Habi*do通信

【開催レポート】組織再編の勝敗を分けるマネジメントについて生討論!~心理的資本セミナーvol.9

競争が激化し、変化の目まぐるしい現在、M&Aなどの組織再編・統合や、自社内でも様々な組織変更・部門統合等によって、企業の飛躍的な成長を目指す試みが加速しています。そのダイナミックな変化によってシナジーを生み業績向上が期待できる一方で、従業員のモチベーションを低下させたり、組織内の混乱を招くリスクがあるのも否めません。

組織再編の成否を分ける鍵は何なのか?

コンサルタントとして様々な企業のM&Aに携わってこられたMAVIS PARTNERS株式会社の田中大貴氏と、キャリアの中で多くの組織統合・再編の当事者としてのご経験をお持ちの株式会社i-plugの赤木孝一氏、顧客企業の目標マネジメントを通じた組織活性化支援に取り組んできた株式会社Be&Doの石見によるトークセッションをオンライン配信しました。

当日の内容をダイジェストでご紹介します。

パネラー紹介

  • 田中大貴 氏(画面左上)
    MAVIS PARTNERS株式会社 代表取締役
  • 赤木孝一 氏(画面右上)
    株式会社i-plug 常勤監査役
  • 石見一女(画面左下)
    株式会社Be&Do 代表取締役
  • 橋本豊輝(画面右下)※モデレーター
    株式会社Be&Do 取締役/COO

はじめに

橋本
橋本
本日のテーマは、組織再編の勝敗を分けるマネジメントについて生討論!です。M&Aやグループ内・社内の組織再編などを行う時にハード面の整備は進められる一方で、個人の意識や企業文化といったソフト面は案外忘れられがちなのではと思います。そこで本日は、ソフト面についてそれぞれの視点からお話伺ってまいります。

田中
田中
私はM&Aに関するコンサルティングをしています。M&Aコンサルというと、企業の売り買いで儲けているんでしょと言われるんですが、弊社は仲介業は全くやっておらず、M&Aまわりの問題解決を生業にしています。私自身も、過去にいた会社が買収された苦い経験もあります。そういった経験を活かして、現在組織間のシナジー創出に取り組んでいるところです。
赤木
赤木
現在はベンチャー企業の常勤監査役をやっていますが、これまで転職を多くしています。元々のキャリアは人事から始まっていますが、今の会社も含めてIPO(=新規株式公開)を企業内で立ち上げる仕事をずっとやってきました。その過程の中でけっこう組織再編に巡り会うこともありました。買収された側、買収した側、いろんな立ち位置での経験からお話できればと思います。
石見
石見
Be&Doは、モチベーションテクノロジーで世界の人をイキイキさせたいという思いで作った会社です。今メディア等で注目されているWellbeing(ウェルビーイング)ですが、人の力で業績を高めるには、心身ともに持続的にイキイキした状態(=Wellbeingな状態)を作り出すことが鍵を握ります。Wellbeingな状態を心理的資本を高めていくことで実現する、そしてそれをHabi*doというマネジメントツールでご支援するというのが私たちの事業の骨子です。
心理的資本は”やり遂げる自信”のようなものですが、M&Aなどの組織再編が行われたときに、メンタリティをどうポジティブに変換させていくか?で成否を分けるのではと考えています。

