Habi*do通信

【開催レポート】新しい価値を創出するイノベーション人材の条件。組織も個人も挑戦の1年にする!

これまで多くの企業は、達成すべきKPIを設定し目標逆算型のアプローチで発展・拡大してきましたが、不確実で将来の予測がしづらい現代においては、この手法がうまく機能しなくなってきています。

先の見えないこの時代こそ、できない理由を数えて諦めるのではなく、今この地点から、目指す目的や志に向かってイノベーションを創出していく、そんな人材が求められているのではないでしょうか。

今回の心理的資本セミナーでは、“イノベーションの伝道師”として活躍されているオムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長の竹林一氏に、12月24日に上梓されたばかりの「たった1人からはじめるイノベーション入門 – 何をどうすればいいのか、どうすれば動き出すのか –」からヒントをお聞きしながら、イノベーション研究会も創設されWell-beingなキャリア形成を探究されているNTT西日本の延原 恒平氏から、自身がイノベーション人材となるためのヒントをご紹介いただきます。組織も個人も挑戦の1年にするために、どんな取り組みが有効なのか?イノベーション人材の条件を本音で議論しました。

2022年1月27日に開催した心理的資本セミナーのレポートとなります。

パネラー紹介

  • 竹林 一 氏(画面右上)
    京都大学経営管理大学院 客員教授・オムロン株式会社 イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長
  • 延原 恒平 氏(画面下)
    西日本電信電話株式会社勤務。中小企業診断士。国家資格キャリアコンサルタント
  • 石見一女(画面左上)※モデレータ
    株式会社Be&Do 代表取締役

はじめに

石見
石見
さて今日は、「イノベーション人材ってどんな人?」ということについて、竹林さんと延原さんと3人で議論していけたらと思っています。そして今日ご参加の皆さんに、アンケートでご希望いただいた方の中から抽選で、末広がりの8名様に、竹林さんの書籍「たった1人からはじめるイノベーション入門」をプレゼントさせていただきたいと思います。
それでは、まず竹林さんから、改めて自己紹介をお願いいたします。

竹林(以下、しーさん)
竹林(以下、しーさん)
みなさん、こんにちは。今日多くの方に聞いていただいていますが、昼のこれから寝るぞーって時間ですよね。ちゃうか(笑)お昼ご飯食べてまったりしてるところで、仕事もあるところを本当にありがとうございます。
オムロンで新規事業を立ち上げていたり、京大の客員教授したり、「しーちゃんねる」っていうYoutuberやったり、まぁ何やってんのかなっていうことをやっています。この竹林一っていう名前を見て、「これ、たけばやしーって伸ばすんですか?」って聞かれた方がいて、それから「しーさん」って呼ばれるようになりました。

しーさん
しーさん
昨年、この「たった1人からはじめるイノベーション入門」という本を書かせていただきました。今日8冊プレゼントいただけるみたいですよね。ありがとうございます!「私はもう買ったよ」って言う人も、プレゼント応募してもらってですね、この人を仲間にしたい!って思う上司の机に置いておくっていう手はありますね(笑)1冊持ってるからいらんじゃなくて、これどうやって使ったろかなっていう、これもワクワクのアイデアですよね。
じゃあどんなこと書いてあんのか?っていうと、まずSINIC理論(※)、これからどんな世の中になっていくねんっていうことを、明確に「自律社会になっていく」って書きました。

