初々しい新入社員が入ってきて、やっと研修期間が終わったというところでしょうか。
その新入社員たちは、会社に定着してくれそうでしょうか?
「新入社員が入社何日目で辞めた」というニュースが、Twitterにどんどん流れる時代です。
今年は桜の開花が遅く、新入社員も、早ければ桜が散る前に辞めるなどといった予想もたっていました。
Twitterでは実際のところ、予想よりもっと早く、3日で会社を辞めたという報告も見られました。
採用担当者の心痛を思うと、青ざめてしまいます。
春の離職は新入社員だけではありません。若手社員が第二新卒枠で転職するケースも多いはずです。キリがいいためか、「4月から新しい職場です!」といった報告もSNSにはたくさんあがっていました。
このように、若手の転職は、まるでブームかのように気軽に行われています。
中小企業の離職率は、大手企業よりも高い
「若年層が定着せず、中堅までの層が薄い」
「人材の回転が速く、困っている」
これらは、人事に関わる人のそして部下を育てる上司層の永遠の課題でしょう。
特に若年層は、一人が辞めると連鎖的に何人も辞めることもあります。
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」の調査結果(18年)によると、大学を卒業し、新卒で入社した若手社員の31.8%が3年以内に会社を辞めています(高校卒業者はさらに高く、39.3%)。
この「3年以内離職率」は、人手不足に苦しむ中小・零細企業のほうが高くなっています。
今後の安定が期待できる大企業ほどのメリットを、中小企業に感じていないため、自分の中で何かが違うと感じると退職を検討するのでしょう。そのため、社員構成の年代に偏りが出てきている企業も多くなっています。
上司や先輩の言動は、しっかり観察されている
若手社員は、よほどの大企業ではない限り、「一生この会社で働く」という意志で入社していないケースがほとんどです。会社サイドからみても、退職金や福利厚生の面を完璧に整備することは難しく、終身雇用というシステムも維持できていないという現状があります。
長期的にキャリアを考えられる社員ほど、「会社が潰れたらどうしよう」という不安を持ち、会社に貢献することよりも自身満足度を高めることを優先します。
そして入社後すぐに、この会社で自分の能力を向上させられるかどうか、仕事にやりがいがあるかどうかを観察します。
「この会社の雰囲気は?」
「将来性は?」
新入社員や若手社員は、会社を判断するため、先輩社員や上司の言動を予想以上にしっかりと見ているのです。
もし、上司や先輩が会社に不満があることをポロっともらしたり、不満を大げさな話に膨らませたりしたことが、若手社員に事実として認識されたとしたら・・・。結果、会社に失望し、早期離職されてしまうかも知れません。
また、同年代の友人や両親、あるいはインターネット、SNS上で不安を相談することに、あまり躊躇がない世代のため、情報収集のスピードが速いのも特徴です。
ワークライフバランスを認めることが重要
若手社員は、仕事が自分自身の生活とのバランスが取れているか、また自分の趣味嗜好を受け入れてくれる会社かどうか、なども重要視しています。
たとえば、「上司に趣味を馬鹿にされた」「趣味のために有休がとりたいのに認められない」などは、立派な退職理由になり得ます。
やる気を出させるために、趣味と仕事の共通点を探るといった心もちで、若手社員の趣味へのモチベーションを仕事につなげるようにしてみましょう。
また、参加を強制したり、休日を拘束するような社内イベントを実施していませんか?
