Habi*do通信

【開催レポート】多拠点・多店舗で、どうすれば現場の力が高められるのか?!実例トークセッション~心理的資本セミナーVol.10


多拠点・多店舗でのマネジメントや人材育成は常に難しさが伴います。特に接客や販売を伴う業態では、従業員一人ひとりの一挙手一投足がダイレクトに顧客への提供価値に直結。いかに一人ひとりのやる気を高め、現場の力を高めるか?が業績向上の鍵を握ります。

どうすれば魅力と強みのある組織を作ることができるのか?店長など軸を担う人材の育成をどのように進めればいいのか?従業員一人ひとりの自発的なやる気と働き甲斐を高めるには?

全国52店舗のネイルサロンを経営されている女性経営者、株式会社ノンストレス 代表取締役社長の坂野尚子氏と、ローソンのフランチャイジーで4店舗を経営されている若き社長、有限会社ゑびす屋池袋本店 代表取締役の坂本一郎氏、株式会社クラブビジネスジャパン 代表取締役社長で、フィットネスビジネス編集発行人でもある古屋武範氏に、多拠点・多店舗における経営・マネジメント課題や、現場力UPの取り組み実例をお聞きしながら、そのヒントを探るトークセッションをオンライン配信しました。

パネラー紹介

  • 坂野尚子 氏(画面右上)
    株式会社ノンストレス 代表取締役社長
  • 坂本一郎 氏(画面左下)
    有限会社ゑびす屋池袋本店 代表取締役
  • 古屋武範 氏(画面右下)
    株式会社クラブビジネスジャパン 代表取締役社長・フィットネスビジネス編集発行人
  • 石見一女(画面左上)※モデレーター
    株式会社Be&Do 代表取締役

はじめに

石見
石見
本日は「多拠点・多店舗で、どうすれば現場の力を高められるのか⁉」がテーマです。多拠点・多店舗の経営に関する本を読みますと、ほぼ人の力で決まると書いてあります。しかし実際の経営となると、立地や商品力、マーケティングの話ばかりで、人の話が後回しになっている印象があります。
コメダ珈琲がこのコロナ禍でも健闘できている理由として、FCオーナーのそれぞれの意思と行動とアイデアが挙げられていました。まさに人の力が業績に影響している例です。
また、アフターコロナを見据えた時に、コロナ禍でサービス業から離れた人たちはもう戻ってこないのではと言われています。人手不足の解消は今から考えないといけないテーマです。本日はこういったお話もできればと思っております。
坂野
坂野
今日は私自身も学ぶ気持ちで参りました。ノンストレスという会社を起業して26年目です。その間、リーマンショックに東日本大震災に今回のコロナウィルスと、様々な困難がこれでもかときています。実際にコロナ禍の影響で、67店舗のネイルサロンを経営しておりましたが、15店舗を閉店。NYでも7年間お店をしていましたが、それも昨年5月に撤退しました。休業を余儀なくされた期間もあり、稼ぎたくても稼げないそういった苦しい状況をどうにか乗り越えて参りました。
坂本
坂本
2007年よりローソンにフランチャイズ経営を始めて、今16年目です。このコロナ禍というのは、これまでのコンビニの成功事例を全て壊したと思っています。商品の売り方や店舗運営の仕方など、改めて一から作り直さなければという局面です。この1年は、観光地にあった店舗はどうしても厳しく、本部の方から閉店の持ちかけがあったような状況でした。一方で「少数精鋭・省力化」に大号令をかけて取り組んだ結果、売上は少し落ちてしまいましたが、利益は1.4倍に上がりました。もちろん、これも人の力あってのことですので、本日はそういったお話をさせていただければと思います。
古屋
古屋
『フィットネスビジネス』というフィットネスクラブの経営情報誌の発行を20~30年続けています。皆さんご承知の通り、フィットネスクラブも大きなダメージを受け、経産省の
特定サービス産業実態調査を見ますと、売上で35%マイナス、会員数で20%マイナスで、お客様の戻りも他の業種と比べて良くないといった状況です。他の業種に比べて、フィットネスクラブは人が最前線にいますので、人に負うところが大きいのも確かです。とはいえ、ビジネスモデルやパーパスみたいなものも重要で、そこにオペレーションが一気通貫で整合する・フィットすることが大事なのかなという考えです。

人材の力は必要か?どう育成する?