※SINIC理論:オムロンの創業者・立石一真氏が1970年国際未来学会で発表した未来予測理論。詳細はこちら

しーさん
しーさん
さらに、わらしべ長者になろうとか、忍者と武士の話とか、たんぽぽの話とか、、、何の本やねん?って感じなんですけど、理論的なイノベーションではなくて、ずっと生き抜いていくってことについて書いています。ビル・ゲイツとか稲盛さんじゃなくて、普通のサラリーマンのおっちゃんが書いた本なんですよね。日々会社に行ってたら、そら嫌な上司もいまっせ、いっぱい壁もあるし見えない壁もありまっせ。じゃあどうやってこんな楽しくやってきたんやっていうようなことを書いたので、今日はそんな内容をベースにしながら、イノベーションって何だとか、一人ひとりが何すんねんとか、組織って何やねん?っていうのを考えていきたいと思います。
石見
石見
ありがとうございます。ほんとに、掴みからさすがイノベーションですね!まさか2冊目を上司にっていう、そんな発想はなかったので、もう頭からやられました。ありがとうございます。
では続きまして延原さん、自己紹介をお願いします。
延原
延原
みなさんこんにちは、延原です。私は「イノベーションのジレンマ」を監修された玉田先生と一緒にイノベーション研究会をやらせていただきました。その私が今Well-beingに着目している点を、自己紹介がてらにご説明させていただけたらなと思っています。
私は、誰もが自分のフィールドでイノベーションを起こすにはどうしたらいいか?というテーマで社会活動をしているんですが、その中で、個人がイノベーションを起こす上で、関連づける力という「認知」、これが非常に大切だと思っています。
© KOUHEI NOBEHARA 2022
延原
延原
イノベーティブな認知には、好奇心やポジティブな感情等が非常に大きな影響を与えることから、持続的な幸せ=Well-beingに着目したんですね。幸せな人は創造性が3倍、生産性31%、売り上げが37%高くなるということがわかっているので、イノベーションを個人で起こしていくなら、先にWell-beingになったらいいんじゃないかっていうのが今のテーマです。
そこで、イキイキするミドルを作ろうとしています。社会構成の中心であるミドルエイジがWell-beingになっていくことでイノベーションが起きますし、子供たちが身近な大人を見た時に「こんな大人になりたいなー」っていう希望も湧いてくるので、自分らしい幸せの本質を探究し、それを連続して成功している起業家の思考様式であるエフェクチュエーションを活用することで、探究が溢れる社会にできないかと思って活動しています。
志を共にする仲間とオンラインサロンをやっているのですが、この活動を2年間実証してきた結果、参加者全員が自己肯定感を高め、自己効力感を持つことができ、加えてWell-beingになって、さらに自分のイノベーションへのストーリーを1歩踏み出すことができました。
こちらは探究パラメーターといわれる、心の状態に応じた探究する人との関わりの図で、この青字で囲んでいるところが、オンラインサロンでやっていることなんですけど、この関わりが自分の状況に応じてあることによって、段々とWell-beingに近づいていくんです。
© KOUHEI NOBEHARA 2022
延原
延原
まず最初に、小さなやりたいことを行動していく。先ほど、しーさんの話にもありましたが、わらしべ長者になって、どんどんスパイラルアップしていくことで自分軸ができる、それがWell-beingにつながっていき、イノベーションが生まれるっていうことがわかってきました。
これから、この取り組みでわかったことを学べる学び舎を作って、もっとイキイキするミドルを増やしていきたいと思います。そうすれば、イノベーターが生まれて、今ちょっと経済合理性が難しくなっている日本社会の分野においても、1歩踏み出す兆しができるのではないかなと思います。もしご興味がありましたら、私たちの探究にあいのりいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
石見
石見
ありがとうございます。図の中にあった「自己加温」?が興味深いなと思ったのですが、自分を温めるってことですかね?
延原
延原
そうですね。まず自分を温めないと1歩踏み出せないので、そこがスタートかなと思います。
石見
石見
なるほど。おもしろい視点ですね。ありがとうございます。
こういうお二人といろいろ議論していくのですが、まず、この本、「イノベーション入門」とありますが、しーさん、イノベーションって、何なんでしょうか。

イノベーションとは何か?

