これまで多くの企業は、達成すべきKPIを設定し目標逆算型のアプローチで発展・拡大してきましたが、不確実で将来の予測がしづらい現代においては、この手法がうまく機能しなくなってきています。
先の見えないこの時代こそ、できない理由を数えて諦めるのではなく、今この地点から、目指す目的や志に向かってイノベーションを創出していく、そんな人材が求められているのではないでしょうか。
今回の心理的資本セミナーでは、“イノベーションの伝道師”として活躍されているオムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長の竹林一氏に、12月24日に上梓されたばかりの「たった1人からはじめるイノベーション入門 – 何をどうすればいいのか、どうすれば動き出すのか –」からヒントをお聞きしながら、イノベーション研究会も創設されWell-beingなキャリア形成を探究されているNTT西日本の延原 恒平氏から、自身がイノベーション人材となるためのヒントをご紹介いただきます。組織も個人も挑戦の1年にするために、どんな取り組みが有効なのか?イノベーション人材の条件を本音で議論しました。
2022年1月27日に開催した心理的資本セミナーのレポートとなります。
パネラー紹介
- 竹林 一 氏(画面右上)
京都大学経営管理大学院 客員教授・オムロン株式会社 イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長 - 延原 恒平 氏(画面下)
西日本電信電話株式会社勤務。中小企業診断士。国家資格キャリアコンサルタント - 石見一女(画面左上)※モデレータ
株式会社Be&Do 代表取締役
はじめに
それでは、まず竹林さんから、改めて自己紹介をお願いいたします。
オムロンで新規事業を立ち上げていたり、京大の客員教授したり、「しーちゃんねる」っていうYoutuberやったり、まぁ何やってんのかなっていうことをやっています。この竹林一っていう名前を見て、「これ、たけばやしーって伸ばすんですか?」って聞かれた方がいて、それから「しーさん」って呼ばれるようになりました。
じゃあどんなこと書いてあんのか?っていうと、まずSINIC理論(※)、これからどんな世の中になっていくねんっていうことを、明確に「自律社会になっていく」って書きました。
※SINIC理論:オムロンの創業者・立石一真氏が1970年国際未来学会で発表した未来予測理論。詳細はこちら。
では続きまして延原さん、自己紹介をお願いします。
私は、誰もが自分のフィールドでイノベーションを起こすにはどうしたらいいか?というテーマで社会活動をしているんですが、その中で、個人がイノベーションを起こす上で、関連づける力という「認知」、これが非常に大切だと思っています。
そこで、イキイキするミドルを作ろうとしています。社会構成の中心であるミドルエイジがWell-beingになっていくことでイノベーションが起きますし、子供たちが身近な大人を見た時に「こんな大人になりたいなー」っていう希望も湧いてくるので、自分らしい幸せの本質を探究し、それを連続して成功している起業家の思考様式であるエフェクチュエーションを活用することで、探究が溢れる社会にできないかと思って活動しています。
志を共にする仲間とオンラインサロンをやっているのですが、この活動を2年間実証してきた結果、参加者全員が自己肯定感を高め、自己効力感を持つことができ、加えてWell-beingになって、さらに自分のイノベーションへのストーリーを1歩踏み出すことができました。
こちらは探究パラメーターといわれる、心の状態に応じた探究する人との関わりの図で、この青字で囲んでいるところが、オンラインサロンでやっていることなんですけど、この関わりが自分の状況に応じてあることによって、段々とWell-beingに近づいていくんです。
これから、この取り組みでわかったことを学べる学び舎を作って、もっとイキイキするミドルを増やしていきたいと思います。そうすれば、イノベーターが生まれて、今ちょっと経済合理性が難しくなっている日本社会の分野においても、1歩踏み出す兆しができるのではないかなと思います。もしご興味がありましたら、私たちの探究にあいのりいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
こういうお二人といろいろ議論していくのですが、まず、この本、「イノベーション入門」とありますが、しーさん、イノベーションって、何なんでしょうか。
イノベーションとは何か?
