人材不足に伴う採用難を背景に、従業員エンゲージメントに関する情報が多い。
学術的に研究されている近しい領域だと「組織コミットメント」という言葉が近い。
そこで、今回「組織コミットメント」というものについてご紹介します。
組織コミットメントの研究は、経営学のみならず社会学や社会心理学など多様な分野で議論されてきています。
組織コミットメントとは
組織コミットメントの概念は、大きく2つに分類できる。
1つが「情緒的コミットメント」、もう1つが「功利的コミットメント」です。
情緒的コミットメントとは?
情緒的コミットメントとは、その組織に居続けたいと思う気持ちからのコミットメントです。
組織の目標や、価値観と、自分自身の価値観が同一であるほど、そのコミットメントは強くなり、一体感と表現されることがあります。
また、その組織や仲間に対する愛着から、その組織の一員であることを誇りに思うというような好意的な態度を示します。
功利的コミットメントとは?
その組織に居続ける必要があるから、その組織に居続けるというコミットメントです。
対価や報酬があるから組織にコミットメントするという単純な交換関係からなります。
また、これまでの金銭、時間、労力などの投資した価値に見合うために組織を離れられないという面もあります。
情緒的・功利的コミットメントの関係
(入門組織行動論より引用作成)
近年では2つのコミットメントの種類は、どちらも「組織コミットメント」という捉え方が主流です。
組織コミットメントは、組織にコミットした結果→組織に居続ける→組織に居続けられればさらに組織にコミットする→長年勤めることで組織に対する愛着がわく→さらに組織に居続けるというサイクルが生まれるとされています。
組織コミットメントに影響する要因
組織コミットメントを高めることで、離職率や欠勤率、業務のパフォーマンス向上などに影響を与えるとされています。
ではどのような要因で組織コミットメントが強くなったり弱くなったりするのでしょうか。
(入門組織行動論より引用作成)
組織の要因
まず大きな要因となるのは、その人の職務や役割についてです。
一般的には仕事内容が高度で責任の重い仕事をしていると本人が感じるほど、情緒的コミットメントが高いといわれています。
組織要因のもう一つは、組織のメンバー同士の一体感・団結力が高いと感じるほど同じく情緒的コミットメントが高くなるということです。
責任ある仕事をしていると感じることで、組織内に自分の存在意義を確かめ、居場所があると感じ、居心地がよくなります。
逆に役割があいまいであったり、複数の役割による混乱であったり、役割が過剰に付与されている場合は、その人の情緒的コミットメントが低くなります。
役割や目標を明確に示すことができていないと感じる場合は、要注意です。
個人の要因
個人要因として大きいのは、年齢や勤続年数となります。
勤続年数や年齢によって組織コミットメントに影響がある理由は、2つあるとされます。
1つは、組織に長くいるほど、組織内での地位が上がっていき、役割も大きくなりやすい点です。
仕事の裁量権も増えることからコミットメントが高まります。
もう1つは年齢により転職機会が減少するということ。
勤続年数が長いことで、その企業でのみ通用するスキルや知識が蓄積されてしまい、失うことへの恐れもあります。
組織コミットメントを向上させるために
情緒的コミットメントについて、組織として取り組むには3点の施策を意識すると良いでしょう。
- 1つめのポイントはひとりひとりの目標を明確にすること。
目標を明確にすると、役割を認識し、存在意義を感じることもできます。 - 2つめのポイントは組織内でプロセスを共有すること。
プロセスを共有することで一体感を生み出すことができます。 - 3つめのポイントは組織内で信頼関係を構築すること。
これは簡単にはいかない最も難しいものですが、2点目にあげたプロセス共有がカギとなります。
プロセスを共有することで、お互いが承認するきっかけが生まれます。
またプロセスが共有されるということは、それぞれの役割を認識しやすくなります。
組織コミットメントを考えるとき、組織と個人の先行要因をきちんと考えること。
そして、情緒的コミットメントと功利的コミットメント双方が継続的に影響するという視点を持ち、社内施策に活かすことをおすすめします。
参考文献:入門 組織行動論,開本浩矢編著/第3章 組織コミットメント,鈴木竜太