4月16日に出された日本全国への緊急事態宣言は、私たちの生活に大きな影響を与えました。そして今まで馴染みのなかった「ステイホーム」や「ソーシャルディスタンス」という言葉も、一気に定着しました。
今年の初めには想像もできなかった
・外出を控えるため、テレワークが推奨される
・多くの商業施設が休業
・自宅で過ごす時間が増える
という環境変化に、戸惑った方も多いでしょう。
中でも、「人と2m以上の間隔をとる」というソーシャルディスタンスへの注意は、もうしばらく必要になりそうです。新型コロナの感染者数は減っても、感染リスクが減ったわけではないからです。そして、今回をきっかけとして、コミュニケーションの意味合いも大きく変化していくはずです。
しかし、新ツールを使い、オンラインのやり取りが中心になったとしても、「相手を想えるか、関心が持てるか」というコミュニケーションの基本は変わりません。
テレワーク、やってみてどうだった?
さて、みなさん「テレワーク」、順調ですか?
「オンライン会議」、どうでした?
流行りの「オンライン飲み会」も、やってみた方は多いはず。「あれ、思っていたよりうまくまとまったな」、「お、意外と楽しいじゃないか」と、予想外の結果ではありませんでしたか?
今回のコロナ禍で、ビジネス、プライベートどちらの場合でも「人との付き合い方」が大きく変化しました。今までの、顔を合わせた同じ空間でのやりとり以外に、「オンライン」という選択肢が増えたのです。これは2020年の大きな社会変化です。きっと未来の教科書にも掲載されることでしょう。
リアルの場で注意すべきパーソナルスペースとは
今まで行ってきた、「オフライン」でのコミュニケーションを円滑にするための要は、「パーソナルスペース」でした。パーソナルスペースとは、これ以上他人に近付かれると不快に感じるという空間を指し、個人の性格や相手のよって差があるのが特徴です。
パーソナルスペースは、一般的に以下の4つに分けられます。
1. 密接距離 45cm未満
家族、恋人などの身近で心を許せる人だけに侵入が許される距離
2. 個体距離 45cm以上120cm未満
相手の表情が読み取れる、友人と話す場合などにとる距離
3. 社会距離 120cm以上360cm未満
相手に手は届かないが会話はできる、ビジネスで用いられる距離
4. 公共距離 700cm以上
二者でのコミュニケーションには不適切で、演説や講演の距離
これだけではイメージがわきにくいかと思いますが、電車に乗っているときを想像してください。空いている席がたくさんあったら、家族や恋人なら隣に座りますが、知らない人の場合は、隣ではなく少し離れた席を選ぶでしょう。このように、私たちは4つの距離を相手に合わせて、無意識に使い分けてきたのです。
パーソナルスペースと、ソーシャルディスタンス
リアルの場で相手の「パーソナルスペース」を侵害してしまうと、どう思われてしまうのでしょうか。
・嫌い、苦手な人だと思われてしまう
・セクハラだと捉えられる恐れ
・人間関係のトラブルにすら発展するかも
・好意があると勘違いされてしまう可能性
このように相手に不快感やストレスを与えてしまう危険性が出てきます。そして、いわゆる「空気が読めない」人認定されてしまいます。
このパーソナルスペースは、心理的な問題ですが、新型コロナの感染防止のためのソーシャルディスタンスは、命がかかっていますから、もう少しシビア。「個体距離」では近すぎるので、「社会距離」、それも「意識して遠ざかった社会距離」を保つ必要があります。
「オンライン」の疲労感の原因
ソーシャルディスタンスの必要性は、リアルの場だけではありません。「オンライン上でのソーシャルディスタンス」も求められ始めています。しかしこの概念は、今までなかったものですから、戸惑いを覚えても仕方ありません。
たとえば最近よく耳にする「Zoom疲れ」。これはまさに、オンライン上での人との距離感の問題のようです。