例えばオムロンには共通言語があるんですよね。オムロンにとってのイノベーションっていうのは、1933年創業のときに「ソーシャルニーズの創造」「社会的な課題の解決」って定義されているんですよ。今また社会的課題っていうのが流行ってますけど、1933年から「社会の課題を解決したらイノベーションが起こったと言います」とオムロンでは決まってるんです。定義がされていないのに、イノベーションが起こったかどうかなんてわかりませんよね。
もともとイノベーションって、シュンペーターさんが「新結合」って言わはったんですよね。つまり、いろんなものと結合したらなんかおもろいことが起こるでと。日本のことわざで「三人寄ったら文殊の知恵」って言いますけど、1×1×1は1なんですよ。だから2の人とか3の人と一緒にやらないと、同じ1の人たちが集まってアイデア出したってあかんから、いろんな人と結合しーやって言うてはるんですよね。
私が尊敬する、日本を代表するイノベーターの濱口秀司さん曰く、一つ目としては、新しいものである。二つ目としては、それが実現できる。最後は、議論を呼ぶもの。つまり賛否両論分かれるものでないと、新しい結合じゃないと。その中で僕がおもしろいなと思ったのは、市場をひっくり返すような破壊的イノベーションって言われるものは、既存の人からすると「あれは、オモチャやで」と言われるものがポイントじゃないかなと思うんですよね。最初はオモチャであっても、だんだんと時間が経ち、技術革新によってメインストリームにのし上がってくる。
イノベーション人材と、エフェクチュエーション
そこで、延原さんから教えてもらったエフェクチュエーションっておもしろいなと思って、京大で吉田満梨先生にも学ばせてもらってるんですけど、その時に、これは「わらしべ長者」の話やなと思ったんですよね。
世界の起業家がなぜ成功したか?っていうと、こんな世界を作りたいっていうWillがあって、そのWillを温めたからこそ、そこにエンジェル投資家が出てきたんやろうなって思うんですよね。ここがわらしべ長者の話の一番のポイントちゃうかってね。
みなさんにWillは何か?って聞くと、Willってかっこよくなければいけないような印象を持ってしまうんですけど、私たちはそうではないと思っていて、むしろ本当に自分はこうだったらいいなと思ってる素直な思いがその時点のWillなんだと。まさしくしーさんのこの本にも「Willはそんな立派なものじゃなくていい」と書いてあって、めちゃめちゃ嬉しかったです。
さっきの延原さんの話で面白いなって思ったのは、やはり子供の頃って夢がいっぱいあるんですよね。「起承転結(※)」って僕はよく言いますけど、起が0から1を思いついて、承が構想デザインできる、転結がそこで決められたことをきっちりやるという、そういう適材適所がある。どちらかというと、決められたことをきっちりやるのは武士の文化で、失敗したら切腹せなあかん。でも、起承のところは忍者の文化で、やりながらトライアンドエラーしていく。どっちも重要なんですけど、でもね、子供の頃って全員「起承」ちゃうかなって思うんですよ。子供の頃って忍者ごっこはするけど、武士ごっこはしないですもんね(笑)。でも、大人になる過程で「転結」を徹底的に叩き込まれていくうちに、「起承」を忘れていくんじゃないかなって。
※起承転結とは、しーさんが提唱する企業における人材の4つの役割で、それぞれ以下のような人材を指す。
起:0から1を仕掛ける、アイデアを妄想し、行動する人材
承:1をN倍化する事業の構造をデザインする人材
転:1をN倍化する過程で効率化、リスクを最小化する人材
結:仕組みをきっちりオペレーションする人材
「巻き込まれ力」がWillを作る?!
