ビジネスにおいても日常生活においても変革を迫られた2020年を経て、新しい年2021年を迎えましたが、同時に、人口の減少が進み、超高齢社会で引き起こされる社会保障問題や日本経済の鈍化など様々な事が危惧される2030年問題まであと10年を切りました。併せてコロナ禍が続く中で、社会の在り方や企業の経営、個人の働き方の変化は一層加速しています。どのような変化が起きていて、どのような心構えを持ち、どのようなことに取り組んでいくべきなのか、いよいよ自分ごととして考えなければならないタイミングに来ています。
そこで今回の心理的資本セミナーは新春特別企画として、各界からゲストをお迎えし「2021年の組織人材変革の展望」をテーマにディスカッションをLIVE配信いたしました。ゲストは学識者として経営戦略・組織論の研究の第一人者である加護野忠男氏(神戸大学特命教授 経営学博士)、経済団体として深野弘行氏(関西経済同友会 代表幹事,伊藤忠商事 専務理事 社長特命)、企業経営者として山田邦雄氏(ロート製薬株式会社 代表取締役会長)の御三方。
2030年問題というキーワードを起点として、加護野先生のインスピレーショントークから始まったディスカッションは非常に濃密な内容となり、参加者の皆さまからもご好評をいただきました。当日の内容をダイジェストでご紹介します!
パネラープロフィール
- 加護野忠男氏(画面右上)
神戸大学 社会システムイノベーションセンター特命教授 - 山田邦雄氏(画面左上)
ロート製薬株式会社 代表取締役会長 - 深野弘行氏(画面左下)
関西経済同友会 代表幹事/伊藤忠商事 専務理事 社長特命 - 石見一女(画面右上)※モデレーター
株式会社Be&Do 代表取締役 CEO
インスピレーショントーク「経営者の幸福学」より
2030年問題は「しばらくすると大変なことが起こるから、今から準備をしておかなきゃ!」というよりも、「2030年にはもっと幸せになろう!」というポジティブな目標の方が楽しいのではないかと思います。
人々、従業員の幸せを追求すると、自ずと組織の業績も上がってくるという考え方は、実は経営学の歴史と深い関わりがあります。アメリカの経営者が「first inquiry」と呼ぶ調査から、人間は複雑で、客観的な労働条件を変えるだけで生産性が上がるものではないということが明らかにななりました。
それまで経営学は工学の一分野と捉えられていましたが、人文や社会科学の見地から研究されるようになったという歴史があります。
鐘紡兵庫工場時代に工場長として赴任した武藤山治は労働者の待遇・福利厚生を充実させたことで、労働者が集まり業績が高まったという実例がありますが、これも、社長がもっと従業員幸せにしてあげたいという気持ちが生み出した結果です。
物理的な条件よりも社長の気持ちとそれに対する信頼が大切ということは、この時代から変わっていません。
人々、従業員の幸せを追求すると、自ずと組織の業績も上がってくるという考え方は、実は経営学の歴史と深い関わりがあります。アメリカの経営者が「first inquiry」と呼ぶ調査から、人間は複雑で、客観的な労働条件を変えるだけで生産性が上がるものではないということが明らかにななりました。
それまで経営学は工学の一分野と捉えられていましたが、人文や社会科学の見地から研究されるようになったという歴史があります。
鐘紡兵庫工場時代に工場長として赴任した武藤山治は労働者の待遇・福利厚生を充実させたことで、労働者が集まり業績が高まったという実例がありますが、これも、社長がもっと従業員幸せにしてあげたいという気持ちが生み出した結果です。
物理的な条件よりも社長の気持ちとそれに対する信頼が大切ということは、この時代から変わっていません。
幸せ経営と2030年問題を考える
当社ではWellbeing経営を推進していますが、働く人の幸福、少なくとも肚落ち感は大切だと思っていて、これはある意味常に変わらない不変の真実です。これは結構難しいところもあって、良い環境が続くと人間はちょっとだれたりしてしまいます。だから、経営者が従業員を幸せにしたい気持ちと、働き手の意欲の両輪が揃わないと長く続くというのは難しいかなと思っています。
