Habi*do通信

【開催レポート】これからの経営・事業推進に必須のグローバル基準の人材発掘~心理的資本セミナーvol.8

組織と個人の在り方が問われる時代が到来しています。デジタルシフトがコロナ禍で加速する中、働き方も多様な広がりを見せています。それは世界とつながることで、変化が大きくビジネスのスピードも早く複雑になっているということでもあります。

そんな今、求められる人材はどのような特徴を持つのか。将来の事業推進や事業開発を担うリーダーを発掘し育成するために、経営者が持つべき考え方や具体的なアクションとは。そしてひとりひとりの働き手が意識したいこれから活躍する人材像とは。

これまで国内外の事業会社にて現場・事業企画そして戦略人事の立場から人材マネジメントに携わって来られた積水ハウス株式会社の藤間美樹氏、グローバル人材の育成やタレントマネジメント研究の第一人者である立命館大学の守屋貴司氏、目標マネジメントを通じた組織活性化に取り組んできた株式会社Be&Doの石見によるトークセッションを実施、オンライン配信しました。

当日の内容をダイジェストでご紹介します。

ポジショントーク

グローバルで活躍する人材像とは?

積水ハウス株式会社 藤間美樹氏
執行役員 人材開発担当

グローバルで活躍する人材を探すという時に一番大切なのは、「日本型のリーダーシップは世界で通用しない」という事実を経営陣や人事が認識することです。日本で成功するリーダーのイメージで発掘・育成しても不十分です。
グローバルで活躍できるというのは、文化的な多様性に富んだメンバーと健全な議論をして成果を出していくことができるということです。日本人が最も苦手なことだと思いますね。では、どういう人材が求められるのか。端的に言うと、まったく知らない世界、どんな反応をするか分からない人たちの中に入ったときに対応できるかどうか。新しい経験をどんどん取り入れて学び、学んだことをまた新しい場面で活かしていける、そんなものが求められます。

日米の野球の内野シフトの例えが分かりやすいのでご紹介します。日本人上司はよく「外国人は三遊間のゴロを取らない」と言います。しかし、外国人部下からは「日本人の上司は三遊間のゴロが取れるように指示をしない」と思われています。つまり、リーダーが明確に指示するのがグローバルで、部下の頑張りに頼るのが日本です。
なぜ日米でマネジメントが違うのか?日本では成果を出すことよりも失敗しないことを重視している傾向がある、人と違うことをするときに過度に周りの目を気にするなど、理由は様々です。これらの背景には、文化的な違いだけでなく雇用環境の違いもあります。新しい会社に身を置いたら成果を出そうとチャレンジをする、一方で終身勤める会社であれば堅実にミスなくという心理的な状態になると思います。

人材育成プロセスについて、平等に研修を実施し育ってくるのを待ち、育った人材をピックアップするというやり方になっていませんか?海外では、希望制の教育プログラムやeラーニングなどをメニューとして用意し、将来の経営層と目される人を早くからプールして意図的かつ集中的に育成をします。ここでいう育成は研修ではなく、タフアサインメントです。チャレンジをさせて学ばせます。
人材選抜方法として、欧米で一般的なのがタレントレビューです。ポイントは“ラーニング・アジリティ”で、ラーニング・アジリティの高い人は、多種多様な緊急かつ逆境にある仕事にも迅速に対応できます。面白いことに、これが心理的資本とものすごく近いんですね。根っこは同じかと思います。
タレントレビューを行うことで、組織強化と人材育成が推進され、キャリア自律や人を育てる組織風土が醸成されます。詳しいことが知りたい方は、調べてみてください。

参考:藤間氏執筆記事「これが伝えたかった! 日本人だけが知らないタレントレビュー」日経BP

人財に求められるメンタリティ

株式会社Be&Do 石見一女
代表取締役

弊社は、現場の力を最大化する運用ツールとしてHabi*doというwebアプリケーションを提供しております。このHabi*doは心理的資本を高める運用ができるものです。私たちは、Habi*doをシステムとしてご提供するだけでなく、心理的資本を高めるマネジメント手法の導入のご支援も一緒に行っております。
心理的資本というのは、Hope(目標に関わる意思と経路)/Efficacy(効力感)/Resilience(困難に打ち勝つ)/Optimism(楽観主義)の4つの構成要素があります。これらはグローバルで活躍する人材にとっては、かなり重要な要素ではないかと思います。
Habi*doソリューションの実績としては、売上の向上や人材の定着、労災減少などの成果がありますが、これは心理的資本、いわゆる「やり遂げる自信」のようなものを伸ばすことが成果に繋がっています。

