれると思います。メルカリで働く外国人材は、優秀なリーダーの元でいろいろと任されて成長し、やりがいを持って活躍し、ベトナムに帰ってからも起業したりしています。D&I行動においては、リーダーの役割変化や働き方の変化に敏感になることが重要です。
質疑応答
“しなやかさ”という言葉が出てきていましたが、ハイパフォーマーが成功体験を積み重ねたことから“しなやかさ”がなくなってしまうのでは?
芯やアイデンティティはどのように作っていくものでしょうか?
日本の会社は学生にとって楽しそうに見えてないような気がしています。いかがでしょうか?
心理的な余裕や心理的安全性がないとD&I推進等は進まないのではと思うのですが、いかがでしょうか?
D&Iも一緒です。初めて女性が入ってきた、外国人が入ってきた、きっと初日は大変です。おそらく1ヶ月経っても2ヶ月経っても大変だと思いますが、いずれ良くなります。ただ業績につながるのはかなり先のことです。そこはある程度時間がかかるということを、経営陣と人事は認識して、ぐっと歯を食いしばってやるしかありません。世の中を見れば、それをいち早くやった企業が勝っていますよね。その考えを会社、特に中間管理職に浸透させるというのが肝ではないかと思います。