日本の企業は働き手との対話を行ってきたはずなのに、実はある調査では「自分の会社のことを信用していますか?」という問いに対して、ポジティブな回答の割合が諸外国と比べて一番低いそうです。これは情けない話。経営者が働き手の幸せを考えるのは必要条件であり、そのために仕組みを作ったりデザインをするのが責務です。
社会全体の仕組みが、2030年問題をはじめとして時代をリードする形になっていない。コロナ禍で頑張る医療従事者たちも仕組みでは支えきれず、個人の意欲と頑張りで保たれている状態です。個人の意欲に頼っているようじゃいけない。仕組みと意欲の両輪が大切なんです。
経営者は両輪の責任を果たして、且つ従業員はその理念に共感するというシナリオが2030年に向けて必要だと感じています。
日本の企業は働き手との対話を行ってきたはずなのに、実はある調査では「自分の会社のことを信用していますか?」という問いに対して、ポジティブな回答の割合が諸外国と比べて一番低いそうです。これは情けない話。経営者が働き手の幸せを考えるのは必要条件であり、そのために仕組みを作ったりデザインをするのが責務です。
社会全体の仕組みが、2030年問題をはじめとして時代をリードする形になっていない。コロナ禍で頑張る医療従事者たちも仕組みでは支えきれず、個人の意欲と頑張りで保たれている状態です。個人の意欲に頼っているようじゃいけない。仕組みと意欲の両輪が大切なんです。
経営者は両輪の責任を果たして、且つ従業員はその理念に共感するというシナリオが2030年に向けて必要だと感じています。
関西経済同友会では資本主義のあり方がテーマの一つです。昭和モデル(量的拡大)、平成モデル(株主資本主義)から今、令和モデルが作られつつある段階ですが、令和モデルの鍵は「幸せ」です。やらされ感ではなく自分のやっていることの意味を感じながら働くことのできる会社がこれから伸びていきます。
2030年問題には少し違和感があって、60歳定年制度や65歳再雇用制度など区切る仕組みがあるから問題になっているのではないかと。多様な人がやりがいを持って働ける仕組みになると社会の参加率が上がって、成長のエンジンになります。
2030年問題には少し違和感があって、60歳定年制度や65歳再雇用制度など区切る仕組みがあるから問題になっているのではないかと。多様な人がやりがいを持って働ける仕組みになると社会の参加率が上がって、成長のエンジンになります。
よくイノベーションが起こらない、新しいことを起こす枠組みがないという問題が言われますが、一人ひとりが前向きになれば、自分たちがイノベーティブになってくと私たちは思っています。これまでは組織の中で完結するという働き方でしたが、これからは一人ひとりが自発的・自律的に行動していく時代。そういう意味ではこれまでの従業員の幸福とは違う、令和モデルの幸福のあり方があるのではないかと感じました。
山田会長に賛成で、そもそも経営者が従業員の幸せの追求をすることは責任です。そうすれば従業員は報いてくれます。ただ、幸福とは与えられるものではなく「自らの働きによって獲得するもの」(3大幸福論 ・・・アラン/ラッセル/ヒルティ)です。
多様性と幸福と企業価値
なぜ多様なのがいいのか?ということですが、多様でないと損をします。色々な人が混ざり、異質なものがぶつかることでイノベーションが生まれるんです。
同質集団は居心地が良いから人材の多様化が進まないんです。日本には一流大学、一流企業に所属すること(一生安寧)が幸せという概念・価値観が根強く残っている。そこに所属して何をするというのは二の次で、実は企業としてもそういう人材は扱いやすいわけです。一部の若者から変わってきてはいるけれども、そういう価値観から脱却できないうちはだめ。これからの幸せは、自分が主人公として、会社は道具で目的に共鳴して仕事をしてやっている!くらいになると日本にもまだ成長する余地がありますよね。
経験を積んだ大人が、そういう尖った若者の支えらえるようになるといいですよね。
日本のここ20~30年の大きな失敗は投資家資本主義に偏ってしまったことです。株主資本主義だったらまだいいのですが、いつか株価が上がったら売ろう!という前提の人の言うことを聞いて経営をすると歯車が狂ってきます。ROE経営は最たるものですね。自己資本比率が下がるので長期存続が危うくなります。