心理的資本は、10年程前から注目をされ始めています。業績に影響する心理状態を意味し、モチベーションに近いものではありますが、計測可能で開発可能な資本という点でモチベーションとは異なります。ちょうど日経新聞でトヨタ自動車さんやロート製薬さん、積水ハウスさんが経営の理念の中に「幸せ」という言葉が入るようになったと取り上げられ、まさしく「幸せ」「心の資本=心理的資本」というものが、大きな話題になっているということです。

心理的資本と業績との相関は研究によって証明されており、その他にも心理的資本のもたらす効果は組織コミットメントやハピネス、ウェルビーイング、健康、ストレスや不安など多様です。また、神戸大学の服部先生のスター社員の研究においては、心理的資本が高いかどうかと成果を出し続けることができるかどうかの相関が高いという結果が発表されています。様々な研究結果から、心理的資本とラーニングアジリティーや人材発掘との関連性が深いということが分かります。本日私からは「グローバル基準の人材を発掘する上で、メンタリティー(心理的資本)は評価されるのか」とうことを皆さんと議論させていただけたらなと思っています。

参考:心理的資本を高めるマネジメント手法の導入コンサルティング×Habi*do

古い(二国間)人事から新しいグローバル人事へ

 立命館大学  守屋貴司氏
経営学部 教授

私の専門である外国人材研究から少しお話をしたいと思いますが、外国人留学生の日本での就職率は57.4%で、日本人大学生の就職率97.6%に遥かに及びません。そこで外国人材の本音に目を向けると「日本語や日本的文化に埋め尽くされていて、日本人学生と外国人留学生を平等に扱って、日本人化を求められる」といった、グローバルやダイバーシティとは離れた状況が、今の日本では見られます。さらに、外国人材の不満としては「労働時間が長い」「サービス残業がある」「給与報酬が低い」「昇進が遅い」等々、様々な不満があります。
外国人材が日本企業に定着しない原因を明確にワンポイント挙げるとすると、長期雇用に基づく企業依存型のキャリア形成の日本に対して、外国人材からすると日本企業では主体的なキャリア形成が出来ない。日本企業でしか通用しない人材になるのではという恐怖感から入社しなかったり、定着しないということが起こっています。しかし、皆さんに考えていただきたいのは、「やりたいことができない!」「本当の専門性が養えない」といった外国人材が定着しない理由や、実は日本人の35歳以下の優秀若手人材の離職理由と重なってるんですね。これは、大手企業の人事の方から若手層の離職について相談を受けて調査を行った結果、見えてきていることです。

今日は、海外の日系企業の視点から考えてみたいのですが、これまでは日本の本社からの指示や意向を中心に在外子会社や在外工場が動くということが多かったです。世界の中で見ると、日本だけが属人的な人事をしていて、在外子会社はいわゆるジョブ型のような形になっている。そのような状況にも関わらず日本本社からの意向を中心に動くというのはかなり矛盾がありました。

ただ、海外の日系企業は今かなり上手くいっているんですね。海外ではダイバーシティマネジメントが当たり前で、日本人駐在員は現地化するということが求められます。さらにその中では、日本人駐在員と現地人材の中間に立つブリッジ人材というものが活躍しています。日本人駐在員の中には海外経験を通して、普遍的なリーダーシップやマネジメント能力の獲得する人が多数現れてきています。

コロナ禍が続く中で、海外現地法人においては人事制度変革への関心が高くなっています。日本人駐在員を送り込めない、だから現地人材を海外現地法人の経営幹部に登用して、日本人駐在員を減らそうという背景です。同時に国をまたぐリモートマネジメントの効果性を高めようという動きがかなり進んでいます。
ニューノーマルな環境下でコミュニケーションやメンタルの課題が海外でも明らかになっており、まさに心理的資本のようなものが業績においても実はとても大切だということがあぶり出されています。

二国間人事という点においても、JTさんのように海外に本社を移し、海外ベースで人事を行うような会社も出てきています。さらに、在外子会社と日本親会社は対等な関係で、新興国子会社によるイノベーションを日本の親会社に受け入れる。在外子会社の人事手法から学び日本の親会社の人事も変えていく、というような新しい二国間人事の融合化が図られています。

