テレワークの導入推進は働き方改革、東京五輪時の混雑緩和、地方創生など様々な文脈から政府としても推進を後押ししてきていましたよね。結果として新型コロナによる感染防止策のひとつとして、急速に広がることになりました。
当社では2016年頃から従業員主体の働き方改革を試行錯誤で行ってきました。テレワークの導入もそのひとつです。
私たちは自ら離れ離れで働くことによって生じる体験や感情といった経験を共有しながら、改善を進めてきました。そんな身をもって得た経験値がある私たちだからこそわかる課題や解決法もあります。
テレワークを会社の働き方の選択肢のひとつとして加えて、本来の機能を果たせるようになれば企業力・組織力の向上を期待できるものであることは間違いありません。
ではテレワークを機能させるためには、どのような課題への対応が求められるのでしょうか。
目次
Whyから始めるテレワーク導入推進!ができていない
テレワークの利活用を推進するためには、手段と目的が入れ替わってはいけません。私たちが働き方改革を進めるうえでこだわったポイントは「チームワークを損なわず生産性を向上する」ということです。
働き方改革の施策はいくつもありますが、結果として、わたしたちにとって大きいものは以下のような施策でした。
- テレワークを活用できるようにする
- 勤務する時間の柔軟性(フルフレックス化)
- 各自がお休みをとりやすい環境にする
なぜこれら3つが私たちにとって重要な意味を持つのか。手段ありきではなく、課題を共有し目的を定めて議論を重ねた結果なのです。
ほんの一例ですが、
- 実家が海外のため短い休暇での帰省が困難
- 子育てをしながら仕事に邁進できる環境がほしい
- 介護・看病などが必要になっても仕事を続けたい
というような必要性に迫られていた背景があります。
外国人メンバー、子育て中のパパ・ママメンバー、ご両親の看病や介護が必要になるスタッフメンバー。皆、何かしらの課題や不安を抱えながらも仕事をしているのです。
「今」特に課題がないメンバーにとっても、将来を考えた時にどうだろうか。そんなことを”お互い様”と考えながら議論を重ねました。
メンバーそれぞれが自分事として捉え、離れ離れでも組織の生産性を落とさずに事業を進める方法にトライ&エラーを重ねながら取り組む土壌ができたと言えるでしょう。
“なぜ”取り組むのかをしっかり共有し、それぞれが自分事として捉えて”腹落ち”する状態をつくることが、施策の導入推進を成果に導くためのカギとなることは間違いありません。
ITツールやデバイスを整えれば大丈夫!という落とし穴
テレワークを円滑に進めようと思えば、やはり各種のITツールの導入は必須となります。しかし、導入したらうまくいくわけではありません。
様々なデータファイルを共有するだけではなく、共同作業を可能にするためにGoogleやMicrosoftなどが提供するグループウェアを検討し、私たちも導入しました。
- ファイル共有ドライブの運用方法はどうするのか
- 共有カレンダーの使い方はどうするのか
- チャットの使い方はどうするのか
- オンライン会議システムはどう利用するのか
様々なITツールは、やはりツールにすぎません。どのように利活用するかは、本来の目的に立ち戻って考える必要があるでしょう。
例えば分かりやすい例で「コミュニケーションツール」の活用があります。チャットツールや社内SNSなどです。
気軽にテキスト情報を送受信できるため、テレワークでは重宝されます。ただ一方で、思わぬ落とし穴もあります。
- ダイレクトメッセージ(DM)を多用してしまい情報流通がタコつぼ化してブラックボックスになる。
- テキストメッセージ上で議論になってしまい収集がつかなくなる。
社内SNS・チャットに限ったことではなく、メールでのコミュニケーションも同様の問題があります。
ひとりひとりの時間的ロス、心理的ストレス増加、組織の分断によるコミュニケーションコストの増大を招きかねません。
便利で効率化できるはずのツールが、まったくの逆効果。思わぬ非生産性・非効率を生んでいる可能性があります。
私たちの場合、試行錯誤を重ねた結果、
- チャットの利用は即時連絡が必要な場合に使用するものとする。連絡手段として割り切る。
