新型コロナウイルス感染症拡大により働き方改革・テレワーク推進は一気に加速。
働き方が大きく変わる中、人材の定着、生産性の向上といった観点からも「エンゲージメント」に注目が集まっています。
エンゲージメントを向上させる取り組みは単なる人事施策ではなく経営の根幹に据えるべき重要な課題であるといった認識をしている企業も増えてきました。
しかし「エンゲージメント」という言葉だけが先行して本質の理解が不足していたり、エンゲージメントを高めることでどういった効果・成果に繋がるのかいまいち分かっていないという方も多いのではないでしょうか。
今回は注目を集める「エンゲージメント」についてご紹介します。
目次
エンゲージメントには2種類
「従業員のエンゲージメントを高めるべき」という考え方が広まってきています。しかし実は「エンゲージメント」という言葉にはさまざまな意味が含まれていて、使われる場面によって意味が変わってしまうことも。
エンゲージメントには「ワーク・エンゲイジメント」と「従業員エンゲージメント」の2種類があります。
「ワーク・エンゲイジメント」は、オランダ・ユトレヒト大学のSchaufeli (シャウフェリ)教授らが提唱した概念であり、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3要素がそろった状態として定義されています。
一方で、「従業員エンゲージメント」というのは、従業員が現在働いている会社に対してどれだけ信頼しているか、どれだけ貢献したいと考えているかという愛着を表す概念、熱意や没頭や活力、職務満足なども含み、広く曖昧な意味を持っています。
「エンゲージメント」という言葉が用いられる時、ワーク・エンゲイジメントと従業員エンゲージメントの双方が混ざった状態で捉えられることが多いかと思います。ワーク・エンゲイジメントの方は学術的な定義が存在していますが、従業員エンゲージメントには学術的に合意のとれた定義がありません。
それぞれの企業において同じ「エンゲージメント」という言葉を用いる場合でも重視する点は異なります。それぞれの企業において具体的なエンゲージメントの意味を定義することが必要となります。
採用、離職防止、健康経営、生産性向上…エンゲージメントが注目される背景
エンゲージメントがこれだけ注目、必要とされるようになったのはなぜでしょうか。
組織と個人の関係性
組織と個人の関係性が変化しました。
かつての日本では終身雇用が定着し、ひとつの企業で様々な部署を経験しながら出世、定年まで勤める流れが主流。会社への帰属意識も強く、経営陣や上司が決めたことに従うという傾向がありました。
終身雇用や年功序列が瓦解しつつある今、現代は個人が自律的にキャリアを設計する時代へと移っています。また、組織と個人は「上下関係」ではなく「対等の関係」を構築しています。
働き方も大きな変化を遂げる中、リモートワークの普及、副業の解禁、人生100年時代による就労期間の長期化等を要因とし、働く人の価値観や仕事観も変化をしています。
労働人口減少、中途採用市場の活発化。各企業が貴重な労働力を取り合う状況に。
そして会社が個人を囲い込むのではなく、個人と仕事が直接つながりあう時代に移りつつあります。個人が仕事を通じて組織との関係性を構築するエンゲージメントが重要になっているのです。
モチベーション低下
新型コロナの影響もありテレワークやリモートワークといった働き方が一気に広がりました。働き方改革により労働時間を短縮し効率的に働くことが求められるようにもなっています。
自身や家族との時間ができる、無駄な残業が減るといったメリットもあるものの、単に在宅勤務を制度として導入する、業務の効率化をはかるだけでは、モチベーションの維持はできません。
また、生産性向上・業務効率化が求められており、仕事は分業が進み、細分化されています。経済が発展し、より専門的に役割が細分化されていく傾向が高まっています。
こういった流れは業務効率や生産性の向上が期待できます。しかしその一方で、特定の仕事ばかりを繰り返すことでやる気が削がれてしまい、仕事の全体像が捉えにくくなるためモチベーションの低減に繋がります。
こうしたことから多くの企業においていかにモチベーションややる気を高めるか、が課題となっています。
人が何かをするときの動機づけや目的意識、やる気そのものをさすモチベーション。これらはエンゲージメントとも密接に関わっています。
多様性に対応
画一的なマニュアルによる人材育成、チームのまとまりといった集団凝集性を重んじてきた日本企業。ダイバーシティ・マネジメントが広がりつつある今、従来型のマネジメントを行うことが困難になってきています。
社員の働き方や価値観が多様化する中で、モチベーションの源泉は金銭的報酬のみではなく、人それぞれに多様化してきています。