石見
石見
ビジネスですので、絶対にビジネスモデルが柱としてあると思います。一方で、こういうときだからこそ人の力が影響するようなことがあるのかなと。
坂野
坂野
まさに私どもの対面サービス事業は、クオリティの高い技術と接客をしないとお客様からそっぽを向かれてしまいます。特に、このコロナ禍ではロイヤルカスタマーの方々に支えらていて、10%前後のお客様で売上全体の60%前後を占めています。そういったお客様が戻ってきてくださることでスタッフも癒されているんです。お客様がストレスを解消できるような店舗運営を第一に考えておりますが、逆にお客様の満足がスタッフの満足や喜びにつながっていることを、この状況でより強く実感しています。
石見
石見
対面サービスという面では、フィットネスクラブはどうでしょう?
古屋
古屋
コロナ禍がフィットネスクラブの本質に気づかせてくれました。ご入会された方は「運動を習慣化したい」と思っていらっしゃるのに、誤解を恐れずに言うと、これまでフィットネスクラブは施設提供に寄りすぎていたのではないかと感じます。もし追加でオプション料金をいただくとしても、もっと運動の習慣化のサポートをやって差し上げないといけなかったんじゃないのかと。今まさに各社が顧客サービスの見直しを行っている状況です。
石見
石見
ロイヤルカスタマー、ファン作りが最後の石垣になるのかなと感じたのですが、フィットネスクラブも人材育成に注力されてきているんでしょうか?
古屋
古屋
フィットネスクラブ業界は5年で最大800万払ってくれる顧客がいます。その価値、顧客満足を実現できる人材は大事です。
石見
石見
コンビニと言いますと、直接的な対面サービスではないのかもしれないのですが、人の力と言うとどんな部分でしょうか?
坂本
坂本
元々、日本の小売業は諸外国に比べて生産性が低いと言われていて、日本では経常利益の優等生と言われているような大手小売業でも、欧米大手に比べると大きく離されています。その理由の一つには、日本の小売業はアルバイトが主体で、どちらかというと作業員のような位置づけにしてしまっているということが考えられます。立地や商品にフォーカスしすぎていて、働く人はレジ番や品出しをはじめとする作業員でした。ただ、コロナをきっかけに小売業でもDXが進んでいて、荷受けをレジでやらなくて済むような仕組みを導入したり、セルフレジの導入も始めています。
今後小売業に求められるのは、機械にできることは機械に任せて、考えて売上を作り出す、自走できる人材かなと思います。昨年の4月には、「今まで10人で回していたものを6人で回す。残った6人には0から1を生み出すような、人にしかできな仕事をしてもらう、そうでなければお客様の満足を得られない」というメッセージを社内で発信しました。今はそういった人材の採用や育成に切り替えを行っています。
石見
石見
人材に求めるものが高くなりそうですが、どのように育成をされているんですか?
坂本
坂本
経営メンバーと求める人材像を根本的に見直しました。そこで、アルバイトリーダーになった先の教育が大切であるにも関わらず手薄であったことに気づき、社員と同格の仕事をしてもらうような、同一労働同一賃金にも対応した自社のマニュアルを作成しました。
坂野
坂野
今のお話から、経営に参画してもらっているところが鍵だと感じます。雇われているという感覚ではなく、自ら経営の一員であるという意識が人材育成の観点ではすごく重要です。新任店長の研修の際には、必ず自分のお店だったらどう考えるか、どう行動するかを頭に置いた店舗運営をして欲しいと伝えています。
当社の行動指針には、お客様がお帰りになる際の背中を見なさいであったり、指示を待たないで自分を考えなさい、1分当たりの生産性を考えなさいといったことが書かれているのですが、25年間私が書いた言葉のままで全店・全員に通達しています。これが私共の多店舗マネジメントの要です。1つ1つの店舗が、それぞれオーナーシップを持ってやってもらうことがマネジメント上重要だと考えています。
石見
石見
うちの会社は一番こういうことが大事だよ!というような理念や行動指針を、いかに現場まで浸透させることができるのか。これが経営の鍵ですよね。
古屋
古屋
私も自社では、なんで生きる?なんで働く?ような根源的な問いをよくします。ここまで来ると少し宗教チックではありますが(笑)
フィットネスクラブの現場でも、目的や目標は、肚落ち感がなければいけません。リーダーなら特にですが、今や全員がリーダーシップを持つべき時代ですよね。
上司にあたる人は日々の仕事をちゃんと観察して、適切なフィードバックをして上げることが求められます。
石見
石見
多拠点かつシフト制など物理的な要因もあり、社員の意識づけにかかるパワーは相当のものと思います。
坂野
坂野
基本的にはラインマネージャーが店長に伝え、店長がスタッフに伝えるという構造ですが、どうしても伝言ゲームになります。コロナ禍ではzoomで全体会議ができて、直接メッセージを伝えることが出来ました。ラインマネージャーに権限移譲しなければいけないこともありますが、想いについては直接伝えなければと感じました。