- 1to1のダイレクトメッセージ(DM)は原則使用しない。必要最小限にとどめる。
- チャットは組織内の公開スペース(非公開・秘密のスペースでは行わない)で行うこと
- 報告はHabi*doを使用してプロセスを全体に共有すること。(グループウェアや、ファイルへの入力だけではプロセスが見えづらくなるため)
- 相談や議論はできるだけ直接話(対面、オンライン会議、音声通話)話をすること
- テレワークであっても遠慮なく声がけをして良い(対応できなければ、後から声をかけなおせば良い)
このような運用ルールを策定し、実行してきました。
私たち自身がトライ&エラーを繰り返し議論して改善を進めた結果生まれたものなのです。
ちなみに、コミュニケーションツールひとつとっても、使い方やそもそものITリテラシーが重要になります。丁寧な社内勉強会を開いたり、相互に教え合うようなことも推奨していくことも忘れてはなりません。
労働時間をきっちり管理すれば大丈夫!の落とし穴
テレワークでよく課題にあがる問題のひとつとして、労働時間の問題があります。
- サボらずにしっかり働いているかどうか確認するため。
- 働き過ぎの防止や、残業を防止するため。
このような目的で、労働時間を監視管理するソフトウェアが導入される話を目にします。
労務管理上で必要になることはわかりますし、必要なことでしょう。特に後者の「働き過ぎ」を防止するうえでは重要で、その点においては私も同意します。
ただ一方で前者の「サボり防止」はもちろん、時間で管理することそのものにも落とし穴があることは間違いありません。
「サボり防止」のために監視されるとしたら、気持ちよく会社に貢献し働こうという気持ちになるでしょうか。人は機械の部品ではなく、心をもっている存在であることを忘れているように思えます。
サボり防止の監視を行う場合、それは性悪説(人の根源は悪である)に基づいたマネジメントを行っているということです。テレワークになると、目前で勤務状態を確認できなくなることから余計に信用ができずに監視ツールを導入してしまう。
モチベーション高く、組織に貢献するために業務を遂行しよう!自身のスキルアップをしよう!と思えるようなマネジメントを行うには、「監視」が逆効果であることは明白です。
人材を時間で管理・評価することと、労務管理上の労働時間管理は別物だと思います。
労働時間が長い事が評価される時代はとっくの昔に終わっているはずなのです。
大切なことは時間ではなく、時間あたりの生み出す価値をどれだけ高められるかに焦点をあてることではないでしょうか。
そのためには性善説(人の根源は善である)にもとづいて、サボっても、うまくリフレッシュをしながら、生産性を高められるという視点を持つことが重要になるでしょう。
テレワークなら、この考え方を持つことの重要性が増すと考えます。
加えるなら性弱説(人の根源は弱い)にもとづいて、ひとりひとりを支援し、チームで補完し合う関係性を築くことも重要です。
定期的な雑談の場を設定すれば大丈夫!の落とし穴
円滑な業務コミュニケーションを促進するために、テレワークになったらこそ「雑談」の重要性に気づかれることも多いのではないでしょうか。雑談の多い組織のほうが生産性が高いという研究結果もありますよね。
テレワークの導入推進を行う中で、やはりオフィスで顔を合わす時よりも雑談の機会が減ってしまうことは否めません。(オフィスでも雑談は全くありません、という組織の話もうかがいますが…)
組織の施策として、定期的な雑談機会の場を創出していくことは素晴らしい取り組みです。こうした工夫をされている企業のお話もよくうかがいます。話題を決めて、毎回シャッフルをして互いに話せる機会をつくるなど、良いですよね。「雑談をしろ」と言われても案外難しいところもあります。なので話題を決めるというのも一手でしょう。
ただし、それだけで組織内の信頼関係が構築されるというには難しいものがあるでしょう。
雑談にも実は種類があります。
プライベートな話題や、世間話といった分かりやすい雑談もあれば、業務上のちょっとした雑談もあります。実はこの「業務上のちょっとした雑談」の重要性が大きいのです。
例えば
- この間の商談は◎◎だったよね
- 企画書のこの表現をこうしたいと考えてるけどどう思う?