多様な価値観やライフスタイルを持つ人材を認め、違いを活かしながら組織力を強化することが求められます。様々な人材を雇用し活躍の推進していく、そういった視点からもエンゲージメントに注目が集まっています。
管理職のエンゲージメント
社員の働き方や価値観がどんどん変わってきている中、管理職には自身の軸を持っていながらも、臨機応変な対応、つまり柔軟性が必要。時間管理、働き方の多様性に応えた労務管理、実態に即した人事評価の大幅な見直しなど管理職には多くの役割が求められます。
調査によれば、一般社員たちの8割以上が「管理職になりたくない」と言っています(2020年2月/マンパワーグループ調べ)。
組織の要である管理職自身が「楽しさ」や「やりがい」を感じていなくては、メンバーたちもイキイキと働くことはできません。
管理職のエンゲージメントを高めることも必要不可欠になっています。
エンゲージメントの効果(個人)
エンゲージメントが高まることでどういった効果が企業にもたらさえるのでしょうか。
効果1:離職率の低下
まず1点目に、従業員の離職率が下がるという効果があります。
従業員エンゲージメントと離職率には相関関係があります。
従業員エンゲージメントの高い従業員の離職率は1.2%。従業員エンゲージメントの低い従業員の離職率は9.2%。
エンゲージメントの高い従業員はエンゲージメントの低い従業員と比較して87%離職率が低い。従業員エンゲージメントは離職率の低減につながると言えます。
(CEB社 Corporate Executive Board)「Driving Performance and Retention Through Employee Engagement」レポート より引用)
エンゲージメントが低くなると離職に繋がる可能性が高まります。離職率が高いと、採用コスト増大、育成コストの損失といったことにとどまらず、マンパワーが低下し業績にもつながっていきます。離職意思をもつ従業員が多くなれば、従業員の士気や生産性の低下を招きかねません。
効果2:パフォーマンス向上
2点目、従業員のパフォーマンス向上に繋がります。
エンゲージメントが高い従業員は、自分の仕事に対して感情的な繋がりを持っています。そのため多くの場合、自分たちの提供している製品・サービスに対する誇りをもっています。それらを提供する仕事の質も向上していきます。
ワーク・エンゲイジメント・スコアと個人の労働生産性には、正の相関があることが示唆されています(令和元年版「労働経済の分析」より引用)。エンゲージメントを向上させることが生産性向上につながります。
自己評価のパフォーマンスのみならず、上司や同僚からの評価も高くなるといった結果も出ています。さらに組織コミットメントや、自発的な行動などに関してもエンゲージメントは影響を与えているといった調査結果もあります。ギャロップ社の調査によると、エンゲージメントの高い社員が揃った会社は、一株当たりの利益が同業他社に比べて147%にも達することがわかっています。
エンゲージメントの向上が企業の業績に直接的に関与するというよりは、エンゲージメントが高まることで離職意思が減り、企業の成長に貢献しようとする人材を育成することに繋がる。その結果チームや組織のパフォーマンスが向上へと繋がっていくのです。
エンゲージメント向上のためにまず取り組むべきこととは
エンゲージメント向上のための施策を進めていくためにも、まずは組織の現状を知ることが大切です。適切な現状把握を行うことが求められており、誤った現状認識に基づく施策は効果に繋がりません。
エンゲージメントスコア調査を行い、従業員のエンゲージメントを数値によって可視化します。また、施策を行う際にも並行してスコアを確認することで、施策の効果を検証することができます。
エンゲージメントスコア調査は自社で設問を作成し分析する方法や、コンサルティングに委託する方法、またエンゲージメントサーベイといった組織の状態を可視化する診断ツールを用いることも可能です。
そして何より大切なのは、測定するだけで終わるのではなく、エンゲージメントを高めるために何が必要であるか考え施策に落とし実行していくことです。
これからどういった方向を目指せば会社と個人双方の幸福を実現できるのか。従業員と企業が互いにエンゲージメントを高めるため、模索していくことが求められています。
まとめ
新型コロナウイルス感染症が拡大する中での事業活動の継続。そして多様な働き方、自律的なキャリアの構築が求められています。
複雑で混沌とした社会になるにつれ、エンゲージメントを構築する重要性は依然高まっているのではないでしょうか。
それぞれの企業において「エンゲージメント」においても重視する点が異なるように、何が課題になるのか、どう改善していくのかについては各社各様です。エンゲージメントの必要性を理解し、何が必要か考えるためにもまずは組織の現状を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。