仕事の選択肢が増えて働き方に変化が起きる現代、個人でキャリア形成をするのが難しい状況に陥る「キャリア孤立」という問題が出ています。
国では自助・共助・公助の重要性を唱えながらも、ことキャリアに関しては「個人の問題だから他人は関係ない」「個人のキャリア形成は企業の注力すべきところではない」と片づけられ、どこか他人事のような風潮があります。
実際に「転職や独立を視野に入れているけど、漠然とした将来の不安があって踏み切れない」とキャリア形成を諦めてしまう社員も多いのではないでしょうか。
今回はそんな「キャリア孤立」が生まれた背景に触れながら、個人・企業それぞれの立場から解決するための方法を探っていきましょう。
目次
キャリアの可能性を閉ざす社員が増加
人生100年時代を迎えて職業人生が延び、転職や独立など働き手の選択肢が広がる日本。個々のキャリア自律が重要視されています。
しかし個人が自由に働き方を選べる反面、周囲の環境で思うようにキャリアを描けず孤立する悩みが増えているのです。
「キャリアについて相談できる人が周りにいない…」
「仕事を辞めたら次はないんじゃないか…」
近年このように考え、自らキャリアの可能性を閉ざしてしまう社員がいます。
キャリア形成は自分の努力で切り開くものという考え方自体には、何ら間違いはありません。
しかし「劣悪な人間関係で退職を余儀なくされている」「家庭の事情でやむを得ず転職する」など自助だけでは解決できない部分も多々あるのではないでしょうか。
そして日本は転職する際や失業した際の支援規模が小さく、ハローワークや公共職業訓練といった公助では個人のキャリア自律に関して十分な支援を行えないのが現状です。
なぜキャリア孤立は生まれるのか
国内でキャリア孤立が生まれた背景には、様々な要因が考えられます。
①個人・企業の関係が薄れてしまった
終身雇用崩壊により、個人・企業間の関係が薄れてしまったことが一つの要因です。
2019年5月初旬、経団連の中西宏明会長は「終身雇用を前提に企業経営、事業活動を考えるのは限界」と話しました。
さらに2019年10月、トヨタ自動車の豊田章男社長も日本自動車工業会の会見にて「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と語っています。
その影響もあってか、キャリアや就職・転職全般に関する研究や各種調査を行う機関「Job総研」(株式会社ライボ運営)が実施した「2021年 転職意識調査」によると転職希望者が約7割。
「今すぐしたい」「そのうちしたい」「現在転職活動をしている」を合わせると67.7%が転職を検討しているというデータが公表されています(回答者の87.9%が転職経験者)。
もはや転職は、誰しもが経験する時代に突入したといっても過言ではないでしょう。
このため、かつては「ずっと働いてくれるであろう社員」のためキャリア形成の支援に積極的だった企業も、今では社員の生涯をかけたキャリアに対して責任を持つのが難しいのです。
「嫌なら会社を辞めてもらって構わない」
そのような考え方が一般的になりつつあります。
②「共助」の不足
キャリア孤立は、公助や共助の不足によって引き起こされています。
国が提唱する「自助・公助・共助」という言葉は環境により捉え方が異なりますが、ここではキャリアで用いられる際の意味について見てみましょう。
自助・・・助けを借りず自発的にキャリア形成を果たすこと。
公助・・・ハローワークや職業訓練所、失業手当といった公的機関による救助や援助。
共助・・・労働組合や職業コミュニティなどの救助や援助。自助と公助の間に位置するもの。
日本では特に共助が不足していると言われています。
これまでは終身雇用の概念もあり失業率が抑えられていたため、自助と公助の部分だけでキャリア形成を支えることが可能でした。しかし今では人のつながり、すなわち共助による支え合いなしには個人の自律的なキャリア形成が難しくなってきています。
「仕事を辞めたら誰も助けてくれない」というキャリア孤立は、この共助の不十分さが原因とも言えるでしょう。
③未だ根付く「自己責任」の考え方
残念ながら日本は、他国に比べても「個人のキャリア形成は自己責任」という考え方が色濃く根付いています。
当たり前だと思われる方も多いかもしれませんが、海外の事例を見るとその考えは変わるかもしれません。
例えば労働組合の加入率が高いスウェーデンは個々の労働者を守ることに注力しており、労働組合が再就職のための支援やアドバイスを積極的に行っている国です。
また労使双方の合意に基づく「職業安定評議会」という非営利組織が、失業者の再就職支援や収入を補てんしています。
参考:公益社団法人 日本経済研究センター「2060年 長期経済予想」
海外は様々な形で個人のキャリアを支える仕組みづくりができているのがうかがえます。
転職や独立、キャリアアップには自身の努力も必要ですが、日本の場合はその意識が特に強いためキャリア孤立に陥りがちなのです。
キャリア孤立を解決するため個人・企業で考えておきたいポイント
個人のキャリアを支える仕組みは未だ十分とは言えません。
キャリア孤立を解決するにはどうすれば良いのでしょうか。
そこには個人はもちろん、企業としても考えおきたいポイントがあります。
個人で大切な考え方
「キャリアは一人でつくるもの」と考えている方は、今一度これまでの仕事を振り返ってみましょう。
そこには何かしら人のつながりがあったことに気づくのではないでしょうか。
上司や同僚はもちろん、友人、家族のサポートがあったからこそ出せた成果などもあるはずです。
社内外を問わずこれからの仕事について話し合い情報共有できる人間関係を構築したり、互いに刺激しあえる場やコミュニティを探したりすることでキャリア孤立は解消されていきます。
企業で大切な考え方
まずは個人のキャリア形成において、過度に自己責任だと押し付けないようにしましょう。
従業員の自律的なキャリア形成を支援する、共助という立場から個人に寄り添って一緒にキャリアを考えるというスタンスが大切です。
「自律させること」と「孤立させること」は別ものだという考え方を持てば、キャリア孤立することのない社員が増えるでしょう。
まとめ:共助の先にキャリア自律が芽生える
人生100年時代を迎え働き方に変化が訪れている今、個人がキャリア孤立を脱して主体的にキャリアを叶えていくためには企業側の支援が必要不可欠です。
企業が個人のキャリアに対して共助の精神を持てば、全ての世代がいきいきと働ける組織として成長していけるでしょう。
キャリア孤立を解消した先に、社員のキャリア自律の芽が育ちます。
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