実は僕はWillで動いてるように見えて、誰かに巻き込まれてるんちゃうかなとも思うんですよ。エフェクチュエーションも延原さんに巻き込まれてるのかもしれないし、心理的資本も石見さんに巻き込まれてるのかもしれないし。
で、ある程度までいったら、それ以上できひんから引き算に入れと。これは僕に合うけどこれは合わへんっていうのを引き算していくと残っていくんですよ、アドバルーンのバルーンが。仕事の報酬は、そのアドバルーンとか十八番(おはこ)、つまり自分の得意技が出てくるってことなんですよね。
得意技が出てくると、今度掛け算が起こるって言うんですよ。俺これ得意やけど、あれが得意な彼が必要やで、ていうので掛け算が起きる。その時の仕事の報酬は仲間、リスペクトできる仲間ができるんですよね。どっちが上とか下とかじゃなく、この領域は延原さんやとかこの領域は石見さんやとか、それで掛け算が起こってくるって言うんですね。
掛け算が起こってると最後は割り算になるって。割り算って何かと言うと、色々尖って最大公約数が見えてくるんですよ。そうなると仕事の報酬は自由やって言うてるんですよね。僕はYoutuberとかいろんなことやってるんですけど、でもやってることは一緒なんですよ。発信方法が違うだけで、「どうやって軸を作っていくか、その軸を変えることによってイノベーションの先の価値を変えていくか」、それをベースに発信したり、自分の会社では新規事業立ち上げたり、それを理論化したりしているだけで、公約数は一緒なんですよね。
最初からWillがわからなくても、いろんな仕事受けてたらこれ合う合わへんっていうの出てくるじゃないですか。自分の経験則の中だけじゃなくて、いろんな人の話聞いたり、いろんな仕事を受けてたら、この中にまた合うやつあるかもしれないんですよね。
組織の空気を変えるには、空気清浄機が必要
このウェビナー前に、お二人と「ある種、コロナが一気に世界を早めてくれたよね」っていう話をしてたんですよね。例えば高度IT化時代なんてずっと前から言われてたし、でも在宅勤務が難しいとか言われてたのが、このコロナで一気に「できるやん」っていう世界になってきた。いったいこれまで何が阻害してきたんだろう?どうすればその阻害要因を取り除けるんだろう?って話をしていましたが、それに関連してお話していただけますか?
僕自身もヘルスケアビジネスを立ち上げた時に、同業界の人とだけだと新しい風が入ってこないので、夜はエステ業界の会長とか温泉協会の会長とかと喋ってたんですね。温泉とヘルスケアの関係性の話をする中で、人が来なくなった温泉地をどう変えるか?って、そんなところにアイデアがあって、おもろいなと思ったら会社に来てもらって話してもらうとか、そういう空気清浄機ってものすごく良いと思ってて、何もないのに勝手に空気は良くならないですから。
絶対に誰かが何かを仕掛けない限り、何も起こらないですね。空気清浄機を持ってくるか、誰か窓を割るやつが出てきたらその窓から新しい風が吹いてくるんやけど、でもまあ最初はね、寒いとか蚊が入ってくるとか言うて怒る人いるんですよ。でも、何かの仕組みをしないと末端の空気はよどんできますから、誰かが窓を開けたりすることをデザインしないと、勝手には良い空気は入ってこないですよね。
組織を変える「起承転結」の人材活用
だからこういう人には徹底的に「起」だけやらせてあげて、そこから「承」でベンチャーが立ち上がってきたら「転結」の人が必要になる。でもそんなお金払って雇われへんって言うなら、副業者がベンチャーを「手伝いまっせ」って、そこで新しい技術を学びながら手伝って、そんなんが回り始めると、さっき言った「混ぜないと危険」っていう世の中がやってくるんやろうなって。でもそれもやはりデザインしていかないと勝手に混ざらないんでね。
先ほどのエフェクチュエーションの話もそうなんですけど、セーフティゾーン、チャレンジゾーン、パニックゾーンがある中で、パニックゾーンに行かずに、いかにチャレンジゾーンを増やしていくのかが大切なのかなと。私自身も社内ダブルワークとして、本業とは別に新規事業開発の業務にも携わらさせてもらっていますが、そういった許容可能な損失の範囲を広げていくと、組織の中でもチャレンジゾーンを増やす方法があるんじゃないかなと思います。
※「中年の危機」とは、中年期に 「自分の人生は本当にこれで良いのだろうか?」などと考え、これまでの生き方や自分自身に自信がなくなったり、悩んだりしやすくなること。
質疑応答
私はそこに何かサポートができないかなと思っており、キャリアコンサルタントの資格も持っているので、オンラインサロンでは丁寧にそれぞれの人生のライフストーリーを聴き、自分自身のアイデンテティを一緒に育んでいきながら、自分のやりたい自律的な探究軸を見つけてもらい、Well-beingな生活をしてもらおうという活動をしております。