Habi*do通信

「あなたの強みは何か?」に、どう答えるか。

ドラッカーが盛んに強調したように、個人にとっても組織にとっても、「強み」は非常に重要です。個人にとっては、強みこそが組織における存在意義であり、組織への貢献や良質なキャリアを積み重ねるための手段です。強みがなければ存在意義は希薄になるし、貢献の機会も少なくなるので、キャリアも平凡なものに終わってしまいます。

ダイバーシティ

組織にとっては、多様な(バラバラの)強みを持つ個人が集まることが重要で、個々が持つ強みが多様であれば、多様な顧客への対応力が高くなり、環境変化に耐える力も強くなります。同じような強みを持つ人を揃えても、顧客の多様性には対応が難しいし、環境変化にももろいのです。(個々に大した強みがなければ、余計にそう。)『強みに集中せよ』は、このような意味があります。

そんなことは改めて言われなくても当たり前と感じるかもしれませんが、実際に「あなたの強みは何か?」と問われて、即答できる人はかなり少ないでしょう。自分の強みについて、しっかり考えたことのない人が圧倒的に多いのが現実です。これでは、個人としてどのように組織に貢献するかが明確にならないし、強みが曖昧な人たちをマネジメントしなければならない立場の人も難しいのです。

こうなってしまう根本的な原因は、強みがなくても、曖昧であっても仕事と報酬を与えられる日本特有の「正社員制度」にありますが、正社員だから強みを考えてなくてもいいということにはなりません。「私の強みは何か?」を問い、言語化して自覚することが、組織への貢献度を高め、優れたキャリアを築くためには最も効果的な方法であるからです。

では、強みとはどのようなものでしょうか。

1.差異化

第一に、差異化されている必要があります。強みは、それが珍しいほど価値が高いです。多くの人と同じような分野の知識・技術で、それが多くの人と同じようなレベルであっては強みとは言えないのです。同じ分野であるなら、その量が違わなければなりません。

たとえば、普通の人のその分野の知識量が10なら、自分は20にすることです。多くの人が知らない分野の知識を身に付けるという発想も大切になります。量で差をつけるのではなく、質を変えるというアプローチです。ついつい、皆が知っていることを知ろう、皆ができることを出来るようになろうと考えがちですが、それは強みを作るという発想ではありません。

独自の製品を作ろうと考えるとき、「他社より安く、他社より小さく、他社より機能を豊富に」といった量で勝負する視点と、「他社商品とは異なる意味やストーリーやデザインを」と質を変える視点がありますが、これと同様、自らの差異化を図ることです。

2.原則化・抽象化

第二に、強みは原則化・抽象化されている必要があります。たとえば、「営業経験が豊富」「総務部長を3年間務めた」「社長賞を3回獲得した」「新サービスを立ち上げた」などは、具体的な事実であり、強みを表現したことにはなりません。強みは、それを使えば何度も成果が出せるという再現性と、それは他の分野にも使えるという汎用性が求められます。

したがって、成果や経験そのものではなく、それらの原動力となったこと、それらの結果として得られたことを表現しなければなりません。キャリアをていねいに振り返り、自分ならではの能力や姿勢やスキルや知識やマインドなどを記述すると良いでしょう。

3.磨き甲斐や磨く喜び

第三に、強みは、本人が磨き甲斐を感じるものです。強みと自覚するからには、それを客観的に測ったときのレベルを分かっているだろうし、深さや難しさ、課題も見つかっているのが普通です。もうこれで十分だと満足しているようなら、おそらくそれは強みではないでしょう。

勉強すればするほど、自分が知らないことがいかに多いか分かるのと同じで、強みと言えるレベルにあるなら、その未熟さや改善点がいかに多いかが理解できるようになるはずだからです。

また、強みによって成果を残し、組織に貢献できている実感があるのなら、さらにその強みを磨きたくなるのは当然です。自らのレベルを客観視し、課題も見えており、磨き甲斐や磨く喜びを感じているなら、それは強みと言えるでしょう。

4.周囲との共通認識

第四に、強みは、周囲との認識の一致が欠かせません。自分は強みだと思っているが、周囲にはそういう認識がないという状態では、活かそうにもそういう場や役割が与えられません。周囲が強みだと思っているのに、本人にはそういう認識がないという場合も、活かしどころにズレが出てしまい成果につながりません。両者ともに気づいていない強みというものがあれば、実にもったいないことになってしまいます。

つまり、強みはジョハリの窓で言う「開放の窓」にあって初めて、成果や貢献につながっていくのです。メンバー間の深いコミュニケーションを通した十分な相互理解は、互いの強みの発見と活用に欠かせないということになるのです。

ひとりひとりの強み

強みを活かして働くには

このように「差異化」「原則化」されており、「磨き甲斐」を感じ、周囲との「共通認識」があるものを『強み』と呼びます。「私の強みは何か?」という重要な問いへの答えは、この4点をクリアする必要があります。

正社員制度や職能資格制度の中でほとんどなされることがなかった問いであり、コモディティ労働者を決め込んでいる人にとっては必要を感じない問いでもあるでしょうが、近い将来、この問いが人員配置や育成、評価・処遇の軸になるはずです。ダイバーシティの目的が「雇用の多様化」から「強みの多様化」の段階に移行し、賃金が「時間」から「能力(強み)」へのリンクを強めるようになるだろうと思われるからです。

働く人の意識も変わってきています。会社を変わることを視野に入れたり、あるいは生涯現役で働こうとするなら、強みがもっとも重要であるのは自明のことだし、ワークライフバランスを実現するためには、拘束時間の長い働き方よりも、強みを活かして働くのが良いに決まっています。昇進よりも強みのほうが高い処遇を得やすいというケースも見られるようになってきました。

今後はますます、強みを活かして働こうとする人が増えていくでしょう。自らの強みを、的確に表現すること。どのような働き方を選択するにせよ、これが重要な時代を迎えているのです。