経営や事業のリーダーとなるために必要な高い潜在能力を持つハイポテンシャル人材、組織の未来には必要不可欠です。
ハイポテンシャル人材をいち早く特定。成長機会を与え、昇進・昇格のチャンスが来た際には新たな役割に滞りなく移行できるよう、「選抜・育成」を早期に行うことが企業に求められています。将来のリーダーを効率的かつ安定的に生み出し続けるパイプライン確保のためにも、仕組みづくりが極めて重要です。
とはいえ重要性は感じているが、ハイポテンシャル人材への取り組み、次世代リーダー育成に対する適切な戦略がある企業はまだまだ少ないのが実際のところではないでしょうか。
早期にハイポテンシャル人材を特定
ビジネスを取り囲む環境の変化が激しくなり、未来の不確実性が一層高まる今。求められているのは、誰もが経験したことの無い状況においても自らビジョンを示し、その実現を目指してリーダーシップを発揮していける人材です。自らの力で動き、現状を切り開くことができる人材であり、単に豊富な知識を持ち分析力がある頭が良いという人、ではありません。
一方でこのような人材を育成しようとすると、誰もが資質を持っているわけではなく、教育ですべてが補えるわけではありません。そのため、どのように人選するかということが重要になります。
企業の将来を担う優れたリーダー。特にこれまでの典型的なリーダーとは異なる次世代リーダーが必要とされる場合、発掘するまでに時間がかかりすぎるといったことが起きます。人材を特定するのに時間がかかりすぎると、リーダーを担うはずだった人材が離職してしまうということも。ハイポテンシャル人材の多くが自身の強みを活かすことや成長する機会を求めています。そういった環境がなければ、より働きがいのある自分の能力が活かせる会社へと移ってしまいます。
まず企業として、性別、民族、年齢などのバイアスを排除し、幅広い人材に目を向ける取り組みが必要。また、人材のタレント性を中立的かつ公平に評価することが必要です。
人材を選抜する際、各部門による技術的なパフォーマンス評価が重要視される傾向が高くなります。将来性や潜在能力(ポテンシャル)、リーダーシップ能力を加味するよう設計され、検証されなければなりません。
適性や熟練度、技術的な能力であるハードスキルはもちろん重要ですが、新たなビジネスモデルを立案・検討、協同の作業・活動、リーダーシップといったソフトスキルを測る尺度も同様に評価・育成される価値があります。
そのためにも現場部門だけの評価でなく、経営層や人事部門が人選に関わることが必要です。社内外のあらゆる情報を俯瞰
ラーニングアジリティ
将来を創るハイポテンシャル人材をいかに発掘し、引き上げるのか。これからの時代に求められるリーダーシップの資質の一つに「ラーニングアジリティ」があります。
経験から素早く学び、初めての環境下でその学びを応用して成功に導くことができる能力、リーダーにとって欠かせないスキルです。ビジネス環境の変化が著しく、将来の予測が困難であり不確実性が高まっているVUCA時代にこそ、スピードと的確な判断が求められるアジリティへの注目が高まっています。
世界有数のコンサルティング会社であり、企業リーダーと共に、戦略を実現していくことに取り組むコーン・フェリーは「ラーニングアジリティの5要素」を発表しています。
①メンタル・アジリティ
領域を越えて活動し、関連のない分野へも興味を示し、点在する課題を結び問題を解決する能力
②ピープル・アジリティ
他者をよく理解し、多様なグループに適応し、明敏な対人判断を下す能力
③チェンジ・アジリティ
現状に挑戦しようとする意思、システムや手続きを改善しようとする意欲、変化を実行に移す能力
④リザルト・アジリティ
すばやく優先順位を見出し、目標を設定し、好況時にも苦境時にも成果を出す能力
⑤セルフ・アウェアネス(自己認識)
フィードバックを受け容れる姿勢、自己反省の習慣、学習や自己啓発に対する強い関心
