Habi*do通信

オーセンティックリーダーシップとは? リーダーとして「自分ではない誰か」になる必要はない

オーセンティック(authentic)とは、英語で「本物の、確実な、真正な」という意味。この場合、簡単にいうと「自分らしさ」を意味します。

そしてオーセンティックリーダーシップリーダーとは、自分の強みや弱みをしっかりと知ったうえで、自分らしさを発揮するリーダーシップのこと。人真似ではなく、自身の価値観や倫理観にしたがうリーダーシップは、今までにはあまりなかった概念です。

今回はオーセンティックリーダーシップについて解説いたします。リーダーの方は、自分の振り返りをしながら。これからリーダーになる立場の人は、未来の自分を想像しながら。そして、「リーダー的存在」の人たち…たとえば芸能人やスポーツ選手、財界人などを思い起こしながら読んでいただけると幸いです。

なぜ今、オーセンティックリーダーシップが求められるのか

時代によって求められるリーダー像は変化します。オーセンティックリーダーシップは比較的新しい概念で、従来のリーダー像とは異なります。では、なぜ今、オーセンティックリーダーシップが求められているのでしょうか。

周囲も巻き込むから

オーセンティックリーダーシップ

今までのリーダー像には、会社や組織が求める、いわゆる「お手本」がありました。それは、完全無敵のスーパーヒーローのようなリーダーです。部下や同僚はそのリーダーを「すごい」とは思うけれど、どこか他人事に感じ、「自分には無理」と、遠くから見ているだけという状態を引き起こしがちでした。一方、オーセンティックリーダーシップでは長所も弱点もさらけ出します。いうならば、弱点もたくさんある、人間臭いヒーロー像。そうなると、周りもそのリーダーをほっとけない!弱点をカバーしようと、自然と一緒に取り組むようになります。

格好つけなくていいから

会社のように多くの人がいる集団では、リーダーになった人は本来の自分よりも「よく見せよう」と、いい格好をしがち。それは人間の習性でもありますが、無理に背伸びをして、ウソをついてしまうこともあるはずです。周囲からの評価のため、仕事以外のエネルギーを使えば、集中力の低下を招きます。その結果、本来のパフォーマンスを発揮しにくくなるでしょう。一方、オーセンティックリーダーシップでは、ウソや偽りのないありのままの自分でいることができます。

深い信頼関係が築けるから

現代はVUCAの時代。何が起こるかわかりません。それに対応するためにはリーダーと部下との信頼関係が不可欠です。今まで理想とされてきた、力強く引っ張っていくタイプのリーダー像では、部下との信頼関係を結びづらい場面が出てきます。一方、オーセンティックリーダーシップではリーダーが万能ではないことが前提なので、お互いの助け合いと、その結果の信頼関係が手に入ります。

オーセンティックリーダーシップ 5つの特性

オーセンティックリーダーシップを世界に広めた立役者は、ウィリアム・W・ジョージ (William W. George)です。エンロン社の不正会計をきっかけに提唱されたこのリーダーシップは、特に倫理観を重視しています。そこには5つの特性があります。

1.自分の目的をしっかり理解する
2.倫理観に基づいて行動する
3.真心を込めてリードする
4.永続する関係を築く
5.自己規律を保つ

それぞれもう少し見ていきましょう。

1. 自分の目的をしっかり理解する

冷静に自分をみつめて、しっかり認識し、目標を十分に理解している。
「こうあるべき」や「こうでなくてはならない」という従来の考え方にとらわれない。

2. 倫理観に基づいて行動する

自分が正しいと思う倫理観に従うことができる。その倫理観は周りの影響を受けることはなく、ゆるぎない。反発を受けるようなことでも、自分の倫理観に沿った行動ができる。

3. 真心を込めてリードする

常に本音で人と向き合う。ときには自分の弱みすら見せることができる。上司や部下といった立場にこだわらず、真心をもって引っ張っていく。

4. 永続する関係を築く

深い信頼に結ばれた、長く続く人間関係を築くことができる。社内だけにとどまらず、家族や友人ともしっかりとした関係を結ぶことができる。

5. 自己規律を保つ

自らを律し、常に学び続ける姿勢をもつ

もしあなたのチームに、この5つの特性がすでに備わっている人がいれば、新しい時代のリーダーに向いている人材です。大切に育成してみてはどうでしょうか。

オーセンティックリーダーシップ 注意すべきポイント

このように、オーセンティックリーダーシップは今までのリーダー像とは違う特性を持ちます。そのため理念と目的を理解せずに導入すれば、活用の失敗も懸念されます。次のようなことに注意してください。

・「自分らしさ」にこだわりすぎて、他人に対して不寛容で独りよがりになりがち
・「ありのまま」でよいからと、自分の変化や成長を否定しがち
・それぞれの環境や場面に適切なリーダーのあり方を考えない

オーセンティックリーダーシップは、自分が思うように行動し、我を通すことではありません。大切なのは、周囲をも巻き込んで組織を動かすことです。もちろんリーダーの持つ強みは存分に活用します。ポイントはリーダーが弱点をさらけ出せるかどうか。弱点はできれば見せたくありませんよね。でもその弱点をさらけ出すことで、周りの人間がおのずとサポートしようと動き出すのです。

オーセンティックリーダーシップの強み発揮!好事例のご紹介

能力は素晴らしいが、チームプレーが苦手で愛想もよくない社員がいました。もちろん従来のリーダー像からはかけ離れています。しかし、長所も短所もその人の「持ち味」として、リーダーに任命されました。

懸命に取り組んでみたものの、業績は芳しくありません。チーム内の雰囲気も少しずつ悪くなっていきます。焦ったそのリーダーは典型的なリーダーシップを取り始めましたが、やはり業績は悪化したまま。そしてなにより、自身の「持ち味」が全く活かされていませんでした。

業績向上

方向転換をしたそのリーダーは、典型的なリーダー像を追うことをやめ、「自分らしいリーダー」として行動することにしました。すると業績が少しずつ上向きになり、チーム内の雰囲気もよくなりました。実は周りのメンバーは、その人の長所も弱点も理解し、その人が「自分らしいリーダー」として動き出すことを待っていたのです。

これはあくまでひとつの事例ですが、会社という組織では、リーダーひとりが業績を上げる必要はありません。完璧なリーダーも必要ありません。仕事はチームプレーです。リーダーの弱点は周りの人間、みんなでサポートする。これがこれからの時代に求められる組織の在り方です。

あなたの「自分らしさ」、きちんとわかっていますか?

強い人が任命され、強くあらねばならないという「べき論」に縛られていた従来のリーダーシップ。あなたの会社は、今どのようなリーダーが活躍しているか、思い起こしてみてください。

強がったり、恰好をつけるリーダーによって組織が動く時代は終わりました。
リーダーになる人だけではありません。これからの時代は、長所も短所も含めて、自分の強みを認識できる人が伸びていくでしょう。すぐに答えの出る問題ではありませんが、平時から日常的に「自分らしさ」を探し、理解しておく必要があります。会社としても、そのような人材を探し、大切にできる評価制度が求められるのではないでしょうか。