急速に普及が促進されたテレワークという働き方。
緊急時や災害時の事業継続性の向上もさることながら、生産性向上や多様な人材を活かす組織づくりを行う観点からも今後の働き方の選択肢のひとつとしてスタンダードになりそうです。
実際にテレワークを前提とした働き方を推進し、オフィスの存在や定義を見直している企業のお話もうかがいます。この機に”DX(デジタルトランスフォーメーション)”に本腰を入れているという話題もよく耳に入るようになりました。
テレワークのためにITツールを整えた。
セキュリティ対策もバッチリ。
人事制度も間に合った。
これで無駄な時間も減り、きっと生産性も高まるはず!
果たして本当にそうでしょうか?
もし以下のような問題に心当たりがあると感じたなら要注意!組織の生産性は大きく下がってしまっているかもしれません。組織のマネジメントを見直してみる必要がありそうです。
目次
コミュニケーションが希薄になる問題
オフィスで目の前で一緒に働いていた時には、いつでも声をかけることができたかもしれません。離れ離れで働くことになると、ちょっとした声かけができないもどかしさを感じることがないでしょうか。
オンライン会議ツールや、Webチャットツールなどを利用できるようにしていたとしても、「コミュニケーション」が生まれるわけではありません。
確かにオンラインとオフラインでは、相手から得られる情報量に大きな差があります。
テレワークなど離れ離れで働いている場合は声をかけるきっかけをつくることが難しくなるでしょう。
テレワークを導入してしばらくすると、ちょっとした声がけの大切さに各自が気づいてくるのではないでしょうか。
何気ないあいさつや世間話といった雑談が果たしていた役割や、業務上のちょっとした相談や確認や意見交換が果たしていた役割。このような「雑談コミュニケーション」や「業務上のコミュニケーション」は、組織内の仕事を進めやすくして、実は見えない時間的コストを減らすことに貢献していたことに気付くはずです。
業務の指示や、結果の報告だけで本当に良いですか?
ちょっとした確認ができないまま、長文のテキストで議論の応酬をしていませんか?
コミュニケーションロスは、コミュニケーションコストを増やしてしまいます。
管理と監視が強くなり過ぎる問題
「サボられると困るから」
- 頻繁に”電話”をかけて状況を確認する
- Web会議システムをつなぎっぱなしにすることを強要する
- PCの操作ログを常にとられる
- PCの前から離席したかどうかが上司に通知される
自分自身が「監視」される側だとしたらどうでしょうか。
イキイキと働くことができますか?モチベーションはあがりますか?
管理・監視を強化するのではなく、相手を信用・信頼することから始めたいものです。もしそれができないのであれば、これまでの自社の組織のコミュニケーションやマネジメントを疑うべきかもしれません。
目標はお互いに握れているでしょうか。
業務の指示の仕方や、報告のルールは適切だと言えるでしょうか。
信頼関係をつくったうえで、勤務中は必要な時に気軽に連絡をとれる状態をつくることは大事です。決して監視はよくありません。
まさか管理することが目的になっていませんか?
放任放置が過ぎる放置プレイ問題
管理監視の逆ですが
- 報告しなくても何も言われない。
- 報告しても特に何も言われない。
このような状況はありませんか?
報告義務はありません
「報告しなくても何も言われない。」
ひとりひとりが”与えられた”役割・職務を全うして結果を出せば良いという考え方からかもしれません。しかしながら、そのような状態は健全でしょうか。
会社の経営方針や個人の働き方の考え方もあるかもしれませんが、会社というのは単なる個の集合体なのでしょうか。
「会社」は、本来は何らかの事業目的のために集まり協働することで、一人ではできないことを成し遂げるためのつくられた組織ではないかと私は思います。
協働することで相乗効果を生みます。目的を最大限に果たし、存在価値は高まり、社会への貢献度も大きくなっていくでしょう。
仕事観は様々なので、どれが正解ということもありませんし、仕事だけが人生でもありませんが、人生の時間の多くを「働く」ことに使います。仕事を通じて得られる充実感や幸福感は、他者との関わりの中で生まれるものが大半だとも思います。
同僚どうしお互いに関心を持ちたいですよね。
報告を無視されていますか?