しーさん
しーさん
僕は、イノベーションって何か?が共通言語になってるかが重要だと思ってるんですよね。イメージだけでいくと、イノベーションは飽きたからトランスフォーメーションしようかとか、トランスフォーメーションに飽きたらまた違う言葉が出てきたりしますから。その度に、コンサルの人と本が売れるんです(笑)
例えばオムロンには共通言語があるんですよね。オムロンにとってのイノベーションっていうのは、1933年創業のときに「ソーシャルニーズの創造」「社会的な課題の解決」って定義されているんですよ。今また社会的課題っていうのが流行ってますけど、1933年から「社会の課題を解決したらイノベーションが起こったと言います」とオムロンでは決まってるんです。定義がされていないのに、イノベーションが起こったかどうかなんてわかりませんよね。
もともとイノベーションって、シュンペーターさんが「新結合」って言わはったんですよね。つまり、いろんなものと結合したらなんかおもろいことが起こるでと。日本のことわざで「三人寄ったら文殊の知恵」って言いますけど、1×1×1は1なんですよ。だから2の人とか3の人と一緒にやらないと、同じ1の人たちが集まってアイデア出したってあかんから、いろんな人と結合しーやって言うてはるんですよね。
石見
石見
おもしろい!そうかー、1×1×1は1ですもんね。
しーさん
しーさん
ダイバーシティが必要やって言うんですけど、その本質は何や?っていうのをわかっといた方がいいなって思うんです。洗剤とかでは、いろんなやつと「混ぜたら危険」っていうのありますよね。でも今の世の中は「混ぜないと危険」なんですよ。だからそういう混ぜる仕組みをどう作っていくのかっていうのが、イノベーションの根本の根本ですね。
石見
石見
なるほどー!しーさんの本に書かれている「イノベーション、席についたらオペレーション」っていう、あの標語がめちゃめちゃ面白くて(笑)
しーさん
しーさん
ホンマにイノベーションしたら怒られたりね(笑)
石見
石見
ありがとうございます。延原さん、現場からするとイノベーションって、どんなふうに捉えていらっしゃるんでしょうか?
延原
延原
先ほど、しーさんも言われたとおり、やはり新結合で新しい価値を作り出すことなのかなと。これまでの同じパターンじゃない認知で関連づけるっていうのが非常に大切なのかなと思っているんですよね。
私が尊敬する、日本を代表するイノベーターの濱口秀司さん曰く、一つ目としては、新しいものである。二つ目としては、それが実現できる。最後は、議論を呼ぶもの。つまり賛否両論分かれるものでないと、新しい結合じゃないと。その中で僕がおもしろいなと思ったのは、市場をひっくり返すような破壊的イノベーションって言われるものは、既存の人からすると「あれは、オモチャやで」と言われるものがポイントじゃないかなと思うんですよね。最初はオモチャであっても、だんだんと時間が経ち、技術革新によってメインストリームにのし上がってくる。
石見
石見
結局最初は「なんじゃこりゃ?」と思っているものの中に、実はすごいタネが入っているってことなんですね。

