Habi*do通信

設定した目標の難易度は適切ですか?おすすめの目標の立て方とは

期初や月初など部下との面談で目標設定を一緒に検討するマネージャーの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
目標はその立て方次第で、その人の行動や成長に大きく関わるものなのです。
ですが、意外と「どれくらいの難易度の目標が良いか」について教えられることは少ないものです。

今回、あらゆる場面で使えるおすすめの目標の立て方・難易度設定についてご紹介します。
部下の業績を高める・成長を促進するというミッションを持つマネージャーはもちろん、自分自身の目標の立て方を見直したい方にもご覧いただきたい内容です。

様々な目標設定の仕方のフレームワークが存在しますが、共通して使えるポイントです。

根性論の目標設定はNG!

必勝!根性!では難しい

成果に到達する前に諦めてしまったり、達成できないことが続いて「わたしになんて無理なんだ…」と自信を喪失させてしまっているようでは、本末転倒です。

それでも意外と多いのが気合系・根性論な目標設定。
この手の目標は多くの場合、会社の業績目標から各部門、各個人に割り振られる。
選択肢はなく、その目標に対してコミットするかどうかを迫られる。

市場環境や当人の能力を度外視した対前期比の目標設定。自ずと現場の社員にはやらされ感が漂うこともしばしば。

高い目標をあえて立てることもあります(詳細は後述します。)が、上記の場合はマイナスの効果が大きいと言えるでしょう。

具体的なマイナス効果はいくつかありますが、以下の2点はよくあります。

「達成しなくても当たり前」という状態が組織に蔓延しかねないということ。
「どうせ自分には無理」という“学習性無力感”と呼ばれる行動意欲を削いでしまう要因になるということ。

目標は具体的で明確に

「とにかく一生懸命にやれ!」「とにかく上を目指せ!」という目標では、推進力にはなりません。目標は具体的で明確なほど、エネルギーを方向づけすることができるものです。

ある会社の研修会で実施された実験結果がおもしろい。

目標の効果

心理学的経営(大沢武志著)より作成

2つのグループに分けて、それぞれ3分間で1桁の足し算をできるだけ速くやってもらう。一方のグループは次に「本番」として、初回実施分の20%多く計算をすることを目標にしてもらう。もう一方のグループには「できるだけ多く」という目標で取り組んでもらった。

すると、結果は明確な目標を与えられたグループの方が、圧倒的に成績が良かったのです。

ここで20%というプラス目標を設定したのも、重要なポイントです。
これが100%増加(つまり2倍)を目指せと言われれば、無理でしょ!と諦めかねません。

目標は少し背伸びするくらいが良いとされます。

目標はむずかしいほうが良いか、やさしいほうが良いか

目標は高ければ高い方が良いのではないかという反論も聞こえてきますね。
もちろん高い目標を達成したときの喜びはひとしおです。
とはいえ、その高い目標を「私にも達成できそうだ」「私はできる!やれる!」という強い自信がなければ行動には結び付かないものです。

一方で、生ぬるく明らかに達成できるような目標を設定しても、それはモチベーションにはつながりにくい。
やさしい目標を設定するより、むずかしい目標を設定する方が、成績が高まるという実験もあるのです。

目標の効果

心理学的経営(大沢武志著)より作成

先ほどと同じように3分間で自然なペースで計算を行い、次に1つのグループではむずかしい目標を与え、もう一方のグループではやさしい目標を与えて5分間計算を行ったところ、むずかしい目標を与えられたグループのほうが成績が良かったそう。

低い目標よりも高い目標、やさしい目標よりもむずかしい目標の方がモチベーションにつながっていると言えます。

目標設定理論では、モティベーションにとって最も効果的な目標の水準は個人にとって成否の確率が五分五分のとき、つまり、背伸びをすれば届きそうな目標だといわれている。

不可能と思える目標を設定するとき

これまでご紹介してきた話と真逆のようですが、まったく不可能な目標をあえて設定することが効果的な場面があります。

それは現状を否定して、イノベーションを起こすことを求めるとき。

経営の神様と呼ばれる松下幸之助氏は、従業員に改善を求めるときに、創造的破壊ともいうべき課題を与えたといいます。
なぜなら現状の10%~20%の改善では、従来の方法の延長線上でしか物事は変わらないが、リスクを承知の上でとんでもない目標に向かうことで、自己否定・現状否定を行い、革新的なことが起こりえると考えられるからです。

ただし、注意点として、やはり「自分は必ずできる」「ぜったいに諦めずにやり遂げる」というような自信がなければ、この課題をクリアすることはできず、つぶれてしまうだけかもしれません。

いわゆる「レジリエンス」と呼ばれる、失敗したり、へこんでも、跳ね返る力・立ち直る力のようなものがなければ、イノベーションを起こす前にあきらめてしまうでしょう。

※レジリエンスはこちらにて詳述しています。

レジリエンスを高めるために必要なこと~自律型の組織と人材づくりに

ひとりひとりに向き合う目標設定を

ひとりひとりと向き合う

高い目標に調整する土台作りをするためには、ステップバイステップで目標の達成体験を積むことが何より大切になります。
その達成体験の積み重ねが、その人自身の自分に対する自信の明確な根拠となっていくのです。

実はこの「ステップバイステップ」の目標を設定するということが、意外とムズカシイのです。
なぜなら、個々人で目標に対する難易度の捉え方はあくまで主観であるということです。

誰かにとってはカンタンな目標でも、別の誰かにとってはとても難易度の高い目標になるのです。
それは能力的なことかもしれませんし、性格や、経験、志向、環境、心理状態など様々な要因が働きます。

そもそも人というのは機械ではないので、論理だけでは判断ができない複雑性があります。
その複雑性を考えずに、一方的に目標設定をすると、うまくいかないのも当然です。

だから、ひとりひとりに向き合い、それぞれに最適な目標を設定すること。
できれば自分で決めさせる(決める)、または選択肢を用意して選ばせる(選ぶ)こと。

たいへんですが、それがマネジメントをするうえでは重要なのだと思います。

参考文献:心理学的経営(大沢武志著)