Habi*do通信

【開催レポート】OKRでパフォーマンスは高めることができるのか?~心理的資本セミナーvol.7

OKRでパフォーマンスは他帰ることができるのか?

ビジネス環境の変化が早くなっている現在、従来型の目標管理手法よりも変化に適応しやすく、常にパフォーマンスのマネジメントができるOKR(Objectives and Key Results)の手法に注目が集まっています。

OKRは業績につながる行動を促すことができるのか。人材・組織のパフォーマンスにどのように影響を与えるのか。実際にOKRを実践して感じたメリットや課題はどのようなものなのか。そもそも業績を高めるため必要な組織マネジメントの本来の在り方とは?

今回の「心理的資本セミナー」では、『本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR』著者として知られる株式会社タバネルの奥田氏、実際にOKRをマネジメントに取り入れて事業を推進されているSansan株式会社の小川氏、OKRに試行錯誤で取り組んできた株式会社Be&Doの橋本による、本音トークセッションをオンライン配信いたしました。

当日の内容をダイジェストでご紹介します。

パネラープロフィール

  • 奥田和広 氏(画面左下)
    株式会社タバネル 代表取締役
  • 小川泰正 氏(画面右下)
    Sansan株式会社 執行役員 Eight Career部 部長
  • 橋本豊輝(画面右上)
    株式会社Be&Do 取締役/COO
  • 権基哲(画面左上)※モデレーター
    Con 代表

OKRとは?

最初に奥田さんよりOKRの基本の概要について解説をいただきました。

奥田
奥田
OKRはintel(インテル)で開発されて、Googleが創業間もない時から利用しているということで認知が広がりました。日本ではSansanやメルカリ、freeeといった会社が使っており、最近では花王や静岡銀行といったベンチャー系ではない会社も導入するようになっています。
『OKRはみなさんの最も重要な目標を明確にする。全員の努力のベクトルを合わせ、協力させる。組織全体に目的意識と連帯感をもたらし多様な活動を結びつける』 (ジョン・ドーア)

OKR

奥田
奥田
組織を“共通の目的に対して協力して達成を目指すもの”と定義するのであれば、OKRはまさに組織を強くしてベクトルを合わせるための手法です。
OKRは、1個のObjectives(※以下「O」という)=目的・目標に対して、2~5個のKey Results(※以下「KR」という)=重要な結果指標で構成されます。概ね3ヶ月で達成したいことやどこに向かおうとしているのかをOで表し、その目的をどう達成するのかや目的への進捗をどう把握するのかをKRで表します。ポイントとしては、Oに挑戦的なもの(=ムーンショット)を設定する、KRはあれもこれもと指標を追わず重要なものに集中するということが大事です。

OKRの概要2

奥田
奥田
OKRの特徴の一つは「透明性」です。一般的な目標管理は部門別や個人別でなされ、他部門の内容は見えないということがありますが、OKRでは全社に公開することで、自分の頑張りが全社につながっているということが分かります。
一般的にMBOは人事評価のために使われているかと思いますが、OKRの達成率は人事評価、査定と直接は結びつけないのが原則です。達成率での評価は、挑戦を阻害しかねないからです。

OKRを導入するのはなぜ?

権
ベンチャー系ではない、いわゆるレガシー系の企業がOKRを導入しようとされる理由って、どういうところにあるんでしょうか?
奥田
奥田
いろいろあるのですが、よくお聞きするのは、現行のMBOでは挑戦が促進されない、個人のやる気を目標に結び付けられない、いわゆる会社からの「こういうことが出来たらお給料が上がるよ」というような目標を押し付けられることで、個人のやる気を引き出せないといったことがあります。また、企業を取り巻く環境変化が激しく、年に一度の目標設定でいいんだろうかといったスピード感の課題を持たれている企業様もいらっしゃいます。
権
日頃、見聞きする情報からも大企業も危機意識を持っているという風に感じます。Sansanさんではいつ頃からOKR取り入れていらっしゃるんでしょうか?
小川
小川
2016~2017年にかけてだと記憶しています。当社のカルチャーとして「ベストプラクティスを導入する」という前提があり、ツールに限らずフレームワークもその対象です。当時は会社として新規事業を生み出していく必要があるというフェーズでしたが、なかなか全社員の意識をその方向に向けることができておらず、経営サイドとして注力項目を明確にする必要がありました。
一方では、プロダクトのロードマップをどう描くかが重要で、GoogleやFacebookはOKRを使ってプロダクトを中心としたロードマップを描いているという情報を得て、一気に導入を推し進めることになりました。
権
たしかに新規事業は失敗を恐れずトライ&エラーを繰り返すことが重要である一方、既存事業ではいかに目標達成するかが重要。その両面を合わせようととすると、既存のMBOでは評価指標が一致しなくなったということですね。
Be&Doでは、自社でもOKRを実践していますし、顧客の組織課題も見てきていると思いますが、どうでしょう?
橋本
橋本
ベンチャー企業においては、新規事業を軌道に乗せていくということが重要な成果になりますが、そのために朝礼暮改で試行錯誤することが求められます。ちょうど奥田さんの本も拝読し、OKRを実践してみることとなりました。やってみてすごく良かったなと思うのは、ムーンショットの考え方で、わくわくする目標を掲げて、そこに向けて皆で一致団結してやってみようという、ベクトルを統一しやすいと感じています。
ただ、本来のMBOもOKRもセルフマネジメントツールでありコミュニケーションツールであるのに、評価に結び付けることで上手くいかなくなっている問題です。
実際にお客さまからお話を伺うと、無理やりOKRを評価に繋げようとしてしまって、機能不全を起こしている状況もお見受けします。評価に繋げてしまうと、挑戦はしづらくなりますよね。
権
人事総務や管理する側からすると評価に繋げたいし、メンバー側からしても評価に繋がる目標管理で自分のキャリアを形成したいというニーズも一部にはあると思います。Be&Doとして評価に直接的に繋げないことでやりやすかった点とやりづらかった点はありますか?
橋本
橋本
OKRの達成度は評価には結び付けないというのを徹底していたので、そこは特に難しいということはなかったですが、Oの設定には苦労しました。一人ひとりが納得する目標を立てたり、わくわくするというのも一人ひとりの価値観が違うので、擦り合わせには時間もパワーもかかりました。

