注目度が上がり、導入企業も増えているOKR。
OKRの導入が進む背景や理由、導入することで目標達成プロセスがどう変わるのか、ご紹介します。
また、実際に運用を始めるとうまくいくことばかりではありません。どのような失敗があるのかという点も具体的にみていきます。
OKRとは
OKRとはObjectives and Key Results(目標と主な結果)の略称。米インテルが開発したこの手法は、GoogleやAmazonといった名だたるIT企業にも取り入れられ、大きな成果を出しています。
KPIのように目標達成に向けた組織のパフォーマンスの動向を把握することだけでなく、人を鼓舞し、個々人の能力を最大限に引き出すことを重視しています。100%の目標達成を求めていません。
googleやFacebookも採用するOKRとは?どう始めればいい?なにが必要?~成功のためのコツやポイントをご紹介~
OKRを導入することで、会社におけるゴール達成へのモデルや目標そのものをつくり替えることに繋がります。昨今の変化が激しく予測困難なビジネス環境の中で今後より一層注目を集めることになるでしょう。
なぜ今OKRが注目されるのか?その背景
先行きが見えないVUCAの時代。過去の成功パターンが通じない、今日の正解が明日の正解とは限らない状況です。
またこのような変化の速い時代において、評価する時点では目標自体が意味をも持たないといったことが起きています。
コロナ禍による未曽有の事態の中で、潮目が変わり一気にデジタルトランスフォーメーション(DX)が浸透。数年をかけて実現するはずだった未来が1年で実現した例も少なくありません。DXだけでなく、経済・社会・政治などあらゆる分野において大変革期を迎えています。
トヨタ自動車は2018年以降、モビリティーカンパニーへの変革を掲げ、ソフト開発力を強化。トヨタの豊田章男社長が目指すのは、「車をつくる会社からモビリティーサービスの会社になる」。 トヨタは自動車メーカーから“モビリティサービスを提供するメーカー”への転換を図ろうとしています。
大手メーカーとはいえ安穏としていられない時代、日本産業の要である自動車業界をも大転換期に入っているのです。
トヨタ自動車を始めとする大手企業においては、既に事業分野・ビジネスモデルの転換を図る動きが起きています。中堅・中小企業もビジネスモデル転換やサプライチェーン(供給網)・生産体制の見直しといった本格的な変革を進めていくことが求められていきます。
ただ、めまぐるしく変化し、先が予測できないビジネス環境であるVUCAワールドにおいて、変革は社長始め一部の経営陣だけでは成しえません。社員一人ひとりがこれまでの考え方・発想(マインドセット)の改善・進化を図り、経営方針に沿ってスピーディーに行動していくことが求められます。
日本においてもOKRが注目されるようになったのは、こうした背景があるのです。
なぜ今OKRが注目されるのか?その理由
日本企業が変革期を迎える中、OKRを企業が導入する目的は様々です。
- 目標の実現に向けてメンバー全員で全力を尽くす過程において、メンバー全員の成長を促したい
- 日々の業務の中でチームの連帯感を強めたい
- 社内間のコミュニケーションを活発にしたい
- 挑戦を思いつく自由な発想と、失敗を恐れない文化を根付かせたい
- イノベーションを起こし企業を成長させたい・業績向上につなげたい
- 業務への関心を高め、意欲や積極性を高めたい
- 優秀な人材を採用したい
- 若手に活躍してほしい
- マネジメント層を育成したい
多くの企業が現状を打破する必要性を感じており、危機感を感じ、現状が変わらなかった場合の将来を危惧している表れでもあります。
これからの時代は、これまでと違うやり方、誰もやっていなかったことにチャレンジしなければならないため、1人ひとりが新たなやり方を見つけ出し、ブレークスルー(本質的な課題を打ち破る革新的な解決策)を生み出すことが必要です。
個と組織の目標を連動させて、人材の潜在能力を最大限に引き出す。ブレークスルーを生み出し組織の生産性向上に繋げるOKRが注目される理由でしょう。
なぜOKRでなくてはいけないのか
目標管理制度は多くの企業ですでに導入されているはずです。なぜ「目標」を立てても目標は達成されないのでしょう。OKRを導入すると目標達成における経緯にどういった変化が起きてくるのか、具体的に見ていきます。
目標を決めても戦略を考えていない
目標達成までのステップを明確にしたとしても、そのステップをどう攻略するか考えていないのであれば、目標の達成は難しくなります。個人の意志はもちろん必要となりますが、その意志力だけ頼るのは非生産でしょう。
OKRを運用する場合には、まず、会社としての「O(定性目標)」と「KR(定量目標)」を設定します。次に、会社のOKRに対して、各チームと個人のOKRを同様に決定します。最終的にはツリー構造になり、会社のOKRから個人のOKRまでが紐づくようになります。会社の目標と個人の目標がリンクし、自分の立場やポジショニングがはっきり見えてきます。
全社目標を達成するために必要な戦略を、部門ごと、人ごとに分解することができるのです。
目標達成のために「やらないこと」を決めていない
目標を達成するには、目標達成に向けた行動に多くの時間を費やすことになります。ただし、やるべきことだけでなくやらないことも決めておかなければ、やるべきことに時間が使えなくなります。