いっぽう「報告しても特に何も言われない。」
という話は似ているようで大きく違います。
報告しても誰からも反応が得られない状態は論外かもしれません。報告した本人にとっては、確認してもらえたかどうかすらわかりませんから!
言い方が悪いですが「放置プレイ」そのものです。
報告に対して「確認しました」「ありがとう」「よかったですよ」のようなシンプルな”承認”すら行っていないようなら、マネージャーは仕事をしていないかもしれません。
チームワークの弱体化問題
離れ離れで働くようになると、同僚が何をやっているのかわからない状態になりやすいことは言わずもがなです。
チームワークの弱体化の原因は「お互いの働きぶりが見えない」ということが大きく影響します。
同じ部門の同僚ですら見えなくなり、他の部門はますます見えなくなります。これでは組織の一体感もあったものではありませんね。
自社ではグループウェアや業務管理や案件管理のようなITツールも導入しているし、業務が動いていることも分かるから問題はない。
実はここに見落とされがちな罠があります。
グループウェアの掲示板には、各部門からのお知らせや案内はある。
営業管理システムには案件の情報も登録されている。
経理上の数字のデータも日々変化して追うことができる。
何も業務は困らないと感じるでしょう。
ただ意外と見ることができない同僚の日々のがんばり。
ここが見えないと、「よくやってるね」「◎◎の件、対応してくれてるんだね」「いつも××の件、ありがとう」といった声がけをするきっかけとなる情報が激減してしまいます。
安定して好業績である組織の条件のひとつに「メンバー間に信頼関係がある」というものがあります。
信頼関係を築いていくには、日常の小さなコミュニケーションの積み重ねに他なりません。
社内のいろいろな人にスポットライトをあてるような社内報といった取組みも良いですよね。
ただもう一歩踏み込んで、働きぶりやがんばりがいつでも見られる状態をつくり、日常のマネジメントやチームコミュニケーションの段階から対応できれば、組織内の関係性づくりにもさらに良い変化が期待できます。
評価することが難しすぎる問題
職場で目前で働きぶりや勤務態度やコミュニケーションを見ることができないことで、メンバーを評価することが難しいと感じるマネージャーは多いと聞きます。
では「結果」「成果」だけで評価すればよいかというと、そんな簡単な話でもありません。
「成果」とは何をもって”成果”とするのか。
メンバーの役割を細かく規定することで結果を見て評価することはマネジメントする人にとっては楽になるかもしれません。
この機に人事評価制度をメンバーシップ型(人を評価する方法)からジョブ型(役割と成果で評価する方法)に変えようとする動きも増えています。
ただちょっと待ってください。ここにも落とし穴があります。
評価を行うため役割を細かく指定する「ジョブディスクリプション」というものを人材マネジメントの一環で作成する会社もあります。
しかしながら役割に記載されない評価されない仕事は誰も取り組まないという状態にもなりかねない点に危うさがあります。チームワークに課題が多そうですし、新しいビジネスの種はそんな”隙間”に落ちていることもしばしばです。
いずれにしても、メリットデメリットがあるということです。
評価というのはもともと難しいものですが、大切なことは会社として目指す目的に向けて、自律的に考え行動できているかどうか、必要に応じて適切に他者と協働することができているかどうかを見る必要があるのではないでしょうか。
ではどのように評価するのか。
日々どのように職務を行っているのか(小さな進捗やタスクや心がけ、行動、業務プロセス)を可視化できるような仕組みや基本ルールは必要になるかもしれません。そして、短い時間でも良いので対話を疎かにしてはいけません。
心身の健康が脅かされる問題
テレワークになり個人の健康面で変化があったという話はよく聞かれます。ネガティブなことばかりではなく、ポジティブな変化も多くあり、とても良いことです。
それはつまり個々人の”セルフマネジメント力”が試される状態になっているとも言えるのです。
ポジティブな場合
- 通勤時間に使っていた時間を運動の時間にあてる
- 自炊をするようになり健康的な食事を増やした
- 早い時間に業務を終えられるので睡眠がとれるようになった
ネガティブな場合
- 歩く距離が大幅に減ってしまい運動不足になっている
