「成果を上げるのは才能ではなく習慣である」とは、P.F.ドラッカー氏の言葉です。
成功を収めているといわれる人々には、何かしらの良い習慣をもっていることも多いといわれます。
新年を迎えるにあたり今年こそは「英語の学習習慣をつけよう」とか「筋肉トレーニングの習慣をつけよう」というように誓いや抱負を立てる。
しかしながら、きっと多くの人は数週間が経つかそれ以前に習慣化を挫折し、「やっぱり自分にはできなかった」と自己嫌悪に陥ってしまい自信をなくしてしまう。そのようなこともあるでしょう。実際にわたしもそのひとりです。
モチベーションはとてもあるのに、成果につながらない。でも実はそういうものなのです。
なぜなら「モチベーション」があまりにも頼りにならないからです。モチベーションを理由にして「できた」「できない」というのは、うまい言い訳に過ぎません。感情やコンディションに影響されてしまう要素でもあります。
大切なことは「モチベーション」に左右されないくらい、そして簡単に実行できるくらいに習慣化の目標をスモールステップにすることです。
これは個人の問題だけではなく、組織の問題にも好影響を及ぼす可能性があります。
よい行動を習慣化するためのコツ
できたかどうかを確認できる計測できる行動目標とすること
たとえば「食事をよく噛んで食べることを意識する」という行動目標を立てたとします。何回くらいかんだら(咀嚼したら)よく噛んだといえるかよくわかりません。「意識する」ということも意外と判断が難しい。達成したかどうかよくわからないので、「今日はできた!」という達成感を感じることも難しくなります。
であれば「30回噛む」ならどうでしょう。具体的になりました。ただ、これでもまだ不完全です。毎日3回食事をしていたとしたら、毎回、すべての食事、口に運ぶすべての機会を30回咀嚼しないといけないのでしょうか。(これは意外と普段できていない人にとっては難しいしハードルが高い。)
たとえば「1日に1回1口だけでも、10回噛む」とかにするとハードルはぐっと下がりますし、具体的ですね。
できないことが難しい、失敗できないくらい簡単なミニマムな行動目標とすること
人によって「簡単」のレベルは違います。定義は人それぞれです。
例えば私の場合は腹筋運動がついつい面倒くさくてさぼりがちです。でもやりたいとは思っている。毎日しようと思っていてもなかなかできない日が続き、できないと自己嫌悪で自信喪失という自己嫌悪に陥り、ますますできないということもありました。
そこで「腹筋1回だけ」しようと目標を立ててみると、不思議と「それくらいできる」と思ってできてしまうものです。寝る前になってすることを忘れていて思い出したら、あおむけの体勢のまま1回だけ行う、それで達成です。
面白いのは「1回」だけで終わらないことです。10回くらいは勢いでやってしまいます。調子がよければもっとやります。
例えば英語の学習だって同じです。「英単語1つを暗唱する」みたいなものでも良いのではないでしょうか。
また「読書を1ページだけする」でも良いかもしれません。
ここで大切なことは、どれだけ小さな行動目標でも達成したと誇りを持つことです。「たったこれだけだからたいしたことはない」という“くだらない”プライドは捨てたほうがいいです。それよりも続けることと、小さな達成でも喜びを感じることに重きを置きます。
どれだけ小さな達成体験でも、それが継続できていると、それだけで“自己効力感”が高まり、ポジティブな気持ちになります。自分自身への信頼感が高まることで「自分ならできる!」という次の行動や、次のステップにつながる大きな原動力となります。
ステップ・バイ・ステップ法という行動変容促進手法があります。これは小さな行動目標を立てることを推奨する方法です。
できたかどうかを可視化して確認できる仕組みをもつこと
本当に習慣化して生活の中に馴染むまでには、数週間から数カ月以上かかる場合もあります。それは人にもよりますし、内容にもよるので一概には言えません。
習慣化したといえるくらいに定着するためには、毎日見るものに記録をしていくことです。
アナログならカレンダーに印をつけていくというのが手っ取り早い方法です。手帳も良いですが、壁かけのカレンダーのほうが直感的です。
デジタルならスマートフォンやパソコンで記録できるアプリが良いでしょう。
目標が達成できたかどうか、習慣を継続できているかどうかを可視化することで、達成感を増幅させることができます。