最後に新しいグローバル人事へ!ということで次のような提案をします。
・ダイバーシティな企業風土への転換
・多文化・多価値的な意識改革
・本社と在外子会社共通のグローバルビジョン
・主体的なキャリア形成と報われる報酬制度
・言語化されたコンピテンシーや理論的な説明能力や批判的思考の育成
・コミュニケーションとメンタルの促進
強い心理的資本資本を持つ人材を育成することが、グローバルに戦っていくという点において求められています。

パネルディスカッション

橋本
橋本
ここまで色々お話を伺った上で、実際に企業の方にとっては、そもそも人材がいないのか?はたまた発掘の方法が間違っているのか?育成の仕方なのか?など、いろいろと悩ましい部分があるかと思いますが、どこから手をつければいいんでしょうか?
藤間
藤間
海外人材に関わらず、いろいろチャンスを与えて経験させなければ育たないという前提はありますが、カケラも見えないというのは採用に問題があるのではと思います。一つの基準で同質的な人材ばかり集めるのは、組織としてもラクです。10人に1人くらい満点じゃないけど、欠点もあるけど、何かが尖った人を意図的に採用していくと、企業にも変化が出てきます。採用には少し工夫が必要ですね。
守屋
守屋
採用の時点からダイバーシティを意識していくことが大切だということは、企業も気づいておられます。EVP(Employee Value Proposition)という言い方をしますが、魅力的かつちゃんと届くメッセージで多様な人材にリーチングできるかが肝心です。価値提供をこういう風に考えて、未来をこうしていくから、どうかJoinしてください。そういうメッセージが若い人材や外国人材に届かないので、入社意欲を掻き立てられないんですよね。
橋本
橋本
企業としてどうありたいかという軸がないと発信もできないですよね。
石見
石見
守屋先生のポジショントークのなかで、「やりたいことができない」という不満があるというお話がありました。一方で日本人の中で、ある程度企業にどっぷりつかっている方はwillがない・意志がないということをよく聞きますが、外国の方や日本の若い人材はどうでしょうか?
藤間
藤間
日本は雇用を守る代わりに、どこで何の仕事をするのかは、会社に人事権があります。だから会社の言うとおり動くのは当たり前、と思っているのではと。外国人材や日本の若い人材はキャリアの意識が強くなってきていて、やりたいことが明確にあります。20~30年の間、何の疑問も持たずにやってきた企業の上層部とのギャップがありますよね。どちらが人や会社を育てるのかは言うまでもなく明白です。やはり人事が頭を切り替えなきゃいけないんです。
石見
石見
ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)を推進するためにはポジティビティや能動的なマインドセットが必要ですよね。実際、最初は違和感満載な状況にはなると思うのですが、それを乗り越えてマインドセットしていくにはどういう努力が必要でしょうか?
守屋
守屋
藤間さんがおっしゃったように、日本人であっても上の世代は終身雇用というイメージだけれども、若い世代は自分たちが定年を迎えるまで今の会社があるかも分からない、スキルアップして次の活躍の場を求める、そうしなければ自分の将来はないと考えています。外国人材であればもっと進んだ考えをしています。
D&I行動では、待ちの姿勢ではなく、リーダーがメンバーに働きかけて、任せて、褒めて、方向性をアドバイスしてあげると、若い世代も外国人材もやる気になって働いてくれると思います。メルカリで働く外国人材は、優秀なリーダーの元でいろいろと任されて成長し、やりがいを持って活躍し、ベトナムに帰ってからも起業したりしています。D&I行動においては、リーダーの役割変化や働き方の変化に敏感になることが重要です。

質疑応答

“しなやかさ”という言葉が出てきていましたが、ハイパフォーマーが成功体験を積み重ねたことから“しなやかさ”がなくなってしまうのでは?

藤間
藤間
“しなやかさ”はなくなるのではなく、より質が高くなるはず。違う世界に飛び込むということは、D&Iの視点からも器は大きくなるはずで、受け入れるという意味での“しなやかさ”はリーダーの必須条件ではないかと思います。
石見
石見
“しなやかさ”=ポジティビティだと思います。結局いろいろな物事が起こったときに、ネガティブな思考に陥って縮こまってしまうと、視野が狭くなりますし、思い切った判断もしづらくなります。あるがままも受け入れつつも、どうやっていこうかと道筋を考えられるのが“しなやかさ”ではないかなと。その根底には心理的資本つまり前向きな意欲みたいなものがあるはずで、やはり心理的資本の開発が重要です。

芯やアイデンティティはどのように作っていくものでしょうか?