現在は組織の中に絶対的な答えがない時代だといえるでしょう。 チーム内では刻一刻と状況の変化があり、臨機応変にチームを組み替えたり、数チームにまたがって所属したりと流動的な動きが求められます。その時の状況に応じて、臨機応変に解決していける、学びを即座に応用できる機敏さが必要となるのです。
将来の利益を得るためには、こういった資質を若いうちから育てていく必要があります。
今後は、経営者レベルに留まらず一般社員に至るまで、迅速で最適な意思決定をすることができるアジリティが高い組織を目指すことが求められていくでしょう。
次世代リーダーの育成
では次世代リーダーの育成にはどういったことが必要となるのでしょう。具体的にみていきます。
育成トレーニング
OFF-JTで計画的・意図的に経営知識を身につけるためのトレーニングを行い、次世代リーダーを育成していくことが、企業の人材戦略において重要となってきます。
若手経営者・後継者・経営幹部候補を育成する社外社長塾や社外研修などで学ぶ機会を設けます。
社長塾は自社での開催も可能。月に1~2回程度、労働観に関することや会社に関すること、人間関係に関することなどについて、ディスカッションやヒアリング、コーチングを社長と行う時間を作ります。
ストレッチアサインメント
日本語では修羅場とも訳される「ストレッチアサインメント」と呼ばれる人材育成法をとることも必要です。
知識を獲得する座学やケーススタディでの学びももちろん重要ですが、経営を担う上で必要となる精神力や判断力は身につきません。
昇進・配置・異動。多少難しいと思われるポジションへの異動、ラインからスタッフへの異動、新規プロジェクトや事業の立ち上げなど、意図的に育成的観点に基づく異動を行い修羅場経験を積ませることが重要です。リーダーとしての役割が実際どのようなものであるかを経験することがリーダーシップ開発へと繋がります。
内省・ふりかえり
苦しい試練を乗り越えて振り返った時点で、多くのことを学んだと実感することができます。しかし、そういった経験も、やりっぱなしでは学びの定着には繋がりません。
うまくできたこと、うまくできなかったことは何だったのか、なぜうまくできたのか、なぜうまくできなかったのか、次にどうすればいいのか。「内省」を行うことで学びは深まります。
また本人のふりかえりだけでなく、リーダー育成の仕組み自体にも、継続的なモニタリングとふりかえりが必要です。当初に設定したゴールに近づいているか、修羅場経験を乗り越えられそうか、負荷が大きすぎていないかなど、ふりかえりながらサイクルを回していきます。状況によっては支援や最小限の介入も必要です。
改善策の検討
人材育成の手順は一度作成して終わりではありません。その時点で完璧な人材育成計画が立っていたとしても、運用中は必ず定期的にそれまでの結果を振り返り、状況に合わせて内容の改善を重ねていくことが重要。次世代リーダー人材育成施策の成果をふりかえり、発掘や育成、サポートの在り方を見直すことが必要です。
自ら成長したいという意識や成長意欲に繋げるため、動機づけを再度行ったり、育成者本人への働きかけやタッチポイントの創出といった改善策も必要となるでしょう。
このような作業の積み重ねにより、リーダー育成計画手法や運用のノウハウが蓄積され、より効果的・効率的な人材育成が可能になっていきます。
リーダー育成の仕組み構築が求められる
人は1年2年では育ちません。人材育成は一朝一夕で完成するものではないのです。
人は新しいことへチャレンジや試行錯誤の過程での経験を通して育つもの。人材育成の方法や手法は周囲の環境によって変化するかもしれませんが、人材育成に必要な本質は変わらないものです。本質に働きかける、長く続けることができる仕組みづくりについて考えなくてはなりません。
どんなにすばらしい制度だとしても続けなくては形骸化してしまいます。丁寧な取り組みは実を結び、人を育てることに繋がります。
次代の経営を担うリーダー人材を企業が組織的・戦略的に開発する仕組みの構築が求められています。