「デザイン思考」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
聞きなれない方は「デザイン会社の話?」「うちはデザイナーとは無縁だからね」と思うかもしれません。
しかしデザイン思考はAppleやGoogleなど世界の大企業でも取り入れられている企業のアプローチ方法で、国内においても徐々にその認知が広がってきています。
いうなれば、デザイナーやクリエイターだけでなく働く人全てに有効な思考法なのです。
今回はそんな「デザイン思考」について詳しく見ていきましょう。
デザイン思考が注目されるワケ
デザイン思考とは、デザイナーがデザインをおこなう際に用いられる思考のプロセスを体系化したもの。
「Design/デザイン」という言葉は「設計」と訳す事ができます。
シンプルに言えば、デザインに必要な思考方法と手法を利用してビジネス上の問題を解決していく手段です。
市場構造の変化を受け、このデザイン思考は今ビジネスシーンで注目されています。
なぜなら従来のモノ・サービスの開発方法ではなく、新たな価値を創出、提供しなければいけないという意識が各企業で高まっているからです。
モノにあふれる現代。マーケットやユーザーニーズを調査してから仮説を設定・検証、製品開発という「仮説検証型」のアプローチが通用しなくなっています。
モノが不足していた高度経済成長期は、単純にモノを作れば売れる時代でした。
常に需要があり、作った分だけ売れるのです。
しかしITやネットワークの発展により現在はモノであふれかえっています。
いかに自社の商品やサービスを選んでもらえるかどうかが重要だと言えるでしょう。
つまり今後の商品やサービスは、ユーザーの体験を作る視点・手法でデザイン思考を構成しなければユーザーに受け入れられないということです。
デザイン思考が重要視されている背景
デザイン思考が重要視されている背景の一つにVUCA(ブーカ)の存在があります。
VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった言葉です。
個人の嗜好性やニーズが多様化した現代、今後は変化が激しく将来の予測が立てにくいこのVUCAの時代に突入しています。
明確な答えが用意されていない状況…解決策は新たな価値創造やチャレンジ精神です。
VUCAに対応するため、そしてイノベーションを引き起こすためにデザイン思考が重要視されるようになりました。
デザイン思考をヒモ解く5つのプロセス
次にハーバード大学の研究機関「ハッソ・プラットナー・デザイン研究所」のハッソ・プラットナー教授が掲げる下記「デザイン思考の5段階」を見ていきましょう。
1. 共感 (Empathize)
2. 定義 (Define)
3. 概念化 (Ideate)
4. 試作 (Prototype)
5. テスト (Test)
1.共感 (Empathize)
まずは共感プロセス。ターゲットを観察し、理解するところからデザイン思考は始まります。
ターゲットの感じていることや価値観を知ることが重要です。
そしてユーザー視点でプロダクトの課題を捉えたのち、根本的な解決策を探っていきます。
具体的な共感の手法としては、アンケートやインタビューといった調査があるでしょう。
2.定義 (Define)
共感プロセスで得られた意見からユーザーのニーズや現状の課題を抽出し、課題解決に向けての具体的な方向性を定めていきます。
このプロセスでは、掘り下げた観察と問題定義を繰り返しながらユーザーが本当に求めていることは何かを考えていくことが重要です。
ここで共感を得た層そのものが異なる場合は、適宜軌道修正が入る場合もあります。
3.概念化 (Ideate)
概念化は課題解決に向けてのアイデアを分類し、絞り込んでいきます。
ブレインストーミングなどの手法を用いて思いつくままに発案することが重要で、概念化は量よりも質です。
4.試作 (Prototype)
アイデアがどのような形で機能するのか検証するためプロトタイプを作るプロセスです。
概念化で見えてこなかった課題を洗い出すのを目的に進めていきます。
試作段階では完璧なクオリティは求められていないので、短期間・低コストで創り出すことが重要です。
5.テスト (Test)
最後のプロセスは、プロトタイプのユーザーテストです。
仮説が正しかったかを検証し、ユーザーニーズに沿っているかの確認を行います。
プロトタイプ完成までがテストではありません。