同じくらいの重要度のものがあったとしても、優先順位をつけなくてはなりません。働くうえで「やらないこと」を決めるのは難しいものです。
OKRであれば指針となるべき目標が明確になっているため、タスクの優先順位を決めやすくなります。OKRは全体に共有されるため、ミッションのために動いているのかが明確。全員のミッションが可視化されているためコミュニケーションが取りやすく、業務も効率化されます。
また、週の頭に行われるチェックインミーティングでは、振り返りを行いながら今週一週間どんなことにフォーカスすべきかを整理を行います。進捗の確認、目標とのギャップ、今週優先して取り掛かることなどを共有。こういった整理をすることがルーチンに含まれているため、やるべきことに集中でき、今週の取り組みが先週よりも確実に目標達成に近づくようになります。
目標達成の計画を立てても計画の進行状況を把握していない
目標に向かって努力を継続するためには、進捗状況をしっかり把握することも大切です。いくら良い計画を立てても、予定通りに進んでいないのでは全く意味を持ちません。また、計画どおりに進めていても思ったよりも成果が現れなかった、といったことも起きるでしょう。
OKRでは週に一度チェックインを行い、チーム内で進捗を確認します。
また設定したレビュー期間の中間地点(四半期の場合は1.5~2カ月経過時点)で、全体的な中間レビューを行います。このとき、進捗に遅れがあれば改善点を議論します。目標そのものを変更するといった、計画自体の見直しもすることができます。
一人で目標達成しようとしている
一人で乗り切ることにこだわりすぎず、臨機応変に目標や計画を周囲と共有することが大切です。仕事における達成するべき目標は、会社の目標にも繋がるため、チーム全員が把握しておく必要があります。また、目標はリーダーと一部の人間だけが最終目標を知っている状態も、結果としてチーム全体のパフォーマンスが低下する要因にも繋がります。
OKRでは週の終わりにウィンセッションを行います。ウィンセッションは進捗(日々の成果)、つまり「できたこと」に注目し、進捗を互いに褒め合います。
人は他の人々から好意を得たい、注目されたいなどの心理的な要求を持っており、目標に向かって複数のメンバーで行動することで、能率が上がったり意欲や満足感を得られやすくなります。ウィンセッションにおいて、目標達成具合を報告し、学びを共有する場を設けることで、自分の成果に対する肯定感が増すため、モチベーション維持が期待できます。また、人から注目されることによって、自分のモチベーションを上げたり、より大きな力で目標に取り組む力となります。
最初はたいてい失敗する~OKRの失敗例とは~
まるで魔法のようなOKR。しかし、OKRさえ導入すれば、社員の意欲が高まり業績向上に繋がる…とはいきません。
残念ながらOKRにはじめて挑戦する企業はたいてい失敗してしまいます。最初はほとんどの企業が失敗するといわれるほど運用が難しいものなのです。
MBOにおける目標の理想的な達成度は100%。
一方OKRでは、目標の理想的な達成度は60~70%とされています。MBOによる目標管理制度を経験し、目標を達成するのが当たり前と考えている人にとっては、60~70%で良いとするOKRの考えには違和感が生じる場合があります。
100%達成できないほど高い目標であるストレッチゴールがいつの間にか、100%達成を目指すゴールへと変化してしまう、ということが起きてしまいます。OKRは、会社や部門と個人の目線を合わせ、個々人が目標に向かって動くためのものである、という前提条件を忘れないようにしなくてはなりません。
レビューのサイクルが短いので、こまめなレビューをする余裕がないと失敗の原因になります。また、できないことにばかりに目がいってしまうと、毎回達成できないことを言い合うような状況に。やる気や意欲が高まるどころか、逆にやる気が下がり、OKRが形骸化していきます。
OKRに対する理解、共通認識を醸成をしっかり行ったうえでOKRを導入していくことが大切です。組織の上層部である経営層やマネジメント層がOKRを深く理解し、運用方法についての知識やノウハウを社員に共有していくことも求められます。
OKRの特徴の一つは透明性。設定から運用まで常に全社公開、共有します。OKRを社内で共有することで、個々の業務内容や進捗状況の確認、社員間での目標共有を可能とし、全社の一体感を生み出します。そのためにも、社内共通のOKRテンプレートを準備し、記入・チェック、全社に共有していく流れが必要。OKRの共有や可視化が可能となるクラウドサービスの導入・活用も一つの方法でしょう。
スケジュールや仕組みを構築し、組織全体にOKRを行き渡らせることが必要です。
OKRが単なる目標設定・管理ツールとして運用されないように組織内での理解・浸透させるまでには、時間がかかり失敗もあるようです。
しかし失敗自体が問題ではありません。OKR自体も運用されていく中で徐々に組織にあったものへと変化していくもの。このフレーム自体も、自分たちの組織にフィットするにはどう変えていくべきなのか考えながら運用していく必要があるのです。
たとえ失敗したとしても再挑戦。失敗や変化を恐れずに、挑戦する。挑戦する組織・風土が求められています。