イノベーション人材と、エフェクチュエーション

石見
石見
今回のテーマ、イノベーション人材ってどんな人?っていうところがカギですよね。個人の側も、「イノベーションやれ」って言われても、どうやってそれ考えたらいいの?って悩むところがあると思うんです。しーさんの本で「Will」っていうことが書かれていましたが、先が見えないからこそ「Will」が大事だと私もすごく共感しました。延原さんがおっしゃる「エフェクチュエーション」も重要になってきますよね。ゴールからブレークダウンして考えられないってなると、自分がどうありたいとか、要するに自分軸で考えないと、イノベーションも自分自身も成り立っていかなくなると思うんですけど、そのあたり、しーさんはどうお考えでしょうか。
しーさん
しーさん
「イノベーション起こしたるで」って言ってイノベーション起こしてる人って、僕はいないと思ってるんですよ。ほんまのイノベーターって、こんな世界を創りたいとか、ここがみんな困っているからなんとかしたるんやとか、それが起点にある。イノベーションもデジタルトランスフォーメーションもトランスフォーメーションも、全部手段なんですよね。この課題を解決したいとか、社会に貢献したいっていうのが、結果としてイノベーションになっていくと。
そこで、延原さんから教えてもらったエフェクチュエーションっておもしろいなと思って、京大で吉田満梨先生にも学ばせてもらってるんですけど、その時に、これは「わらしべ長者」の話やなと思ったんですよね。
しーさん
しーさん
わらしべ長者の話では、観音さんが夢枕に出て「1番最初に拾ったものを持って歩け」って言うんですね。で、このとき拾ったものがわらしべだったんです。で、わらしべ持って歩いてたら、アブが飛んできたからアブにわらしべを巻いて歩いてたら、泣いている赤ちゃんを背負ってるお母さんがやってきて、わらしべに巻いたアブがブンブン回ってるのを見た赤ちゃんが泣き止むんですね。で、代わりにみかんを3つあげるからそれをくれと。今度みかん持ってたら喉が乾いた商人と会って、そのみかんが反物に代わっていくんですけど。
しーさん
しーさん
ちょうど先日、京大で他の教授と「エフェクチュエーションとわらしべ長者」について話してたら、ある人が、わらしべ長者のベースになる「今昔物語」では、観音さんが出てくる前に話があるんだって言うんですよ。主人公の若者はとっても貧乏で家族もいなくて、どうしたらこの貧乏から抜け出して良い生活ができるのか、21日間考え倒したらしいんですね。で、考え倒した時に観音さんが出てきはるんですよ。それがひょっとしたら、見てくれてる上司であったり、投資家であったりするんじゃないか?って思ったんです。ただ単に観音さんに気に入られて、わらしべ持って歩いてたらエリート路線に乗って屋敷が手に入りました、っていう話じゃなくて、その前にWillがあったんだってことなんです。エフェクチュエーションのベースには、こんな風にWillがあるんだと思うんですね。
世界の起業家がなぜ成功したか?っていうと、こんな世界を作りたいっていうWillがあって、そのWillを温めたからこそ、そこにエンジェル投資家が出てきたんやろうなって思うんですよね。ここがわらしべ長者の話の一番のポイントちゃうかってね。
石見
石見
めちゃめちゃ面白いですね。わらしべが起点ではなくて、その前に思いがあったと。先ほど延原さんが冒頭で示していただいた資料の中にも、真ん中に「志」って書いてありましたけど、あれはやはりWell-beingなキャリア自律のカギなんですか?
延原
延原
そうですね。でも、じゃあ「Willを出せ」って言われてもそんな教育も受けてきてないし、どちらかというと、私たちは一人前になるという同質性が求められてきたじゃないですか。でも、これからは個性の時代として、人より一歩前へと、一人前(ヒトリマエ)になることが求められ、そこに進むために、Willをどのように見つけるかというと、それはおそらく、自分の中にある過去の宿題じゃないかなと思っています。過去の宿題って、子供の時にやりたかったことで親や周りに反対されて止まってしまったことがあるんですね。そういった周囲からの「他分」を脱いで、「自分」になることからスタートする。そのために、自分を温めることが大切なのかなって思っています。
石見
石見
そこで自分を温めるっていうところが出てくるわけですね。実は、当社のサービスのベースにある「心理的資本」っていう考え方においても、「Hope」ーWillパワーとWayパワーって言うんですけど、こうありたい自分(Will)とありたい自分にどう近づくのか(Way)っていうことを考えて高めていくことが、やはり心理的資本を高めていくっていうのがあるんです。
みなさんにWillは何か?って聞くと、Willってかっこよくなければいけないような印象を持ってしまうんですけど、私たちはそうではないと思っていて、むしろ本当に自分はこうだったらいいなと思ってる素直な思いがその時点のWillなんだと。まさしくしーさんのこの本にも「Willはそんな立派なものじゃなくていい」と書いてあって、めちゃめちゃ嬉しかったです。
しーさん
しーさん
「やりたいこと100連発」って僕は言うんですが、誰々に会いたい、というのも1個のWillですよね。あの本読みたいっていうのも1個のWill。そのいくつものWillの中からだんだん風が吹いてくると、またWillが見えてくるんじゃないかなと思ってるんですよね。
さっきの延原さんの話で面白いなって思ったのは、やはり子供の頃って夢がいっぱいあるんですよね。「起承転結(※)」って僕はよく言いますけど、起が0から1を思いついて、承が構想デザインできる、転結がそこで決められたことをきっちりやるという、そういう適材適所がある。どちらかというと、決められたことをきっちりやるのは武士の文化で、失敗したら切腹せなあかん。でも、起承のところは忍者の文化で、やりながらトライアンドエラーしていく。どっちも重要なんですけど、でもね、子供の頃って全員「起承」ちゃうかなって思うんですよ。子供の頃って忍者ごっこはするけど、武士ごっこはしないですもんね(笑)。でも、大人になる過程で「転結」を徹底的に叩き込まれていくうちに、「起承」を忘れていくんじゃないかなって。