アイデア、形、機能についてそれぞれ評価し、何度も改善サイクルを回しながらより良い製品・サービスへとブラッシュアップしていくことが大切です。
場合によっては最初の共感フェーズから見直しをする必要もあります。
このようにプロセスを紐解いていけば「デザイン」という言葉を敬遠する人でも、企業で実践できる部分があるように思えてきたのではないでしょうか。
3つのフレームワークでデザイン思考を始めよう
デザイン思考はフレームワークを上手に活用することで、実践が進められます。
今回は3つのフレームワークを見ていきましょう。
1. 共感マップ(エンパシーマップ)
2. ビジネスモデルキャンバス
3. 事業環境マップ
1.共感マップ(エンパシーマップ)
「共感マップ(エンパシーマップ)」はデザイン思考に必要なユーザーの感情、ニーズの理解に役立つフレームワークです。
商品サービスを利用するユーザーやそこに関わる人物、いわゆるペルソナの置かれている環境や感情を書き出して思考を巡らせていきます。
共感マップの基本要素は、次の6つです。
- 見えていること
- 言っていること
- やっていること
- 感じていること
- 聞こえていること
- 考えていること
調査やインタビュー、ヒアリングを行い、要素を作成していきます。
一つの図にまとめペルソナの視点をマップ化すれば、「ユーザーが何を求めているのか」「どんなことに困っているのか」などの把握・考察が可能です。
共感マップはユーザーの感情にフォーカスしています。
一人で書き出すと主観的になってしまうので、基本的には複数のメンバーで行うのが一般的です。
2.ビジネスモデルキャンバス
「ビジネスモデルキャンバス」は、ビジネスの構造を可視化したフレームワークです。
新しいビジネスモデルを開発するときや既存のビジネスモデルを分析するときに用いられていて、全体像を可視化して考えることができるようになります。
ビジネスモデルキャンバスは、下記9つの基本要素から構成されます。
- 顧客セグメント:誰に価値を提供するか、重要な顧客は誰なのか
- 顧客関係: 企業が特定の顧客セグメントに対してどのような関係を築くか
- 提供価値:企業が特定のセグメントにどんな価値を提供するのか、どういったニーズを満たすのか
- チャネル:どのチャンネルを通じて顧客セグメントとコミュニケーションをとり、価値を届けるか
- 収入構造:どのような価値に収入が入るのか
- 費用構造:ビジネスモデル運営で発生するコストについて
- 業務活動:価値を提供するのに必要な活動は何か
- 経営資源:価値を提供するのに必要なリソースは何か
- 提携先:ビジネスモデルを構築するサプライヤーとパートナーのネットワーク
この9つの要素から、ビジネスモデルを分析して相関関係を描いていきます。
記入する順番に決まりはありませんが顧客にどのような価値を届けるのか、その価値を届けるために活用する資源と事業の活動、連携のパートナーは誰かなど、できる限り時系列に乗っ取って書くことがポイントです。
ビジネスモデルキャンバスを活用すれば、ビジネスの全体像を把握することができチーム・組織内での共有もしやすくなります。
3.事業環境マップ
「事業環境マップ」は、自社のビジネスを取り巻く外部環境を分析するフレームワークです。
ビジネスモデルキャンバスは、下記4つの外部環境の変化から構成されます。
- 市場:市場の規模や成長性について
- 産業:競合動向や業界推移について
- トレンド:これから流行る事柄について
- マクロ経済:変動する経済の流れについて
事業環境マップを活用すれば、デザイン思考のプロセスである試作フェーズで市場のニーズが把握できるほか、リリース後の検証が可能です。
環境に合わせてデザイン思考を考えビジネスモデルを変化させることで、事業をより強固にすることができます。
まとめ:デザイン思考で新たなビジネスアイデアを発見しよう
「デザイン思考」と聞くと美術的なセンスを問われるのではないかと思い、苦手意識を持つ方もいるかもしれませんが難しく考える必要はありません。
デザイン思考は新たな製品・サービスを生み出すためのアイデア出し、課題解決をする考え方だと捉えましょう。
また日々の仕事の取組み、課題解決を行う際にも使える大変便利なものです。
顧客ニーズの変化が激しい現代、デザイン思考はあらゆるビジネスマンに必要な思考として注目されています。
今回ご紹介したフレームワークを参考にして、ビジネス上の課題を見つけてみてはいかがでしょうか。