パネルディスカッション

橋本
橋本
M&Aをするときに、組織文化がお互い相容れるのかを事前に調査しようと思うと時間がかかるので後回しになる、と聞いたことがあります。実際に起こり得ることなんでしょうか?
田中
田中
よく言われるところですね。5~6年くらい前まではデューデリジェンスをする中で、組織文化面の調査というのは軽視されがちだったという肌感覚があります。ただ、日本企業が海外企業を買収したり、その逆もしかり、また異業種での買収などをする際に、文化面の違いがボトルネックになるということは、大手企業も気づかれてきているところです。ですので、最近はデューデリジェンスをする際に、自社の文化と買収先の文化の親和性を判断して欲しいというご要望も増えてきています。
橋本
橋本
増えてきたということは、それで上手くいかなかった経験があり、やはり最初に注視しないといけないという認識が広がっているのでしょうか?
田中
田中
おっしゃるとおりですね。10年くらい前は買収後のPMI(≒統合活動)がM&Aの成否を決めるという言い方をされていましたが、今は、そもそも対象企業を買うべきだったか?の見極めが根本原因だったのではないか、という潮流がとても大きいと思っています。こういう特徴の企業は自社には合わないから対象から外そうという意思決定も増えてきた感じがしています。
橋本
橋本
上手くいっている例として、サントリーさんのビーム社の買収を聞いたことがあります。トップ同士がとことん本音での対話をして、現場レベルでのコミュニケーションも重視したと聞き、やはりコミュニケーションが重要ではないかと思いました。一方で、銀行さんの統合は色々な面でうまくいってない、機能していないと聞いたりもします。
赤木
赤木
田中さんがおっしゃる通り、文化については本当に軽視されてきましたよね。良い技術を持っているとか、良い販路を買えば売上が上がるのではというように、業績を重視して買収がなされてきました。PMIもハード面しかやらなくて、ソフト面はたすき掛け人事をすれば何とかなるだろうという安直なやり方をすると、ほとんど上手くいかないですよね。
これまでの経験のなかでこの会社すごいなと思ったのは、過去に対等合併したがうまくいかなかったという経験を以て、合併せずに傘下に10年くらい置いておくという方法をとったところがありました。そうすると見事に文化も統合していって10年後にはうまく合併できたという失敗から学んだ成功例があります。
橋本
橋本
統合されたら自分たちはどうなるんだろうか?など最初は社員はとても不安ですよね。ネガティブな気持ちが先立ってしまう中、モチベーションを上げて生産性高くしていくには、心理的資本が影響するなと思います。
石見
石見
実際、M&Aを最前線で進めているお立場からすると、心理的資本の話は絵に描いた餅のように見えるかもしれないのですが、まさしくメンタリティに着目しないとシナジーは起こらないのではないかと思うんですね。
赤木さんのおっしゃった10年スパンの成果は、果たしてM&Aに求めている成果なのかな?とちょっと思ったりもします。やはりM&Aは早期に成果を出すことを目的に一緒になるのかなと。そうすると、早期にメンタリティの立て直しや、同じ方向を向いて頑張っていく土台づくりも施策として同時に考えていくのことが大事だと思うんですね。
田中
田中
心理的資本はとてもニーズがあると思っています。文化面の話とか従業員の価値観とかは捉えどころがないので、測るための定規が必要です。例えばデューデリジェンスをする際に従業員の価値観のようなものが数量化されていて、かつ買収前と買収後どう変化していってるのか?を経年で長期スパンで計測していくというのはすごく面白いと思います。どの社員層にボトルネックがあるのかも可視化されますよね。
実は、M&Aは3~4年くらい前までは即時の成果を求める目的のものが多かったのですが、最近はSDGsの流れもあり、20~30年スパンでの戦略を描いて欲しいという依頼がくるんです。長期視点で足りないパーツを買っておきたいというM&Aもあります。
石見
石見
M&Aに対してのイメージが悪いのか、勝ち負けみたいな意識が存在しているような気がしていたんです。でも戦略的に重要だからという理由であれば、買われる側もハッピーだなと感じました。
赤木
赤木
将来的にどこに向かって、どうなっていくのかビジョンを見せ続けるということが大切ですよね。よくあるのが、最初の一発花火で終わってしまって、その後は粛々と合理化されていって、思ってたのと違うというパターン。ちゃんとビジョンを語り続けるのは、統合した後のCEOの重要な役割です。
親子会社の合併をした時、親子で似た文化だからうまくいくと皆思っていたのに、うまくいかないということがありました。残念ながら親子という関係ですでに上下関係ができてしまっているんですね。親会社の出身だ、子会社の出身だというのが出てしまっていました。
田中
田中
ちょっと蛇足ですけれど、親子間の壁の高さ・厚さを簡単に判断する方法があるんです。親子間のメールのやり取りで「様」がついている場合は、大概壁が厚いです(笑)。相当気を遣ってます。一方で、うまく統合されてきたんだなというところは「さん」を使っています。
先ほど赤木さんがPMIってハード面の統合しかなされないとおっしゃっていたことに、とても共感しています。国内ではPMIっていうのは、M&A以後の1~2年間のハード面の統合のことを指しているように見えます。利害関係が絡むような、もっと泥臭い部分の統合ってないがしろにされてしまいがちです。でもここに課題が残ると、本来狙いとしていたシナジー効果が起こらなかったりするので、放っておいていいものじゃないんですよね。当社は、その課題解決をセカンドPMIという名称でサービスとして売っています。
買った会社と買われた会社が、”冷めきった夫婦”のごとく遠慮しているなかに入り込んで、再度統合し直すという活動です。
そこで、一番重視しているのは熱量を上げることなんです。冷めきった夫婦は会話しないので、議論にすらならない。言い方は悪いですが、議論をけしかけたり、時には煽るようなこともして、建設的な議論を促すのが第一ステップで大事かなと思っています。
赤木
赤木