※起承転結とは、しーさんが提唱する企業における人材の4つの役割で、それぞれ以下のような人材を指す。
:0から1を仕掛ける、アイデアを妄想し、行動する人材
:1をN倍化する事業の構造をデザインする人材
:1をN倍化する過程で効率化、リスクを最小化する人材
:仕組みをきっちりオペレーションする人材

延原
延原
私もしーさんと出会って、先ほどおっしゃった「やりたいこと100連発」、これをやってみようと思ったんですよね。で、昨年1年間やったんですけど、ほんとに些細なことでも行動していくことで、やはり風が吹くんですよ。どんどんエフェクティブに変化が起こっていくので、まず難しいことを考えずにやりたいことをやってみるのが非常にWell-beingになるんじゃないかなと思っています。
しーさん
しーさん
それを回している間に、だんだん本質的なWillが見えてくるかもしれないしね。
石見
石見
やはりそう考えると、何らかの思いはベースにあるものの、それをアクションに繋げていかないと実際はダメだってことなんですよね。
延原
延原
先ほど、冒頭に説明させてもらったイノベーションのDNAの図なんですけど、一つだけが「認知」で、あとは「行動」なんですよね。やはり行動しないとスパイラルアップしていかないので、その行動するための理論がエフェクチュエーションなのかなと思っています。
石見
石見
まず自分の思いに気づくフェーズがすごく大事で、気づいたら動いてみると何かが見えてくると、そこから回していくことがすごく大事なんでしょうね。

「巻き込まれ力」がWillを作る?!

延原
延原
もう一つは、やはりそういう人たちと一緒にいる、仲間がいるということかもしれないですね。最初は自分自身にWillがなくても、周りにWillのある人がいて、巻き込まれていくとか、それも大切なんじゃないかなと思いますね。
しーさん
しーさん
エフェクチュエーションの議論のときに「巻き込まれ力」っていう話をされている人がいたんですが、誰かのWillでリーダーシップをとって始めるんですけど、その周りにはいっぱい仲間が出てくるし、そういう巻き込まれてくれる人も必要ですよね。で、巻き込まれるためには、ヒマそうなふりをしておくと声がかかるんですよーって言ってたんですよ。
実は僕はWillで動いてるように見えて、誰かに巻き込まれてるんちゃうかなとも思うんですよ。エフェクチュエーションも延原さんに巻き込まれてるのかもしれないし、心理的資本も石見さんに巻き込まれてるのかもしれないし。
石見
石見
巻き込まれていくには、やはり自分に魅力がないと巻き込んでくれないですよね。「この人はこういうふうに巻き込んだらおもろいんちゃうか」と思わせるものも必要でしょうか。
延原
延原
そうですね。例えばアドバルーンを上げるみたいに、自分はこういうことができますって、相手に掴みやすい形にしておくのが大事かもしれないですね。
しーさん
しーさん
僕の本の帯を書いてくれた楽天大学学長の仲山進也さんが、以前出された本(「組織にいながら、自由に働く。」)の中で、「加減乗除の法則」って言ってはるんですよね。Willがなくても、来る仕事を何でもいいから断らんといっぱいいろんな仕事してたら、そのうちに「あいつに言うたらやりよるで」と仕事が与えられる、そうなったらいろんなことを経験していけるんですよね。
で、ある程度までいったら、それ以上できひんから引き算に入れと。これは僕に合うけどこれは合わへんっていうのを引き算していくと残っていくんですよ、アドバルーンのバルーンが。仕事の報酬は、そのアドバルーンとか十八番(おはこ)、つまり自分の得意技が出てくるってことなんですよね。
得意技が出てくると、今度掛け算が起こるって言うんですよ。俺これ得意やけど、あれが得意な彼が必要やで、ていうので掛け算が起きる。その時の仕事の報酬は仲間、リスペクトできる仲間ができるんですよね。どっちが上とか下とかじゃなく、この領域は延原さんやとかこの領域は石見さんやとか、それで掛け算が起こってくるって言うんですね。
掛け算が起こってると最後は割り算になるって。割り算って何かと言うと、色々尖って最大公約数が見えてくるんですよ。そうなると仕事の報酬は自由やって言うてるんですよね。僕はYoutuberとかいろんなことやってるんですけど、でもやってることは一緒なんですよ。発信方法が違うだけで、「どうやって軸を作っていくか、その軸を変えることによってイノベーションの先の価値を変えていくか」、それをベースに発信したり、自分の会社では新規事業立ち上げたり、それを理論化したりしているだけで、公約数は一緒なんですよね。
最初からWillがわからなくても、いろんな仕事受けてたらこれ合う合わへんっていうの出てくるじゃないですか。自分の経験則の中だけじゃなくて、いろんな人の話聞いたり、いろんな仕事を受けてたら、この中にまた合うやつあるかもしれないんですよね。
石見
石見
結局それが「巻き込まれ力」になってくるし、気がつけばめちゃちゃ自力がつきますよね。
しーさん
しーさん
そうそう、だからうまくいってる人っていうのは、掛け算が起こり始めてるんですね。わらしべ長者も単に出会ってるんじゃないと思うんです。いかにキーマンに出会ってるか?なんですよ、あれは。
石見
石見
加減乗除の話は、自分の中にWillをどうやって持てばいいんだろうって思う人に、めちゃめちゃヒントをいただけたような気がしますね。