OKR、どう運用する?評価制度との関連は?

権
OもKRも正しく設定できているのかということを見返して、変えていかなきゃいけないと思うのですが、特に大企業にとって頻繁に変えるというのはストレスがかかることですよね。どういう運用がいいんでしょうか?
奥田
奥田
私が大企業でオススメしているのは、課のOKRを課員皆で決めるということです。部や課の大きさにもよるんですが、個人単位ではなく課のOKRを一緒になって決めていくの中で課員一人ひとりが自分は何をしようかと考えます。
OKRの図を見るとトップダウンで流れているように見えますが、ボトムアップがいいと書かれている本もあります。ただ、ボトムアップだけで経営が求める水準になるかというと実際はなかなか難しい。そこは対話が必要です。
多い例としては、トップが指針を示して、そこに向かってボトムアップで作っていきます。いきなり個人で作らずに、課やチーム単位でのOKRをメンバーで考えます。そうすることによって、押し付けられた目標に対してどうしようかというのではなく、自分たちはどうしたいのか、そして企業として直面している課題に対してみんなでどうしていくのかという両面を考えることができます。
とはいえ、最初の半年くらいはOKRの設定は難しく、違ったら変えていきましょうということは共通認識にしていただきます。目的を考える機会をどれほど多く持てるか、そうしていくことでブラッシュアップされていきます。半年くらいは辛抱強く頑張っていただくことが必要です。
権
MBOからOKRへの移行や高頻度でOKRを回していくためには、マネジメントの負担がかなり大きそうな印象を受けるのですが、Sansanで導入して良かったことはなんでしょう?
小川
小川
当時は300名程の規模感でしたので、導入にそれほど負荷がかかったという記憶はないんです。2017年から導入しているので3ヶ月に1回を1つのサイクルとすると、これまで16回OKRを回したことになります。
OKRを始めて良かったことの一つ目は、会社がどういう目標を持っていて、それが現場にどう落ちているのかが一本でつながっているので、より効率的に可視化出来るようになりました。二つ目は、3ヶ月に1度回すことによってスピード感をもって仕事ができることです。何回も過去を振り返るということではなく、3ヶ月後に重要でない、要らないと判断したらそれは次のOKRには割り切って持ち越さないということをやっています。三つ目は、挑戦的な目標を掲げられることです。一般的にメンバーは対前年110%くらいの目標を立てがちですが、OKRは達成率6割でいいという考え方なので、150%くらいの目標を立てます。達成率100%なんてなった日には、目標の立て方が間違っていたという風になるくらいです。
当社ではOKRと評価を完全に一致はさせていません。グループOKRにまで落としますが、個人の目標はOKRと関わっている場合もあれば、関わっていないこともあります。個人の役割がきちんと明確になっていることが大切だと思っています。
奥田
奥田
個人OKRまで持つ会社とチーム単位のOKRまで持つ会社と、考え方によって様々です。ずっとMBOが続いてきて、いきなり人事評価を変えるのは厳しいというところは、まずはチームOKRまでで始められるという進め方もあります。
小川
小川
当社でも初めの頃は、個人にまで落としていました。でも、途中でこれは回らない!破綻する!となって、事業をドライブさせるというOKR導入の目的に立ち返り、評価とは切り分けて整理をして、OKRの設定はグループ単位までとしました。
権
SanSanでは、具体的にどんな運用をされているんでしょうか?
小川
小川
具体的なお話をすると、当社は5月が期末なので、5月に社長の寺田を中心にカンパニーOKRをどうしようかという話を取締役会で話していきます。それと同時に事業としてどうしていこうかという話を事業部長と部長陣で話し合います。そうすると5月末頃までには、事業部ごとに次の四半期、何に焦点を当てるのかというのが決まってきます。決める過程の中で、各マネージャーと会話し始めて、こういう方向性になると思うよという話をしておきます。そして最後の細かいところは、例えば営業であれば「その数字はチャレンジング過ぎませんか」とか、開発であれば「そのロードマップはちょっと、、、」みたいな話をして、6月2週目までには確定した状態というスケジュールです。目標の文言は、ワクワクするものをということが大切なので、マネージャーに任せています。
8月には次の四半期に向けて振り返りと設定を行うので、実質2ヶ月のようなイメージです。
目標の難易度の調整も難しいとされますが、当社では期初にはめちゃめちゃチャレンジングな目標を立てて、やってみなきゃ分からないだろうということでやってみて、達成率10%になることもあり、じゃあ次はこんなもんかな~ということを繰り返すと、第三四半期くらいには良い塩梅の目標を立てられるようになります。そして、次の期初にはまた高い目標を立てます。(笑)
権
そういう風にして、段階的に目標の押し付けられ感みたいなものも、解消していくんですね。
小川
小川
そうですね。あとはやはりミッション・ビジョン・バリューが大切で、チャレンジングなことをやる会社だという前提がないとOKRは成立しづらいですよね。あくまでもOKRは手段であるという認識です。