- ストレスから食事量や酒量が増えてしまった
- 公私のメリハリがつけられず長く仕事をしてしまい睡眠不足
ほんの一例を取り上げましたが、ひとりひとりの置かれている居住環境や家庭環境、仕事環境によっても全く異なるので一概には言えませんが、これまで以上に会社としても心身の健康のケアは重要になりそうです。マネージャーもメンバーの様子は確認する必要があるでしょう。
なぜなら見えづらい生産性低下や、心身の不調につながる要因が多く潜んでいるからです。
コミュニケーション機会が減ることは、孤独感の増幅につながってしまいます。また関係性の希薄化から、相談ができず業務におけるストレスを感じることも増えます。
通勤時間が減ることは、もしかするとリフレッシュできていた時間が減っているという人もいるかもしれません。
オンライン会議は移動が無い分、同じ場所で周囲の変化もない中でずっと会議をできてしまいます。いつもより商談や打ち合わせ・会議を多く入れて途切れずに会議しているようなケースもありますが、やはりリフレッシュ機会がオフィスに比べると減っていると思います。
自分ひとりならと食事に気を遣わなくなる人もいます。オフィスに出社しているならば、誰かと連れ立って定食屋さんなどにランチに出かけることもあったでしょう。
頓着しない人は食事をとらないとか、カップ麺ばかりで済ませるというような状態もありえます。
ワークスペースが仕事用ではない場合、腰痛や肩こりなどの不調も増えます。
心身の健康が損なわれると「アブセンティーズム(欠勤や休職)」「プレゼンティーズム(集中力や生産性の低下)」につながります。
健康は個々人の問題と切り捨てるのではなく、支援をする姿勢は大切になるのではないでしょうか。
リフレッシュ方法や日々の工夫を組織内で共有する取組みをするだけでも、状況は良くなるかもしれません。
貢献意欲が低下する問題
職場で顔を合わせることがなくなることで、組織への貢献意欲が低下してしまうのではないかという懸念もよくうかがいます。従業員エンゲージメントの低下、モチベーションの低下と表現されることも多いものです。
これまでに取り上げてきたような
- サボるからと監視を強化している
- 報告を確認せず放置プレイをしている
- 働きぶりを承認することをしない
- 組織内のメンバーどうしの関係づくりに興味ない
- 心身の健康管理は個人の問題と切り捨てる
もしこのような状態でありながら「従業員のエンゲージメントが問題だ」「メンバーにもっと貢献意欲を高めてほしい」「帰属意識が問題だ」などと嘆いているようであれば、あまりにもお粗末ではないでしょうか。
もしこれを読んでくださっている方が会社・組織のメンバーに貢献意欲を高めてほしい(少なくとも維持してほしい)と思っているのであれば、ぜひひとりひとりのメンバーの小さな貢献を認めることから始めてほしいと思います。貢献が見えないのであれば、見える仕組みをつくりませんか?
メンバーの貢献意欲が下がる大きな理由の一つは、自分自身の組織への貢献が認められていないと感じることです。
組織でエンゲージメントやモチベーション、従業員満足度を測定するパルスサーベイのようなアンケート調査を実施することで、結果数値を見て一喜一憂するだけに終始していないでしょうか。
大切なことはひとりひとりの存在を認めたうえで、様々な貢献を見逃さずちゃんと認めることです。現場でできているかどうか、今一度確認してみてはいかがでしょうか。
まとめ
本来はテレワークの導入活用はメリットが大きいはずです。
冒頭にも触れましたが、BCP(事業継続計画)としても重要ですし、人材採用力の強化と多様な人材の活躍、転居や育児・介護による離職低減にもつながるでしょう。交通費や出張旅費の減少、オフィスサイズの最適化によるコスト削減にもなります。IT化が促進され、業務効率化が促進されます。
しかし生産性は本当に高くなっていると言えるでしょうか。継続することで見えてきた人材マネジメント上の課題が山積みになっているように感じます。
実はテレワークであっても、オフィスで仕事していても本質的な組織の課題は同じです。これまでに存在していた組織の課題が、テレワークが進むにつれて分かりやすく顕在化している状態です。
一方で顕在化している課題をこの機会を逃さずにしっかりと見直せば組織は強くなること間違いありません。
これからの組織の在り方、そして個人の働き方に真摯に向き合っていきたいですね。