健康経営という言葉が随分と広く知られるようになりました。
企業規模を問わず、健康経営を意識する必要性に迫られています。
健康経営とは、従業員の健康を経営課題として捉え、戦略的に実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法のこと。
- 「健康経営なんて、余裕のある大企業がやることでしょ。」
- 「中小企業は、コスト削減とか人材の確保とか、先にやらなきゃいけないことがいっぱいあるんだよ。」
そんな声をよくお聞きします。確かに、昨今のビジネス環境の変化や厳しい人材難の状況を思うと、中小企業の経営者が、今まさに目の前に逼迫している課題に目を向けざるを得ないというのはうなずけるところです。
- 「健康は個人の問題だから、企業が口出しすることじゃないでしょ?」
- 「資金に余裕がある企業がやる福利厚生策じゃないの?」
そんな疑問をお感じの経営者様もいらっしゃることでしょう。
実は、ここ数年の間に、従業員の健康を自己責任として放置していては生き残ることが難しい時代になってきています。
少数精鋭であり1人あたりの職務の重みも大きいとされる中小企業。
「生産性の向上」は、経営者にとって常に意識するものではないでしょうか。
生産性の向上には、従業員の健康が深く関わっていることが明らかになってきています。どんな関連があるのでしょうか。
本ブログでは“生産性と健康経営の関係”について考えていきます。
従業員の健康と生産性
従来の健康管理においては、コンプライアンスとして義務付けられている健康診断の受診勧奨を適切に行い、健康課題のある人に対しては適正数値になるよう是正指導すること、つまりマイナスをゼロにしていくこと、が重要なテーマでした。疾病による欠勤などのリスクを最小化すること、安全衛生の観点から適切な職場環境を整備することが求められてきました。
しかし生産性には、疾病だけでなく「プレゼンティーズム」と言われる心身の不調が大きく関わっており、疾病以上に企業にとって損失がより深刻であることが分かってきました。
プレゼンティーズムとは、出勤しているにも関わらず、心身の不調で労働意欲、集中力が低下し、本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下している状態のこと。
例えば、肩こり、睡眠不足、花粉症、頭痛、胃腸の不調、倦怠感など、従業員の誰もが持ちうる不調です。
東京大学が行った調査によれば、従業員の健康に関連するコストのうち、最も大きな比率を占めているのはプレゼンティーイズムであり、実に77.9%に上ることが明らかになっています(詳細は「健康経営評価指標の策定・活用事業成果報告書」参照、東京大学政策ビジョン研究センターより)。
つまり、従来の健康管理だけではなく、従業員がイキイキと働ける状態を高める施策=健康経営こそが重要であるということ。
健康経営は、従業員が今よりもっとパフォーマンスをUPする、つまりプラスを増やしていくための施策です。ここに取り組まなければ、生産性は上がり得ないということなのです。
プレゼンティーズムによる生産性低下を防ぐために
ではプレゼンティーズムを予防し、職場に広げないため、生産性向上へつなげるためにはどういった施策がとれるでしょうか。
肩こりや腰痛などを防ぐために、デスクやイスを入れ替えるという方法や、社内にコンディションを整えるための設備を整えるという方法もあるでしょう。
しかしながら、中小企業では大きな設備投資をすることは難しいものです。
コストをかけずともできることはあります。
1.健康経営の理念・方針の明確化、環境を整えること
会社側からメンバーひとりひとりの健康に関して支援や関わってくれる環境、方針を打ち出すことが大切です。
健康経営宣言を企業のCSRとしてWebサイトにも掲載するなど、社内外に発表する会社も増加しています。
経営者、会社として従業員の健康を大切にすることや、促進を後押しすることが明確になれば、職場の理解も進みます。
会社として「健康経営」に対する姿勢を明確に打ち出すことで、例えば、このような課題に対するメリットが考えられます。
- 体調が悪くても、多忙のため必要な治療を受けるための通院ができず、症状が悪化し慢性化してしまう。
→体調不良者が出た場合は、同じ仕事をしているメンバーや上司により、業務をカバーできる体制や関係性をつくるようになる。 - 総務担当や人事担当が、従業員の健康増進に時間を使いづらい。
→中小企業として健康経営の専任者を置くことができなくとも、従業員の健康を支援する取り組みを行いやすくなる。健康づくりのための組織体制づくりの第一歩となる。 - 従業員の健康状態の把握が難しい。
→健康課題の把握をするための調査やヒアリングを行いやすくなるため、早期に心身の不調を発見できるようになる。
方針の明確化と周知によって、課題を把握しやすくし、社内の制度や職場環境を整えるなど、様々な取り組みを実施するための足場をつくることができるのです。
2.職場で健康プログラムの実施・健康イベントを開催する
社内に健康を意識する風土をつくっていくことを目指します。
そのためのきっかけづくりとして、気軽なものでも良いので健康に関するイベントやプログラムを企画することは可能です。
管理栄養士、フィットネストレーナー、その他さまざまな健康に関するスペシャリストがいます。
そういった方々に会議室に来てもらって、ミニ講義や教室を開いてみても良いかもしれません。
今時ではスマートフォンに活動量計がついていますので(なければ100円ショップで購入した歩数計でも良い)、歩いた歩数の報告を集計して競争イベントをしても良いでしょう。
美容健康系の雑誌やTV番組やWebサイト(医師監修や研究根拠があるものを推奨)を、話題として提供するのも良いかもしれません。
余力があればクイズをつくっても良いかもしれませんね。
些細なきっかけから、健康に興味を持つ人が増えることや、正しい健康知識(ヘルスリテラシー)が高まることにつながります。
3.従業員同士が気軽に相談できるつながり・環境を整えること
従業員がプレゼンティーズムにつながる心身の不調を抱えている場合、気軽に社内で相談できるという関係性や環境をつくることは大切です。
できれば、当事者が上司や同僚に気軽に相談できることが望ましいでしょう。
良好な人間関係を築くことで、相互に信頼がある状態であれば、言うことはありません!
(すなわち、不調であることを率直に伝えても、自分は悪く言われない・評価が下がらないという安心感がある状態です。)
しかしながら、一朝一夕に信頼関係を築くことは難しいものです。
健康経営の推進担当者が積極的に声掛けを行っていくことや、相談を受付けるという方法もあるでしょう。
先に触れたような健康経営宣言や方針の明確化、継続的な健康イベント・プログラム等の実施は、社内に「健康」をテーマとした共通のコミュニケーションが生まれやすくなります。結果として、従業員どうしで健康に関する自己開示が進みやすくもなります。
Aさん:「最近、調子どう?」
Bさん:「実は肩こりがひどいんですよね」
Cさん:「肩こりには、この体操が効くらしいよ!」
何気ない会話のようですが、こうした気軽なコミュニケーションが生まれることで、心身の健康の維持増進に役立ちます。
コミュニケーションそのものをとりやすくもなり、仕事の生産性も高まるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
生産性向上の対策としての健康経営は一見遠回りに見える施策かもしれません。しかし、従業員の健康をもっと戦略的に高めていかなければ大きな損失を生み出すこととなります。少ない人数で最大のアウトプットを出していくことが求められる中小企業だからこそ、取組みを始めるのは今ではないでしょうか。