成果だけに目を向けるのではなく、行動を積み重ねているかどうかというプロセス(進捗)の部分に目を向けることが大切です。
行動変容促進の手法に「セルフモニタリング法」があります。成果をグラフ化するケースもありますが、このように進捗を見ていくことにも適用できます。
ご褒美をつくること
1週間継続できたら、1ヵ月継続できたら、というように何か自分にとってのご褒美となる報酬を設定しておいても良いでしょう。
「ゲームをする」「スイーツを食べる」「映画を見に行く」など、自分が好きなことを設定します。
ただ、あまりにも簡単に報酬を得ることができたり、報酬そのものが中毒になるようないわゆる「悪い習慣」になってしまいかねないようなやり方はNGです。ここだけは注意したいところですが、うまく使えば効果的な方法です。
可能な範囲でご褒美を設定することを検討してみてはいかがでしょうか。
これは行動変容促進のシーンでも用いられる「行動強化法」という方法です。
自分でやることを決めること、自分でコントロールすること
ほとんどの人は「これをやりなさい」と言われてやることにポジティブな感情を抱かないのではないでしょうか。
当然ですが「やらされ感」では、自発的・主体的な行動ではありません。主体的な行動ではない場合、それは楽しいものではありません。
特別な使命感がある場合は達成感を感じることもあるかもしれませんが、長続きするイメージはありません。
できれば自分で「いつ、どんなことを、どれくらいやるのか」を決めて自分でレベルも調整していくことが大切です。
ここで忘れてはいけないのが、欲張って達成する難易度が高い行動目標にしないこと。自分が簡単に達成できるレベルにしておくことが肝要です。
疲れていても「やってみよう」と思えるくらいが理想ですね!
そうすることで、セルフコントロールができているという意味でも自信がついてきます。
先に出た通り、小さな行動目標であれば、達成することが簡単すぎるので、「やらされ感」そのものがわくことすら難しいのですが!
できることなら称え合う仲間をつくること
1人で行動目標を立てて、こっそり人知れずがんばることも悪いことではありません。
ただ、より行動目標を達成したい、継続して習慣化したいと思うようであれば、お互いに励まし合ったり、認め合ったりできる仲間を持つことが力になります。それは共通の目標を持つコミュニティかもしれませんし、職場の仲間などかもしれません。
あの人ががんばっているなら自分もがんばろうと思える環境をつくってしまうことで、さらに行動継続が生れ、習慣化していきます。
よい行動習慣ができれば、必ず成果がついてくるものです。
これは行動変容手法におけるピア・ラーニング法が近い考え方となります。
スモールステップの行動目標(習慣)の達成が組織にもたらすもの
小さな行動目標は、達成が容易なため、失敗することが難しい。
毎日のように達成体験を積んでいると、おのずと自信(自己効力感)も高まってきます。グループで仲間と取り組んでいると、さらに相乗効果が生まれます。
小さな行動をやってみることで、達成体験が生まれ、その繰り返しにより、成果には確実に近づきます。そして、さらにポジティブなマインドを持つことができるようになります。そしてもっとやろうというモチベーションが“結果的に”生れてきます。
これは単に自己啓発で終わる話ではありません。
組織としてこのような仕掛けを実行し、ひとりひとりの小さな進捗をフォローし、しっかり評価することができたのならば、間違いなくポジティブなサイクルが生まれ、様々な生産性向上の成果が生れるでしょう。
「モチベーションを上げるための研修をする」「エンゲージメントをはかる調査をする」だけでは何も変わりません。大切なことは「小さな行動」をひとりひとりが実行すること。それを互いにたたえ合い励まし合う風土をつくること。そしてしっかりとそれらを評価することです。
ひとりひとりが自発的・主体的に目標に向かって行動を積み重ねるようになれば、これほど良いことはありません。会社にとっても従業員にとってもWin-Winの状況になります。それは結果として顧客サービスにも波及し、顧客満足度の向上にもつながることは間違いありません。
「従業員のエンゲージメント」「従業員のモチベーション」は、調査診断や研修や年1回のイベントで高まるものではなく、日々のプロセスを通じた行動の積み重ねから生まれます。
これからは大きな目標を中長期で追うのではなく、小さな進捗をしっかりとフォローするようなマネジメントが求められるのではないでしょうか。