- 先日会った〇〇さんがね、こんな良い情報をくれたんだ
- 最近、××が流行っているの知ってる?
- △△さんが★★の件で悩んでいたな
テレワークになるとこの「業務上のちょっとした雑談」がやりづらくなるのです。ここだけはオフィスで勤務しながら対面でタイミングよく声をかけることに勝るものは無いのですが、最近では多様な”バーチャルオフィス”ツールにトライするような会社もあります。わたしたちも「業務上のちょっとした雑談」をやりやすくする目的で導入しています。
オンライン会議ツールを導入していたとしても、オフィスであってもテレワークであっても、こうした声がけを遠慮せずできるという風土づくりが大切ですが、これは日々のマネジメントやチームコミュニケーションの積み重ねからも影響します。
お互いが関心を持ち、共通の目的に向けて取り組むからこそ、こうしたコミュニケーションが生まれるものだとも思います。
サーベイで状態を測定すれば大丈夫!の落とし穴
テレワークでお互いの状態が見えづらくなることから、心理状態を測定するアンケート調査を社内で実施することもあるでしょう。
しかし意外とここからだけでは見えないものが多いのも事実です。調査結果データを目安としながらも、現場で丁寧な対話的コミュニケーションをできているかどうかをふりかえってみていただきたいです。
たいそうな面談を実施しなくても、日々ちょっとでも話す機会をつくるだけでも変わります。カジュアルな1on1ミーティングを設定しても良いかもしれません。
日々の報告(日報やタスク報告、案件報告など)からプロセスの状態を可視化できるようにすることで、メンバーの状態の変化がつぶさにわかるかもしれません。
プロセスを可視化共有するだけではなく、そこにメンバー間や、少なくともマネージャーからメンバーに対して「見たよ」「いいね」「ありがとう」「助かった」「Good!」「すごい」など承認するだけでも状況は好転するでしょう。
テレワークになると、多くの人が孤独感を感じやすくなります。また組織の一体感を感じづらく、帰属意識や貢献意欲の低下が懸念されるでしょう。
そうしたとき、小さな承認行為をないがしろにしないことです。業務の進捗や、個人の小さな成長に敏感になることです。そして貢献に対してしっかりと認める行為を行うこと。
大切なことはやはり日々の日常的なマネジメントであり、チームコミュニケーションです。
まとめ
テレワークの導入推進はツール導入ありき、環境づくりありきではうまくいきません。
離れ離れであって、姿が目の前に見えていなくても、ネットワークの向こう側にいるのは心のある生身の人間であることを忘れてはいけません。
テレワークの利活用を成功に導くためには、目的・目標を明確にすること、情報やコミュニケーションをオープンに行う組織文化をつくること、お互いのことを尊重し認め合い信頼できる関係性をつくることなのです。
組織で、チームで仕事をする限りは、組織を構成するメンバーそれぞれが上記のような考え方に同意しなければ、うまく機能しないでしょう。
テレワークでも円滑に事業を推進できる組織づくりは、そもそも「生産性を高める」「事業を継続できる」「多様な人材の活躍」を促進できる取組みです。
テレワークを成功させる組織マネジメントのコツは、実はオフィスで顔を合わせて仕事をしていても、同様に大切なことばかりなのです。
私たちには、私たち自身が取り組んできたことから得た知見や、離れ離れの人材マネジメントで業績を高めることにつながったクライアント、ノウハウを凝縮したソリューションを提供しています。お気軽にご相談ください。