組織の空気を変えるには、空気清浄機が必要

石見
石見
今、世の中的に組織として「イノベーションを起こさなきゃモード」っていうのがあって、それ自体ナンセンスやって話ではあるんですけど、やはり一種の焦りみたいのがあると思うんです。どうやったら環境を変えられるんやろなっていう話ができたらいいなと思っています。
このウェビナー前に、お二人と「ある種、コロナが一気に世界を早めてくれたよね」っていう話をしてたんですよね。例えば高度IT化時代なんてずっと前から言われてたし、でも在宅勤務が難しいとか言われてたのが、このコロナで一気に「できるやん」っていう世界になってきた。いったいこれまで何が阻害してきたんだろう?どうすればその阻害要因を取り除けるんだろう?って話をしていましたが、それに関連してお話していただけますか?
延原
延原
僕はイノベーションの本質的なところって「認知」だと思ってるんですよね。組織って長年重ねてきたものがあるので、認知が固定的になってバイアスが生まれてしまうのかなと。その結果、忖度が働いて空気読めよって話になってしまうと思うんです。だから、空気清浄機が必要なんじゃないかって(笑)。
しーさん
しーさん
会議に吉本芸人を送り込むとか、渋谷の高校生を企業に送り込むとかっていうサービスがあるんですけど、それをやったら会議室でおっちゃんが眉間にシワ寄せて商品会議している横で女子高生が「ウけるー」とか言うてて、それで場の空気が変わるんですよね。同じような話で、僕の友達はピザ屋が来たらそのまま帰さずに「君やったら、これどう売るん?」って聞いてみろっていう話を本に書いてましたね。
僕自身もヘルスケアビジネスを立ち上げた時に、同業界の人とだけだと新しい風が入ってこないので、夜はエステ業界の会長とか温泉協会の会長とかと喋ってたんですね。温泉とヘルスケアの関係性の話をする中で、人が来なくなった温泉地をどう変えるか?って、そんなところにアイデアがあって、おもろいなと思ったら会社に来てもらって話してもらうとか、そういう空気清浄機ってものすごく良いと思ってて、何もないのに勝手に空気は良くならないですから。
絶対に誰かが何かを仕掛けない限り、何も起こらないですね。空気清浄機を持ってくるか、誰か窓を割るやつが出てきたらその窓から新しい風が吹いてくるんやけど、でもまあ最初はね、寒いとか蚊が入ってくるとか言うて怒る人いるんですよ。でも、何かの仕組みをしないと末端の空気はよどんできますから、誰かが窓を開けたりすることをデザインしないと、勝手には良い空気は入ってこないですよね。
石見
石見
延原さんご自身もいろんな活動をされていらっしゃいますけど、それも一つの空気清浄機的機能なんですかね。
延原
延原
そうですね。やはり会社と家の往復だけになってくると空気は淀んでいくので、サードプレイスと呼ばれる場所を持つことが必要だと思います。先ほど言ったとおり、イノベーションって新結合なので、実験しないといけないんだと思うんですよね。でもいきなり会社で実験できないので、どこかサードプレイスで試行錯誤していって、こんなんできましたよって新しい風を持ち込む方法もあるかなって思いますね。