私たちは、同じ空間にいれば、言葉だけではなく相手のしぐさやふとした表情から、雰囲気を読み取ることができます。しかし、「オンライン」では、それがなかなか難しい。私たちはそれを補うため、五感をフルに使って、相手のふとしたサインを読み取ろうとしているのではないでしょうか。しかも、モニター画面の前で。
だから、オンライン会議や飲み会は、いつも以上に疲れ切ってしまうのです。
オンラインだからこその、距離感とコミュニケーション
オンラインでも、オフラインでも、相手との「ソーシャルディスタンス」はとても重要。距離が遠すぎると、その関係性は失われてしまいますし、近すぎてもうまくいきません。
そして、物理的な「距離」をクリアしたオンラインでつながるとき気を付けたいのは、画面越しの相手のことをきちんと思えるか、関心が持てるかということです。
これは、特にテレワークを推進する企業で気を付ける必要があります。上司部下や同僚は、チームメイトであっても、家族や恋人とは違います。オンライン会議で、「もっと部屋を見せてよ」なんて、決して言ってはいけませんよ。(もちろんこういったことを直接的に聞く方はいないかもしれませんが、あまり考えずにいつの間にかプライベートを侵害していることは多かれ少なかれ起こりそうです。)
それは単なるハラスメントであって、コミュニケーションではありません。
オンラインだからこそ、心理的なソーシャルディスタンスを重視し、円滑にコミュニケーションを行っていく。そんな時代がやってきます。
監視や報告では、物理的な距離を埋められない
画面越しのソーシャルディスタンスを成功させるのは、「相手はどう思っている?何を望んでいる?」という共感性の高さと、相手の思いを受け止められる感性です。仕事であればこそ、個人だけではなく、今取り組んでいる業務や困りごとなどに、お互いの関心が向いているかどうかが、オンライン時代の成功のヒントとなるでしょう。
しかし、今まで出社が当たり前だった世代は、そうそうすぐに意識改革はできないかもしれません。何しろ、オンラインでも遠隔で監視されたり、逐一の報告義務がある会社もあるといいますから。
物理的な距離にとらわれすぎると、「管理者」としては監視したくなるのでしょうが、オンラインでの距離感は、 詰めすぎても遠すぎてもいけません。相手に関心があり、「この仕事を任せよう」と決めたのであれば、信用して任せてみてください。きっと、成果に近づきます。
「オンライン」でも「オフライン」で一体感は味わえる
先日、著名なプロオーケストラがリモートの演奏を動画で配信し、大きな話題となりました。コンサートの醍醐味は様々ありますが、なんといっても演者と聴衆の一体感ではないでしょうか。それが空間を共にしていない「リモート」でも大きな反響を得たというのはどういうことなのでしょうか。
そこには、演者の「このような状況下でも自分たちの音楽を伝えたい」という思いと、聞き手の「その思いを受け取りたい」という気持ちが重なり、物理的な距離も時間さえも超えた、新しい意味の一体感があったはずです。
「オンライン」でも「オフライン」でも、人間が快いと感じることと不快なことはさほど変わりません。注意すべきは、自分にとって心地よい方法が相手にとっても心地よいとは限らないと、しっかり自覚すること。お互いが心地よい方法を一緒に調整していくという基本的なことが、適切な人間関係を築くコツなのでしょう。
ただ、「オンライン」のときは「オフライン」のときよりも、ちょっとだけ強く、相手のことを考える想像力が必要かもしれません。
まとめ
仕事がオンラインに移行してから、人との距離感のキープが難しいと思っている人は、実は相手に近づきすぎているのかもしれないし、遠すぎているのかもしれません。
しかし、ソーシャルディスタンスとは当面お付き合いしていかなくてはなりませんから、物理的な距離ではなく心理的な距離をとらえられるビジネスパーソンであるかが、重要になっていくでしょう。
そして、新型コロナの流行がひと段落したとしても、「オンライン」での人との交流は続くでしょう。これが新しいスタンダートになるかもしれません。でも、身構えなくても大丈夫です。いつもよりちょっとだけ多めの想像力を加えれば、きっと新しい一体感を味わえるはずです。