経験則から考えると、建設的な議論ってなかなか難しいですよね。1~2年経ってしまうと、全て抑圧されてしまって、お互い関わらないとか。縦割りになってしまうとか。介入するにも責任を問われるのが怖いので見て見ぬふりしてしまうとか、、、。でも抑圧されたものはいずれ何らかの形で問題として顕在化します。
石見
石見
先日買収をした企業先に送り込まれた若い社長さんと話しましたが、着任した途端に買われた側の社員の方々から「何をしたらいいですか」「ご指示ください」ということばかり言われたと聞きました。結局、融合を目指したいのに、食った食われたの世界になってしまって、シナジーが起こりづらい環境ですよね。そこを私たちのサービスを使って、なんとかご支援できないかなと思います。
田中
田中
自分がいた会社が買収された経験がありますが、やはり悔しかったですよね。資本の論理には敵わないのかとも思ったりしました。そんな中でも、親会社を使ってやろうと思ったときうまくいった感覚があったんですね。その時感じたのは、共有のゴールや目標を明確に共有しているとうまくいくのかなということです。
橋本
橋本
買われた側って悔しい思いをしたり、自信を失う時ってありますよね。それを、どう立て直していくんでしょうか。
赤木
赤木
合併みたいな形の場合、合併に至るまでのプロセスが大事かなと思います。
親子上場の事務局をやっていた時に、親子の壁をどう取っ払うかを考えていました。そこでは、新会社を設立して双方解雇ののちに新会社に入社してもらうという方法をとりました。
新会社の社名を決める時に、互いの会社の良いところと悪いところや、引き継いでいくべきところ、捨てるべきところ、どういう方向性の会社にしていくのかを、ワークショップしながらトコトン議論をしました。3ヶ月くらいかけたような記憶があります。これをきっかけにうまく統合していくことができました。やはり、対話が必要ですよね。前準備をしっかりするのも大事かなと思います。
橋本
橋本
組織文化は統一した方がいいのか良いんでしょうか?いいとこどりで新たに作っていくのがいいんでしょうか?それとも全く別のものを作っていくのがいいんでしょうか?
田中
田中
組織文化を統一すべきかどうか、するとしたらどういった場合かということは、過去研究したことがあります。結論だけ申し上げますと、同業種同士か異業種同士かで考え方は変えるべきで、まず異業種M&Aは組織文化の統一はそもそも難しいと考えたほうが良いと思います。同業の場合も、統一すべき場合とそうでない場合があるわけですが、力関係や売り買いの状況見てケースバイケースかなと考えています。
橋本
橋本
複雑さを捉えるなら変化は必ず起きますよね。M&Aだけでなく組織再編にも言えることですが、変化を嫌う人や再編に反対な人は一定数いますよね。こういった人たちにどう働きかけますか?
石見
石見
変化を嫌うのは人間の性としてあると思います。100%賛成ってないので理解し合うための場を作ることが大事ですよね。
田中
田中
今日必ずお伝えしたいことなんですが、実体験やコンサルティングの経験をもとにして、標語を作っています。それが「GPS」です。Gは共通のゴール設計、Pはプロセスですがゴールに至るまでの航路図のようなものを双方で作り上げて握ります。そしてSはシェアです。出自が異なる者同士は阿吽の呼吸は通じませんので、丁寧すぎるくらいに情報や考えることを外に出さないと相手には伝わりません。GPSをしっかり行っていくことがシナジー創出につながると考え、日々のコンサルティングに活かしています。
石見
石見
以前、好業績チームを調査したのですが、好業績チームには3つの共通項があることがわかっています。①目標が明確である②プロセスが共有化されている③メンバー同士お互いに信頼関係があるというものだったんです。GPSのお話と、まさしく重なります!Habi*doの開発コンセプトでもあるのでとても嬉しいです。
赤木
赤木
時間がかかる課題ですが、なぜ抵抗勢力になるかですよね。表面上ではいろいろな理屈を言いますが、背景にあるのは、新しい体制になって適応できないのではないか?立ち位置がなくなるのではないか?といった不安や恐れだと思います。
まずは、そういう存在があるということを認知してあげることが必要です。その上で、新しい体制でもやっていけるということを示してあげるようなコミュニケーションをとっていきます。決して抵抗勢力を排除すべきというようなレッテルを貼ったり、監視するようなことはせず、時間はかかるけれども丁寧にやっていくことだと思います。
よくオフサイトミーティングみたいなものもやりました。徹底的に不平不満を言いなさいと。不平不満を徹底的に言うとどこかで人は変わりますからね。
橋本
橋本
どういう結果を以て、うまくいったという判断をしますか?
田中
田中
うまくいったと判断するためには、まず”シナジー”という言葉の定義を見直す必要があると思っています。シナジーというと本当に玉石混合なんですね。大義名分で使われがちです。ですので、メインシナジーとサブシナジーで必ず分けること。メインシナジーはそもそもM&Aをやろうとした目的に紐づくもの、その他の細かいものはサブシナジーに分けてしまいます。そして主眼はメインシナジーで、メインシナジーにリソースを割くべきだという考えがあります。
しかしメインシナジーを最初から狙おうとしても難しいんです。難しいので、必ずPMIではクイックヒットを仕込みます。効果は小さくても、定性的でも良くて、営業の人集まって研修して知見の共有をしましょうみたいな、、、何でもいいんです。要は一緒になって良かったね!って何回も、接点多く、思わせられるのかが大事。それがメインシナジー創出への馬力につながります。
石見
石見
自己効力感を高めることが心理的資本を高める上でとても大切で、小さな達成体験を積み上げることで自信も得られますよね。いきなり高いところを目指すのではなくて、出来るんだ!という感覚をもって心理的資本高めるんでしょうね。
赤木
赤木
共同プロジェクトをやったりなんかもその一つの成功体験ですよね。これを偶発的ではなくしっかり仕掛けていくのが大事です。なかなか仕掛けられないんですけどね。機会提供をしていくのは経営者です。