テレワークの時代では、一人ひとりが幸福を追求せざるを得ないはず。まず経営者やマネージャーは従業員を監視ではなく信頼の目で見る必要があります。そして従業員も自分は何のためにこれをやっているのかという納得感と、何を達成できたのかというやらされ感ではないものがないと、テレワークは上手くいきません。そういう意味でも自律の流れはきています。
関西のある大学でゲノム編集をしている非常に専門的な研究をする博士課程の大学院生に、実践的な経営学を教えています。少しずつですが、大学生のなかにも一つの組織に自分のタレントを独占されてしまうのは嫌だと考える人も増えているようです。
関西のある大学でゲノム編集をしている非常に専門的な研究をする博士課程の大学院生に、実践的な経営学を教えています。少しずつですが、大学生のなかにも一つの組織に自分のタレントを独占されてしまうのは嫌だと考える人も増えているようです。
企業に所属をするという発想から、企業を活用あるいは乗り物にするという発想に変えて欲しい、自立心を高めて欲しいという思いから、踏査でも副業制度を始めています。難しさはもちろんありますが、期待するような自立心が芽生えている人も一部にいます。
一方で、日本の企業では意外と副業が拡がってきていなくて、自社の業績には一時マイナスだけどやるんだ!という覚悟を持ってやっている企業も少ないです。企業が社員を守るという概念が消滅しないと、なかなか進まないでしょうね。
一方で、日本の企業では意外と副業が拡がってきていなくて、自社の業績には一時マイナスだけどやるんだ!という覚悟を持ってやっている企業も少ないです。企業が社員を守るという概念が消滅しないと、なかなか進まないでしょうね。
企業が従業員を守れた時代は良かったですが、今日本企業でそんな会社はありません。
多様性が進むということは、どういうことを幸せと考えるのか人によってそれぞれ違うということ。これからは、経営者や人事部が奮闘するのではなく、それぞれの価値観にあった就業条件を自ら作るという考え方が必要です。
多様性が進むということは、どういうことを幸せと考えるのか人によってそれぞれ違うということ。これからは、経営者や人事部が奮闘するのではなく、それぞれの価値観にあった就業条件を自ら作るという考え方が必要です。
Q&A
Q:中小企業のダイバーシティ推進、何が重要ですか?
アドバイスできるほどの見識はありませんが、独自の戦略をとることが大切であるように思います。他社と違う特徴・個性を発揮した方がいい。優等生的な企業ばかりでもバッティングしてしまいますよね。
Q:DX推進をしていますが、現状維持を望む層にはじかれてしまうような局面があります。アドバイスをいただきたいです。
こう言った場面で大事になるのが“経営トップの哲学”です。経営トップが「こういう方向性で幸せになっていく」と示し、それに共感する人を会社として重視する。360°方向、みんなは幸せにはできません。
さいごに~応援の言葉~
関西生産性本部が出した「ヨーロッパの企業はなぜ生産性が高いのか」という調査によると、ヨーロッパと日本では指標が違うんです。生産性といえば日本では一人当たりの付加価値ですが、ヨーロッパでは一時間あたりの付加価値を指標にしています。もっと日本企業もこの指標を取り入れていくのが良いのではないでしょうか。
気をつけなければならないのが、他人の庭は青く見えるということです。アメリカ企業と労働者がジョブ型雇用のためにいかに苦労しているかをご存知でしょうか。自分たちの課題ばかりに目を向けてはいけません。
気をつけなければならないのが、他人の庭は青く見えるということです。アメリカ企業と労働者がジョブ型雇用のためにいかに苦労しているかをご存知でしょうか。自分たちの課題ばかりに目を向けてはいけません。
2030年に壁を作らないで欲しいと思っています。ジョブ型の議論もそうですが、自分たちが幸せになるためにはどうしたら良いのか、百人百様の形があるはずです。
民間企業が自助努力で変わっていけば、日本も変わっていくと思っています。流行りにのるのはやめましょう。一つの理想のモデルを目指すのではなく、独自の路線を目指してください。みんなバラバラなものを目指す社会になれば面白いですよね!
バラバラでいいということは、加護野先生の仰るそれぞれの幸せと通じますよね。2021年は真に「個」の時代になっているということを今日のディスカッションから強く感じました。