組織を変える「起承転結」の人材活用

石見
石見
私、しーさんの「起承転結」の人材活用の話がめちゃめちゃ好きで。私は「起」に近いところに属している人間なんですけど、「起」の人って普通の会社にいると絶対変なヤツでしかないと思うんですよ(笑)。ただ組織は、その変な人から出たものを事業化して形にしたり、いろんな人をうまくマネージする必要があると思うんですけど、そういう組織のマネージメント観点でイノベーションを起こすヒントっていうのは、ありますか?
しーさん
しーさん
人材を「起承転結」で考えたらどうですかっていう話で、どれがいいとかって話じゃないんですよね。たとえば、無限プチプチっていうヒット商品を作った元バンダイナムコの髙橋晋平さんって人がいるんですけど、彼は「起の人に儲けの話せんといてくれ」って言ってましたね。もう徹底的に「起」をやるから、「それでどんだけ儲かるねん」とか、「お前リーダーやれ」とか言うてくれるなと。「起」として生きさせてくれと。彼らが立ち上げたのが「妄想マーケット」ですね。これは、いわゆる「起」の人たちが「こんなん商品あったらおもしろい、いくらやったら売れる」とか書いてるWebサービスなんですよ。でもそのアイディアを「承」の人が見たら、なんかこれ商品化できるでっていうのがあるかもしれないんですよね。
だからこういう人には徹底的に「起」だけやらせてあげて、そこから「承」でベンチャーが立ち上がってきたら「転結」の人が必要になる。でもそんなお金払って雇われへんって言うなら、副業者がベンチャーを「手伝いまっせ」って、そこで新しい技術を学びながら手伝って、そんなんが回り始めると、さっき言った「混ぜないと危険」っていう世の中がやってくるんやろうなって。でもそれもやはりデザインしていかないと勝手に混ざらないんでね。
石見
石見
「混ぜないと危険」と「空気清浄機」、これが必要だってことですね。延原さんの所属されている会社は非常に大きな会社ですけど、起承転結っていうのはどういうふうに感じていらっしゃいますか。
延原
延原
やはり、企業は大きくなればなるほど、「転結」のオペレーションが中心になってくるのかなと思いますね。「起」の人って少ないので、なかなか大企業で生きていくには難しいところもあるのかなと思ったりしますが、でもその中で、許容可能な損失の範囲を広げていくことじゃないかなと思うんですよね。
先ほどのエフェクチュエーションの話もそうなんですけど、セーフティゾーン、チャレンジゾーン、パニックゾーンがある中で、パニックゾーンに行かずに、いかにチャレンジゾーンを増やしていくのかが大切なのかなと。私自身も社内ダブルワークとして、本業とは別に新規事業開発の業務にも携わらさせてもらっていますが、そういった許容可能な損失の範囲を広げていくと、組織の中でもチャレンジゾーンを増やす方法があるんじゃないかなと思います。
石見
石見
今逆に、大企業さんでもかなり組織の在り方を柔軟にしていこうという流れがあるので、そこで自分がどう挑戦していけるのか、自分自身のあり方も問われてくるのかなと思いますね。
延原
延原
そうなんですよ。そうなると自分が何をやりたいのかと、アイデンテティを問われるので、特にミドルの方は「中年の危機(※)」を迎えることが多いんじゃないかなと思いますね。

※「中年の危機」とは、中年期に 「自分の人生は本当にこれで良いのだろうか?」などと考え、これまでの生き方や自分自身に自信がなくなったり、悩んだりしやすくなること。

しーさん
しーさん
あとね、これだけZOOMとかで横どうしが繋がれるようになると、組織もかつてみたいなピラミッド構造いらんのちゃうか?ってね。ピラミッド構造だと、誰かが言ったことを誰かが受けて、だんだん内容を減衰していくっていう形なので。
石見
石見
ほんとそうですよね。そう言う意味では今、時代がめちゃめちゃ転換期であるってことですよね。

