結論から言うと、これをやればすぐに怪我がなくなり、管理・監督者、リーダーの人が努力しないで、災害がゼロになったり、低いレベルを維持する方法はありません。但し、世の中で一般的に行われ効果の認められている方法、取り組み方はあります。
- 課題・疑問
- ① 何故災害が多いのか?
ーどうすれば災害がなくなるのか?
② 他の会社はどうやっているのか?
ー災害の発生していない会社はどうやっているのか?
③ 生産と安全は両立するのか?
ー忙しくなると怪我が多くなる気がする?
④ 安全活動を進めるともっと忙しくなり、更に生産に追われて、忙しくて手が回らなくなる。
ーどうすればいいのか?
こういった課題や疑問に応えるべく、順を追って労働災害の現状や具体的な安全活動についてみていきます。
1.労災発生の現状
全産業の平成28年度の休業4日以上の労働災害117千人、内死亡者928人の発生率をみると全産業では労働者千人当たり2.2人のレベルです。製造業の事業所の規模別でみると50人までの事業所では1,000人当たり4人、50人から300人では3人、300人以上では1人のレベルです。
2.安全とマネジメント
安全の重要性は総論としては理解されていても、現実の作業現場では一部の企業を除き、安全活動が定着していると言えない状況が多くみられるのが現実です。多く場合、安全と生産は両立しない、安全は収益につながらない費用と決め込んでいる経営トップが多いことが原因としてあげられます。
- ポイント
- ・災害の根本原因はマネジメント、管理にあるが、直接的には機械設備や作業法方法の問題、不安全状態、不安全行動があることにより発生する。これらを是正してムダ、ムラ、ムリ(3ム)を少なくすることは、災害防止のみならず、生産効率や品質向上にも結び付き、安全管理と生産管理は表裏一体であり「安全なくして生産なし」と言える。
・1906年アメリカのUSスチール(当時世界最大の製鉄会社)のゲーリー社長が「安全第一、品質第二、生産第三」を社是として徹底した所、災害が減少したことのみならず、生産も伸び、品質も著しく向上したという事実がこれを証明している。安全も第一、品質も第一、生産も第一では曖昧。
3.設備の改善と安全
機械設備等の改善には経費が必要ですが、その改善により安全性の向上のみならず生産能率も向上します。また、安全投資は働く人の信頼感を高め、品質や生産性を向上させる効果につながります。不安全、非能率な状態で作業を続けて大きな災害を起こして、大きな損失を発生させてしまう例も少なくありません。
- ポイント
- ・災害を起こすと結果的に設備的な対策を打たなければならなくなる。起こる前にリスクを想定して、改善するか、起こってから後追いで改善するかの違いである。安全でなければいつか災害が起こると考えるべき。
・安全活動の中には、それほど経費を必要とせず、大きな効果を期待できる4S活動、ツール・ボックス・ミーティング(TBM)等もあるが、これだけに頼ることなく、設備上の改善を両輪として進める必要がある。
4.安全と生産性の関係
生産と安全の関係では、両者が別々(and)の関係で存在するのでなく、安全と生産が一体となる(with)必要があります。生産と安全は別物との考え方では、生産能率に意識が集中し、安全が軽視されることになって、安全意識が薄れて、災害が発生する確率が高くなります。安全意識を折り込んだ(with)生産という考えに立てば、作業や生産の能率向上等の検討時にリスクを想定して必要な安全上の改善を行うことが出来るようになります。
- ポイント
- ・生産の前提として安全を常に意識して、災害が起こる前にヒヤリハットや不安全状態、不安全行動に気づいて、予測や予防対策を的確に講じることが、結果的にムダ、ムラ、ムリを減少させ、生産能率の向上にも結び付く。
・「安全第一、品質第二、生産第三」の方針を掲示、経営目標にも常に折り込んで、現場でもこれを実践するように指導。迷ったら安全側に考える行動を取るように指導。
5.災害によるコスト
大災害を起こして尊い命を奪い、莫大な経済的な損失、社会的な信用の失墜を招いた事例は少なくありません。アメリカの保険会社の安全技師のハインリッヒの多くの事例の研究結果から、法令に基づき被災者に支払われる労災補償費用を1とした場合、設備停止の時間的損失、機械設備の破損費用等の間接費用が4倍だった言う研究結果があります。単純には比較できませんが、大きな事故災害になる程、直接的な損失より間接的な費用が多くなるとは言えます。
6.災害が発生した場合の責務