休日出勤にならない社内イベントや、強制飲み会。しかも、自腹持ち出しの会は、昔は「コミュニケーション」として行われていましたが、現代においてはご法度です。
頻度にもよりますが、あまり多いと負担に思われることがありますので、「いつもやっていることだから」と惰性で開催する前に、若手へ良い影響を与えているかどうかを再確認してみましょう。
優秀な若手社員は離職しやすいのはなぜ
「そこまで考えなくてはいけないのか…」とお感じになったかも知れませんが、上記のような対応は、仕事ができない社員ではなく、やる気がある・優秀な人材こそが、会社に求めていることです。
ここ数年は売り手市場のため、若手社員の転職はとても有利。転職活動も昔と違い、転職サイトに登録しただけでもオファーがたくさんくる時代です。優秀な若手社員は、条件がよい転職先が見つかると、気持ちと状況の両面を一気に固め、すぐに離職してしまう可能性があるのです。
そのため、「離職しよう」と思われない環境を、先手先手で整えておく必要があります。
優秀な若手社員には、
- 裁量権を与え、やりがいを感じてもらう
- 副業等を認め、自己の能力を高める場を作る
- 学びなおし、スキルアップの機会を与える
- この会社にとどまるメリットを明確にする
- 福利厚生を充実させる
- ライフステージの変化に柔軟に対応する
などの施策が有効です。
定着には環境の改善を。やっておきたい2つの対策
適正な配置とやりがいも、離職率を下げる重要な要素です。
しかし、希望する配置が偏ることはあるでしょう。全員の希望に従って、今までのキャリアや学生時代の経験を生かした配置につけることは、現実的ではないはずです。
本人のモチベーションを下げる部署に配属された若手社員は、早々に離職を決断しやすい傾向があります。もしくは、離職せずとも「これは労働だ」と割り切り、給与を時間の対価として考える「ただの労働者」となってしまうこともあり得ます。
それを防ぐためには、希望部署に配置できなくても、今の環境を整えてあげることが大切です。若手社員にネガティブに捉えられる要素を減らし、心地いい環境だと感じてもらえれば、定着率は自然と上がります。
意見を聞き、コミュニケーションをはかる
ヒアリングは定期的に行いましょう。
そして、若手社員の希望がそのままは通らなかったとしても、聞き取ったことを「考慮する」と伝えます。本人の話を真剣に聞き、一考し、検討する姿勢を見せ、「会社・上司に蔑ろにされた」と思われないことが大切です。
そして、長期的なキャリアや配置を考えていることや、希望部署への異動の可能性の有無、程度も必ず伝えましょう。
また、不満や相談事も聞き、コミュニケーションを深めましょう。会社で決まったことを一方的に通知・通達するだけでは、コミュニケーションははかれません。
「黙って会社についてこい」「言わなくてもわかるだろう」なんてことは、今の常識ではないのです。
まずは達成できるレベルでの目標管理から
優秀な若手には、ついつい大きな目標を押し付けてしまいがちです。
しかし、「あいつなら大丈夫」と丸投げすることには、注意が必要です。
以下のような「ダメな流れ」は、ありませんか?
- ダメな流れ
- 大きな目標を与えられる
⇒経験がない
⇒うまくいかない
⇒仕事が嫌になる
⇒自分には向いていないと自信を無くす
⇒やりがいを感じない
⇒離職
優秀であっても、若者は若者。「自分には向いてない」と一度思い込まれてしまうと、覆すことが困難です。決して無理な目標は設定せず、こまめなフィードバックを行い、手助けをすることが大切になります。
本来あるべきは、以下の流れです。
- 本来あるべき流れ
- 適切な目標が与えられる
⇒達成可能なレベルで日々行動できる
⇒うまくいく
⇒仕事が好きになる
⇒自分にならもっとできると自信をつける
⇒やりがいを感じる
⇒キャリアアップを目指す
この流れに若手をはめるためにも、日々の行動目標や計画を一緒に立ててみることをおすすめします。また、実践してみてうまくいかなければ、その原因や新たな方法も一緒に考えてみましょう。
そして、日々のヒアリングを怠らず、若手社員を気にかけて声をかける「社内の風土」を育てましょう。若手社員がどんな状況にあるのかは、知っておく必要があります。
強引な引き留めは絶対にNG
いろいろ試しても、若手社員に「離職」という選択をされたときは、離職を聞き入れて下さい。
SNSなどで簡単に「今日会社辞めてきた」と流せる時代です。無理な引き留めは、会社のためにも本人のためにもなりません。
また、転職サイトに「こんな引き留め方をされた」などと書かれてしまうと、今後入社を検討している人へも影響してしまうでしょう。
そして、今いる社員がその状況をみて、連鎖的に退職を検討する可能性もあります。
強硬な引き留めは、絶対にやめましょう。
まとめ
若手人材の定着率を高め、離職率を減少させることは、これから一層本腰を入れていかなくてはならない経営課題です。
特に、現状の離職率が高い中小企業では急務です。早急に対策を取らないと、会社の衰退につながってしまう可能性もあるからです。
これからは多様性の時代です。若手社員だけではなく、外国人や女性、高齢者といった多様な人材が働ける環境は、会社風土をよくするカギになります。自社にとって必要な人材の確保や、流出を防ぐために必要なのは、「思考を否定しないこと」と、「他者への寛容さ」なのかもしれません。