藤間
藤間
限られた経験のなかでも芯を作ろうと思えば作れますが、それがグローバルで通用するものになるかどうかは極めて疑問です。グローバルで通用する芯を作るということであれば、そういう世界に身を置いて、どこにも答えがないような問題に頭を突っ込んで、自ずと出来てくるものではないかと思います。軸も成長させていかなければなりませんね。

日本の会社は学生にとって楽しそうに見えてないような気がしています。いかがでしょうか?

守屋
守屋
学生の目線では残念ながら日本企業というもの、特に大企業で年功序列的な所ほどそう見えているようです。ただ実際に大企業の中身を調査してみると一概にそうでもない。むしろ新規事業を立ち上げたり、グローバル新市場の開拓ができる人材を求めている。そういう意味ではミスギャップが生まれています。先ほど話に出ていたアイデンティティも、企業内だけでなくグローバル市場の中で高く評価されるような価値観形成が大切です。こういった志向性が、グローバル市場を意識した新規事業などを生み出します。
石見
石見
グローバルマーケティングを担当される方から、現地法人のローカル化を進めているというお話を伺っています。これには日本の本社も不安を抱えているとは思うのですが、どうすれば解消できるんでしょう?
守屋
守屋
ブリッジ人材がカギです。総合商社を研究した際に、アメリカの現地法人にいた韓国系アメリカ人の方がブリッジ人材として活躍し、役員まで務めていらっしゃいました。各国において、貴重なブリッジ人材を現地の中から育成し、様々な形で権限を委譲していくことがどうやら大事なようです。留学生や現地人材、そして海外在住の日本人が候補生です。ブリッジ人材を育てて、現地法人のトップまで任せるようなことが出来れば、ローカル化が達成されると考えます。

心理的な余裕や心理的安全性がないとD&I推進等は進まないのではと思うのですが、いかがでしょうか?

藤間
藤間
変化をさせる瞬間ってパフォーマンス落ちますよね。営業職でも場所が変われば、一旦パフォーマンスが落ちます。しかし、いずれリカバーするし、個人にとっても企業にとってもプラスです。
D&Iも一緒です。初めて女性が入ってきた、外国人が入ってきた、きっと初日は大変です。おそらく1ヶ月経っても2ヶ月経っても大変だと思いますが、いずれ良くなります。ただ業績につながるのはかなり先のことです。そこはある程度時間がかかるということを、経営陣と人事は認識して、ぐっと歯を食いしばってやるしかありません。世の中を見れば、それをいち早くやった企業が勝っていますよね。その考えを会社、特に中間管理職に浸透させるというのが肝ではないかと思います。
橋本
橋本
一旦パフォーマンスがへこんでしまうことを考えると、まさしくラーニングアジリティやポテンシャル、メンタリティをしっかり評価する必要があるのではと感じました。
藤間
藤間
メンタリティは鍛えられます!少々のことがあってもへこたれない。へこんでるときは上司だけでなく周りがサポートしてあげるという組織が強いです。これは外国人のリーダーは上手です。日本人は思っているのかもしれませんが、口に出すのが下手くそです。日本人はアイラブユーが言えませんからね。グローバルでリーダーを務めるとしたら、声をかけてあげるケアみたいなものを日本人も出来るようにならなきゃいけないです。

最後に

守屋
守屋
日本人はともすれば表現が下手です。言葉にしない美学のようなものがあるかもしれません。だけど若い人材や外国人材に対しても言葉にしなきゃいけない。励ましをしなきゃいけない。そういうものが、メンタリティ強くします。やっている自分に違和感を感じるかもしれませんが、そこを乗り越えて、アイラブユーを言える自分になれるように頑張っていきましょう。
石見
石見
しなやかであるためには、強くないと難しいですよね。自分に自信が持てるポイントを自分で見つける、そして周りの方もそれをサポートしてあげると、しなやかな人材が育成できるのではと感じました。
藤間
藤間
本日は守屋先生のゼミ生の方もいらっしゃると伺っていますので、少しメッセージをお伝えできればと思います。リーダーのふるまいと生活習慣はリンクしてるんです。隣の家の人がやっていることと、自分の上司がやっていることは一緒なんですね。当たり前ですが、日々の生活がビジネスでのふるまいやプロセスに出ている。ですから、海外の人のことを理解しようと思ったら、その国で生活してみることです。若い方は先が長いので、1年2年棒に振ったって後から取り返せます。ぜひチャンスがあれば飛び込んでみてください。将来の日本変えて欲しいなと思います。
橋本
橋本
ありがとうございました!

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