「リアリティショック」とは、入社前の理想と入社後の現実のギャップに衝撃を受けることです。
とくに新入社員に多い問題だといわれています。
「そんなもの、忍耐力がないからだ」
「注意したらすぐに落ち込み、打たれ弱い新入社員が増えた」
「最近の若者は・・・」
などと思う、ベテランビジネスマンもいらっしゃるかもしれませんね。
でも、もう長く会社員をやっているあなたも、自分の入社時を思い出してください。身に覚えはないでしょうか。「リアリティショック」を抱える新入社員は約8割という統計もあります。そして、いわゆる「五月病」の原因になるともいわれており、無視はできません。
会社が期待して受け入れた新入社員の8割が、「思っていたのと違う…」と思いながら働く。
これは人事にとって、もはや他人事ではないでしょう。
リアリティショックを引き起こす5つのギャップ
社会人生活に胸を膨らませた新入社員たち。「こういう社会人になりたい」や「会社とはこうあるべき」という理想を掲げて、意気揚々と入社したはずです。この理想と現実にギャップがあるときに「リアリティショック」が起こるとされています。
ギャップは大きく5種類あります。
1.仕事面のギャップ
バリバリ働き、周りから必要とされるビジネスパーソンになることをイメージしていたのに、「まずは慣れることから」と書類整理やコピーのような、誰でもできる仕事ばかり任される。期待していたほどのやりがいや自身の成長を感じられない。
2.評価面のギャップ
ひょんなことから先輩の給与を知ってしまい、それが想像よりも低かった。改めて会社の人員を見ると、自分より上の年齢層が厚く、自分が役職者のポジションになるには想定以上の期間が必要だと感じた。
3. 対人関係のギャップ
配属された部署やチームの雰囲気がよくなく、人間関係がうまくいっていない。同期とノリが違ったり、配属された現場に同年代がいないので、コミュニケーションが取りにくい。
4. 他者とのギャップ
優秀な同期が多く、自分との能力の差を感じ、劣等感にさいなまれる。ロールモデルとできる先輩がいない。
5.組織のギャップ
企業理念やビジョンに共感できない。「きちんと評価される企業なのか」、「今後成長できるのか」と疑問を抱き、将来性を感じられない。掲げているビジョンと、現場で求められていることが全く違っている。
リアリティショックがもたらす3つの悪影響
リアリティショックを抱えてしまった社員たちは、その後どうなるのでしょうか。そこには、「勝手に悩んでいるだけでしょ。自分でなんとかするべき」とはいい切れない、深刻な影響があります。
1. 仕事へのモチベーション低下
当然ながら仕事へのモチベーションは下がります。会社に対し幻滅し、仕事効率が低下。そのため評価も下がり、モチベーションがさらに下がるという負のスパイラルに陥りがちです。モチベーションの低い社員が増えると、組織としての生産性も低下します。
2.メンタルヘルス不調
理想と現実のギャップに傷つき、集中力の低下、不安、イライラ、食欲不振など、心身のバランスを崩す人もいます。不眠やお酒の量が増える場合も。生活リズムが乱れ、遅刻や欠勤が増え、以前は当たり前にできていたことができなくなったりします。
3. 早期離職
上で説明したような状態が続くと、最終的には早期離職へとつながります。「やりたい仕事ではなかった」は、常に若者の早期退職の原因ランキングの上位です。
リアリティショックはベテラン社員にも起こる?
現実と理想のギャップは、新入社員だけのものではありません。経験豊富なベテラン社員だとしても、現実とのギャップを感じるシーンはあるはずです。以下のように環境が大きく変化するときには、ベテラン社員においても注意が必要です。
・配置転換や出向
・転籍
・転職
・管理職への昇進
・育児休暇取得後の復職
終身雇用制度が崩壊した現代社会では、即戦力として中途採用を拡大する動きが広がっています。さまざまな働き方が提案され、新しい環境に身を置く人も増えています。リアリティショックはもはや新入社員だけの問題でありません。
リアリティショックへの対策 起こさないために必要なこと
リアリティショックを防ぐことはできないのでしょうか。「社員の勝手な理想像」が原因だから仕方ない?もちろん誰もが、理想と現実にある程度折り合いをつけて働いています。新入社員が「一人前」になるためには、理想と現実のギャップに悩むこともある意味、通過儀礼かもしれません。
でも、可能性のある人材を失うのは大きな損失です。できれば、リアリティショックでの離職は減らしたい!
会社としてできる対策を考えてみましょう。
受け入れ態勢を整えよう
まず大切なのは、「この会社には自分の居場所はない」と思わせないこと。しっかり受け入れ準備を行い、会社にとって「必要な人材」であり、「組織として歓迎している」としっかり伝えましょう。新入社員の場合、これから働く会社の最初の印象は大切です。名刺や備品といった細かいものも、不足なく準備しましょう。
サポートできる環境をつくろう
現実とのギャップにとまどいを感じた人に対し、会社としてどう対応するかを考えましょう。その社員に、信頼のおける相談相手はいそうですか?たとえばメンター制度を採用し、幅広い悩みを相談できる先輩を作るのもよいアイディアです。
直属の上司や周囲のメンバーだけでなく、職場全体としてフォローする体制を築くことが大切です。そのためには風通しのよい組織であることと、コミュニケーションがとりやすい風土が必要です。あなたの会社はどうですか?
意見に耳を傾けよう
入社して間もない人は、社内にはない着眼点を持っています。斬新で奇妙に感じる意見を出すかもしれません。その場合は、固定観念にとらわれず、フレッシュな気持ちで耳を傾けましょう。必要ないと軽んじてはいけません。「この会社は意見を出しにくいな…」という印象を持たれてしまうと、モチベーションが下がる原因にもなります。もちろん、本当に有益な意見である可能性も十分ありますよ!
全社員でレジリエンスを高めよう
レジリエンスとは、困難にぶつかってもしなやかに回復し、乗り越える力です。それぞれの社員が「ストレスと向き合い、それを前向きな力に変えていく対処法を得ること」を会社としても支援しましょう。
また、もしリアリティショックに陥った場合にどうすればいいのかの事前教育も大切です。
問題が起こった場合のエスカレーションやワークフロー、ポリシー作成など、体制やルールでカバーすることもできますが、それだけでは不十分。事件はワークフローの想定外のところで起きがちです。やはり、それぞれの社員が自律的人材となり、レジリエンスを身につけておくことが求められます。
管理職の育成
社員にとって上司の影響はとても大きいもの。人材を育成できる管理職はいますか?上司との密なコミュニケーションや信頼関係は、社員にとって大きな安心材料となります。しかし優秀な管理者はすぐ育成できるものではありません。常日頃から、リーダー育成についても取り組んでおく必要があるでしょう。
まとめ
リアリティショックは一概に悪いものとはいえません。ギャップに直面し、それを乗り越える経験はさまざまな気づきを与えてくれるからです。リアリティショックを克服したあとには、一回り大きくなった有能な人材が生まれるはずです。
もし今、リアリティショックを起こした社員へのフォロー体制が整っていなければ、早めに手を付けておきましょう。今どきの優秀層はギャップを感じるとすぐに離脱しがちですし、表面的な取り繕いは見抜かれてしまうからです。
そして、リアリティショックへの対策で一番効果的なのは、「この会社でずっと働きたい!」と思う社員を増やすこと。ギャップを感じても、「ここならやっていける、乗り越えられる」と思える風土を作っておけば、自然とレジリエンスの高い社員やリーダーが生まれ、強い組織ができあがるはずです。