先行き不透明な時代の競争優位性を保つため、これまで人的資本や社会関係資本によって把握されてきた能力を活用するドライブとして、心理的資本®に注目が集まっています。今後の企業成長のカギとなる心理的資本について、経営学の専門家と企業の皆さまにお集まりいただきオンラインベントにて徹底解説しました!当日の内容を簡単にダイジェストでご紹介いたします。
人材育成と心理的資本~人材育成とは何を開発するのか
『こころの資本~心理的資本とその展開(中央経済社)』の訳者である大阪大学大学院経済学研究科経営学教授、兵庫県立大学名誉教授の開本 浩矢先生より、心理的資本の概要と共にその開発可能性についてご講演いただきました。
「人材」の考え方の変遷
人材としての考え方が時代とともに変化してきた。人材とはどのような資源なのか?なぜ成果を生み出せるのだろうか?いま、注目される心理的資本はポジティブな心理的エネルギーであり、何を知ろうとするのか、だれを知ろうとするのかという行動につながるエンジンとも言える。
- 人材1.0=人的資本(何を知っているのか)
- 人材2.0=社会的資本(誰を知っているのか)
- 人材3.0=心理的資本(何をやろうとするのか≒人のイキイキ)
経済・社会環境の変化のなか、働きがいを促進する要因として注目されている。
先行研究51件のメタ分析を行ったところ業績とのプラスの相関が有意に確認されている。
心理的資本とは
「Hope(希望)」「Efficacy(自信・効力感)」「Resilience(レジリエンス・回復力)」「Optimism(楽観)」の4つの要素から構成されている統合概念。それぞれを単純に足し算するのではなく、相乗効果を持つもの。今後の研究によってはさらに要素が増える可能性もある。業績以外にも満足感や幸福感、組織コミットメントなど様々な分野にポジティブな影響をもたらす。
また心理的資本は開発可能であり、介入により一定の向上が見込まれる各種研究結果もある。
講演の最後に原著者のフレッド・ルーサンス氏から寄せられた本セミナーへの応援メッセージを紹介いただきました。
みなさん自身の「内なるHERO」を見極め、効果的に使う方法や、他の人の中にある「内なるHERO」をどのようにリードし、発展させていくかを学んでいただければ幸いです。
PsyCapフォースがともにあらんことを
byフレッド・ルーサンス
「こころの資本」の展望と今後の期待
続いて、神戸大学大学院経営学研究科准教授、服部 泰宏先生より心理的資本というものが個人の行動、現場の従業員においてどのような影響を与えうるか、実際の研究活動から見解を踏まえてご講演いただきました。
組織行動/HR研究におけるポジティブさへの注目
組織行動やHR研究を重ねてきた中で、2000年以降のトレンドとして、個人の能動性や会社と個人の関係が不均一であることが議論されてきた中で、近年では組織や個人のポジティブさが注目されるようになってきた。
クルト・レヴィンによると、人間の行動は以下2つの要因の掛け合わせであるとされており、弱い環境下ではP:Personが、強い環境下ではE:Environmentが強く影響する。
- ・P:パーソナリティ(自分の中に持っている様々な個人特性)
・E:特定の環境(特定の環境下での行動パターン、行動指針)
組織環境については経営学の主要テーマとして議論が行われてきており、行動・成果に結びつけていくかという視点でマネジメントの大切な要素と考えられている。
そしてもう一方で個人をどう捉えるかという課題がある。変えることができない個人特性は企業として採用する時点で判断が必要とされるもの。
一方で心理的資本を含むその他の資本も含めた「資本」は、人材の採用後も企業の努力で開発したり伸ばしたりすることができるものであり、環境変化への耐性も強いものと捉えられる。
経営においては、組織構造や仕組みなど様々な環境をつくることで個人の行動や成果をマネジメントしようとする。個人の能力である様々な「資本」は企業にとってインプットでもアウトプットでもあり、個人特性以外の部分はマネジメントによって伸長が可能なので、採用や育成において理解を深めることが重要である。
資本の比較
心理的資本の特徴を人的資本や社会関係資本と比較すると、持続性や特異性に優れており、時間の経過や環境の変化にも駆動し続けることが大きな強みである。またメタ資本として様々な資本を蓄積できる上位概念とも考えられる。
パネルディスカッション
第三部では実際の企業として心理的資本をどのように人材戦略に活かしていくかという視点で、パネルディスカッションを行いました。抜粋してご紹介いたします。
- 高倉 千春氏(画像左上)
ロート製薬株式会社 取締役 人財・WellBeing経営推進本部長 - 藤間 美樹氏(画像右上)
参天製薬株式会社 理事 人事本部 - 服部 泰宏先生(画像左下)
神戸大学大学院経営学研究科准教授 - 開本 浩矢先生(画像右下)
大阪大学大学院経済学研究科経営学教授、兵庫県立大学名誉教授
応援企業の皆さまより
本セミナーにご参加いただいた応援企業の皆さんから、パネルディスカッション後にコメントを頂戴いたしましたので、ご紹介いたします。
株式会社フェリシモ 代表取締役社長 矢崎和彦さま
経営において人が資本であることは古来より言われてきたこと。人的資本を心理の面でとらえることの重要性を改めて提示いただいた。
ロート製薬株式会社 代表取締役会長 山田邦雄さま
20年近く社員のイキイキを考えているがあまり変わっていないと反省している。企業戦略と個人の幸福度がつながっていなければいけない。仕掛けの一つとして、現在「ロート経営学び塾」をBe&Doチームとともに実施している。
カルビー株式会社 人事総務本部 D&I・スマートワーク推進室 室長 石井信江さま
当社でも現在、Happiness&Well-beingを掲げ重視している。コロナの時代になり、社員の自主性・主体性がより求められる中で、人事として参考になるキーワードをたくさんいただいた。
旭化成株式会社 人事部 三橋明弘さま
開本先生に監修いただき、新たに導入する組織サーベイの設問に、ワークエンゲージメントと心理的資本を組み込むことになった。それぞれに関係性があることも見えてきている。測定したあとにどう生かしていくか、組織作りに生かせるよう仕組みをしっかりつくっていきたい。
株式会社JTBベネフィット ビジネスソリューションデザイン部長 平松永さま
福利厚生にとどまらず「選ばれる企業」になるためのお手伝いをしていきたいと考えている。ポジティブさに注目するという考え方はこれまでありそうでなかったので、新たな視点で社員の自律性を高める風土づくりに貢献していきたい。
フジッコ株式会社 執行役員 人事総務部長 寺嶋浩美さま
社員から推薦されるSTAR社員というのが本当に心理的資本の充実した方と一致していると感じる一方、もっと増やしたいという役員からの声もある。ただ、開発できるものだということで、次の課題として考えていきたい。
本イベントは、以下の企業・団体より「ひとりひとりのポジティブな心のエネルギーを高めていくこと、またそれによってうまれるWellbeingな組織風土をつくること」への共感・応援をいただきました。どうもありがとうございました!(50音順)
※心理的資本®は開本浩矢氏および株式会社Be&Doの登録商標です
当日のグラフィックレコーディングはこちら
GraphicRecording by 野出しおりさん