OKRが機能する組織とは?

権
OKRの推進や組織開発が上手くいく組織・いかない組織って、どうなんでしょう?
橋本
橋本
OKRの土台としてとても大事なのが、組織のなかで承認とフィードバックが当たり前になっているかどうかです。OKRは本来、こういう土台を作っていきながら進めるものなんですが、目標の立て方や評価への結び付け方ばかりが注目されてしまっている現状があると思います。OKRは、Communication(コミュニケーション)/Feedback(フィードバック)/Recognition(承認)が大切だとされていますが、それが当たり前にできるかどうかが鍵です。そういう意味では、OKRを通じて、承認とフィードバックの土台を作るところからスタートさせるのも一つの方法です。
権
レガシー系の会社でチャレンジする文化や組織を作っていくにはどうすればいいんでしょうか?
奥田
奥田
カルチャーの土台作るため、承認や心理的安全性を築いて自律的な社員を作ろう、成長志向の社員を作るためにOKRを導入されることがあります。主目的をまずはここに置くんです。こういう場合は個人OKRまで持つことが必須になります。
いずれにせよ、与えられた目標をやってきたというところから、自分たちで、チームで目標を立てようとすると、最初は相当混乱が生じるんです。ただしばらくすると、目的や目標をを話し合ってよかったよね、ってだいたいなります。単に3ヶ月後のことを考えるのではなく、将来どうなりたいか、それならばこの3ヶ月どうするべきかを、チームで一生懸命考えることによって、チームで成長しようとする気運が生まれ出すんです。
橋本
橋本
すごく共感します。そもそも経営者が中長期で考えられているかどうか、失敗を許容するという前提を共有できているかどうかが、スタート時点で大事だと思います。奥田さんがおっしゃる通り、OKRを導入することで、メンバーが試行錯誤する癖づけができたことがすごく良かったです。週始めのチェックインミーティングや週末のウィンセッション(Be&Doではチアアップセッションと名付けています)などで、チームのコミュニケーションのサイクルが出来たのも、OKRがきっかけです。
権
元々チャレンジングな組織が事業をドライブさせるためにOKRを取り入れることもあれば、チャレンジングな組織にするためにOKRを取り入れるということもあるんですね。

質疑応答

マネージャーの力が不充分だと、OKRが機能不全に陥る可能性があると思うんですが、有効な策などありますでしょうか?

小川
小川
OKRを進めるにあたっては、皆で議論するという場面が必ずあります。なのでそういう場を作れない、勝手に決めて進めてしまうマネージャーは厳しいと思います。目標は、何よりも納得感が大切だと思っているので、納得感の醸成には合宿のように丸1日話し合ったり、月に2時間話し込んだりして目線合わせをしています。
当社の場合、マネージャーの登用基準も結構厳しくしています。

会社にはいろいろ考え方の人が働いているので、全員が会社のビジョンに向かって働いているわけではないと思うのですが、このような場合はどうすればいいでしょう?

奥田
奥田
会社から目標を押し付けられていると感じている人に、いざ目標を自分で考えてみてくださいと言うと、意外とそれらが重なっていることに気が付くんです。なので、目標設定を、「重なりを感じる場」として捉えていただくのがいいかと。
実際に個人レベルでミッションやビジョンが明確な人って多くないですので、目標の設定と振り返りを繰返し行うことで、自分のやっている仕事に意味や価値を見出し気づいていってもらえるといいなと思います。
橋本
橋本
会社のビジョンと個人のビジョンの重なりを探すのが、属人的で難しいなと思うこともあります。その中で私たちが注目しているのは「貢献」です。会社に貢献している実感だけでなく、成長している実感でもいいのですが、何かしら会社につながっていると思うので。普段認めてもらう機会が少ないような当たり前の貢献を、ちゃんと蓄積して可視化して感謝を伝えられるような仕掛けが必要だと考えています。
権
今日はいろいろとOKRのことを私も勉強させてもらいました。ぜひ参加者の皆さんも試行錯誤してみていただければと思います。

動画で全編をご覧になりたい方へ