労働安全衛生法では主たる義務者は「事業者」であり、この法律の第3条に事業者の責務として「事業者は、この法律で定める最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と定められています。
この事業者には労働者を使用する者も含まれ、事業所の管理、監督者まで含まれることになります。
中央労働災害防止協会の調査ー企業が労働災害防止のために投じている「費用」とその「効果」の程度を実額を記入してもらうアンケート調査をもとに数量的に把握することを試みたものである。
企業における安全対策の費用として取り上げたのは、ソフト面、ハード面にかける安全対策費と不幸にして労災事故が発生した時に要する諸費用である。一方、効果として挙げたのは、主要効果としては「労働災害の防止効果、回避効果」、副次的効果としては「生産性向上効果」、「製品の品質向上効果」、「早退、遅行、欠勤、疾病罹患率減少効果」、「企業イメージや信用向上効果」等である。
分析結果によると、企業における安全に係る費用対効果比は1:2.7との試算がえられた。2.7倍の経済効果があるということである。投じた直接の安全対策費は、その3倍に当たる災害防止・災害回避効果、すなわち、企業にとっての節約効果をもたらしていることが明らかとなった。また、投じた安全対策費の60%近くは、生産性向上効果などの副次的効果により回収されているとの試算結果も得られている。
労働安全衛生法に違反して災害が発生した場合、事業者として(法人の場合は法人)に対して罰金刑が言い渡されるだけでなく、工場長や部課長、職長等が違反に実際に関わった実行行為者として個人として罰せられることになります。
7.災害発生した場合の責任
災害が発生した場合の責任として、刑事責任、行政責任、民事責任、社会的責任が問われることになります。この中で金銭で解決できる民事責任も裁判等を経て死亡災害である場合1億円以上の損害賠償額も少なくありません。
安全衛生法違反の刑事上の措置、操業停止等の行政処分、新聞報道等の社会的責任等多くの責任を問われることになります。
多くの企業は、人命尊重の理念と共に「安全第一、品質第二、生産第三」の方針を掲げ、企業の広い意味のリスク管理の一環としても安全管理を優先して推進しています。
8.管理・監督者の役割と職務とは
管理・監督者の役割と職務を明確にして実行することが大切です。
安全管理者の職務内容として具体的には、
①建設物、設備、作業場所、作業方法に危険がある場合の措置等
②安全装置、保護具等の定期的点検等
③安全教育訓練の実施
④災害原因の調査及び対策の検討
⑤消火及び避難の訓練
⑥作業主任者の指揮
⑦安全に関する資料の収集及び重要事項の記録
⑧構内下請け事業場の指導
これらは総括安全衛生管理者の業務のうち安全に係わる技術的事項を管理する事になります。
- ポイント
- ・総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者の役割と職務を再認識し、これらを実行して行く。
・また、安全衛生委員会の活動の活性化と議事録概要の周知。
9.安全活動 ~具体的に~
現場で実施する安全活動としては次の様なものがあります。
①危険予知活動(KYK)
・危険予知訓練(KYT)を通じて危険感受性、危険予知能力を高め、作業の要所要所で指さし呼称を行って安全を確認してから行うもの。何もしない時に比べて指さし呼称を行った場合には、誤りの確率は6分の1になるとのデータもある。
②ヒヤリハット活動
・ハインリッヒの法則「1件の重大災害の裏には、29回の軽傷災害、傷害の無い事故が300回起きている」と言う解析結果。
・現場で働く作業者が体験した危険(ヒヤリハット)を報告して、管理監督者がこれを排除して、不安全状態や不安全行動を無くして、未然に災害の発生を予防するもの。
・対策が出来ない理由を含めて提案者にフィードバックする事により、意欲がわきこの活動を通じて感受性が向上する
③安全提案制度
・機械設備、作業方法等について安全上の問題点とその対策を提案してもらう制度。
・全ての提案は公正に審査し、不採用を含めてその理由を説明する。提案内容を職場全体で公表する等して職場全体の活動とする。
・採用した提案には表彰等によってその労に報いる。
④安全当番制度、安全パトロール、4S活動、安全点検(点検基準に沿って確認)
まとめ
いかがだったでしょうか。
長期的には減少傾向にありますが、今なお労働者が被災、死亡災害も起き続けています。労働災害ゼロや低いレベルを維持するためには日々の地道な努力と一人一人の継続した心掛けが重要です。