質疑応答

即時に業績を高めるために行ったM&Aで、急いでPMIしなければいけない時、ソフト面のアプローチはどんなことをすれば良いでしょうか?

田中
田中
重複するんですが大切なのはGPSとクイックヒットを仕込むことなんです。ただ、協業は現場レベルで好き勝手できることではないので、トップコミットメントが絶対条件です。どれくらい協業活動にリソースを割けるのか、ミッションを担当者に直接伝えられるか。意外にも買ってそのままの経営者は多いですよ。契約したらおしまい。人を送り込んで、そこの経営はそこでやってくださいみたいな感じです。
M&Aには何かしら必ず目的があったはずなのに、ディールに入っていくとM&Aの成功がM&Aの制約に変わっていく現象は大いにあります。M&Aが成功したら、安心しちゃうんでしょうね。

最後に

橋本
橋本
(参加者から)「合併を繰り返したのちに同期同士もバラバラになり、関係性さえも生まれない。従業員同士のイキイキもできなくなりました」というコメントも来ていますが、パネリストの皆さんから最後にコメントをお願いします。
赤木
赤木
合併後にうまくいっていないというお話ですが、合併前もうまくいってないことがたくさんありますよ。常にモニタリングしながら、皆がイキイキ働けるような環境作っていくしかないです。行きつくところは合併うんぬんではなく、組織開発の話です。組織の成立条件で言われる、共通目的、コミュニケーション、貢献意欲と、さっきのGPSは同じようなこと言っていますよね。
田中
田中
会社をまるで家族だと思っている経営陣もいるかもしれませんが、会社は家族ではないですよね。ちゃんと相手が分かるように丁寧にコミュニケーションを取る必要があります。M&Aだったら、なおさら相手には気を遣わなくてはいけない。そこをないがしろにしているというのが根本的にあるような気がしています。従業員のイキイキが生まれないのは、私は、究極は経営陣に責任があるように思っています。
石見
石見
今日はM&Aや組織再編がテーマでしたが、お話を聞けば聞くほど、多様性をどう活かすか?など日常のマネジメントに近い話なんだなと。そこにM&Aや組織再編という事実がくっついているので、余計にメンタリティのマネジメントが大変になっていると感じました。であれば、目標を明確にしてプロセスを共有化して信頼関係を作るというマネジメントサイクルを、経営者任せにせずにしっかり現場で回す。組織マネジメントの重要性を再認識できた時間でした。今日はありがとうございました。