質疑応答

石見
石見
たくさんのご感想やご質問をいただいて、ありがとうございます。全部はご紹介できないのですが、まずこちらのご質問から。「年齢や経験の量によって意識を変えた方が良いことはありますか?」ということなんですが、しーさん、いかがでしょうか?
しーさん
しーさん
年齢ではなく、加減乗除のどのステージまできてるんかなー?っていう視点で考えると面白いと思いますね。社外とのつながりも含めて広げていけばいいので、社歴とかもあまり関係ないかもしれないですよね。この前、中学三年生が僕の講演聞いて起業しましたってメールきたんですけど、もう中学でそういう経験をし始めてるから。僕なんかもうシニアですけど、ずーっとワクワクしてますし。
石見
石見
そう思います。ありがとうございます。次の質問は「現在ミドルエイジが抱える問題って何でしょうか?」それと、延原さんがされているオンラインサロンの内容についても質問がきています。
延原
延原
ミドルエイジは良い学校に入って良い会社に入ろうっていう教育を受けてきた世代なので、自分の中心的なものがないまま、「世間一般で言われるものが自分の真ん中」に入りやすいのかなと思っています。なのに、今度は一人ひとりの個性の時代だ!って言われ、今までやってきたことから急転換を求められている。さらに自分の人生の折り返し地点で、「らしさ」って何だろう?って考え出した時に、じゃあ起業しようとか、〇〇しようとか振り幅を大きくしちゃって、こんなはずじゃなかったってなることが、中年の危機じゃないかなと思っています。
私はそこに何かサポートができないかなと思っており、キャリアコンサルタントの資格も持っているので、オンラインサロンでは丁寧にそれぞれの人生のライフストーリーを聴き、自分自身のアイデンテティを一緒に育んでいきながら、自分のやりたい自律的な探究軸を見つけてもらい、Well-beingな生活をしてもらおうという活動をしております。
石見
石見
振り幅が大きくなるということは、選択できる幅も大きいってことなんですよね。それをどうしようと思うのかチャンスと思えるのかによって、Well-beingって全然違いますよね。
延原
延原
そうですね。結局Well-beingって個人による認知の仕方に寄るところが非常に大きい。だいたい、ネガティブな認知の方が多いので、そこの意識の方向性を変えていくと、Well-beingな毎日になるんじゃないかなと思います。
石見
石見
ありがとうございます。もう一つのご質問は、現在40代の方で、「20代の後輩となんとかうまくコミュニケーションを取りたいけどうまくいかない。世代間のコミュニケーションの取り方でヒントはありますか?」ということですが。
しーさん
しーさん
ちょうど先日、京大で牛窪恵先生に来てもらってZ世代の研究っていうのをやったんですけどね、彼らに教えようとか無理にコミュニケーションとろうとするよりも、ひょっとしたら僕らはZ世代に学ばなあかん方が多いんちゃうかって。だから、聞いてみるっていうのが1番いいやろうね。「みんな何困ってんの?」とか「いつも同期とどんな話してんの?」とか。コロナ前から、こんな世の中になるっていう兆候がZ世代にはいっぱいあったのに、40代とか50代が否定してきたから閉塞感が出てきてるわけで、もっと素直に彼らに聞いてみたら?って思いますね。先日、しーちゃんねるに出てもらった石井遼介さんが言ってたのが、「マネージャーも一人で悩まんと、部下に何して欲しい?って聞いてみー」って。「どうしたらいいかわからへん」ってことを言えるかどうかやと。逆心理的安全性みたいなもんですね。
石見
石見
延原さんは現場に近いところにいらっしゃいますが、どうでしょうかね。
延原
延原
今僕は40代、部下が30代で10年ほどギャップがあるんですけど、やはり部下がどういう風に人生を生きたいのかを聴くようにしています。その中で、歩みたいキャリアや人生観を視点に、今の仕事をリフレーミングして価値づけをしていくと、お互いにHappyになれるんじゃないかなと思います。
石見
石見
竹林さん、延原さん、本当に楽しい時間をありがとうございました。また今年も良い年になりそうです。ありがとうございました!