人材不足にどう備えるのか?

坂本
坂本
コンビニ業界においては、特に首都圏は外国人の方に助けられている部分があります。私も外国人雇用管理士の資格を取って、コロナ以前は現地に赴いて採用もしていました。ここ最近は外国人留学生の流入が少なくなり、優秀な方の確保に苦労しています。日本人大学生に関しては、4年間でしっかりマーケティングを当社で学んでいただくのを目的に、大学と連携して受け入れるルートを作っています。
石見
石見
ローソンさんの本部でも働き方改革を推進されていると思いますが、人材の定着という面ではどうでしょう?
坂本
坂本
ローソン本部でも定着率について調査を進めていて、コミュニケーション状態と定着率の関連性が見えてきています。
坂野
坂野
人材不足を痛感しており、中途採用も始めたりしていますが、一番大事なのは定着率をさらに高めることです。また、女性が95%なのでライフイベントで長期休職や時短勤務といった働き方を望む社員が多い。そんな中で、みんなで楽しく継続的に働くことができる仕組み作りが大事です。
美容業種は給与水準もあまり高くないと思いますが、本社社員は現場のスタッフのお給料をどう上げていくか、サポートする役割。店長はお店のスタッフのお給料をどう上げればいいかを考える役割。スタッフには自分自身の付加価値を高めることで、自分の力でお給料をUPを目指して欲しいということを伝えています。
古屋
古屋
フィットネスクラブは現状利益率があまり高くないので、ビジネスモデルや中身を変えていかないといけないタイミングです。そういうときに、ダブルループ思考でアイデアを出してくれる人材って外部にいるんじゃないかなと。ビジネスモデルを高めるためのアイデアなどを、オープンイノベーション的に頼ってもいいかなと思います。
もう一方で、主婦層やシニアの方々が、楽しく活躍できるような職場にしていくことも必要ですよね。主婦層やシニアの方々のアイデアを以て、好事例をHabi*doのようなツールを使って共有し、皆でマニュアルをアップデートしていくようなことが実際になされているところもあります。そうなると、仕事自体も楽しくなっていきますよね。当然離職率も下がります。
フィットネスクラブは、夜中の時間帯はワンオペが多いので、つまらない、さみしいというのもあります。これもHabi*doで他店の仲間と繋いであげるといいですよね。
石見
石見
やはりここで自分が役に立ってないんじゃないかと思えてしまったり、ちゃんとフィードバックがないとやる気が高まりません。離職にもつながります。どれだけ魅力ある場づくりができるかが鍵ですよね。

多拠点・多店舗で業績を高めるマネジメントとは?

石見
石見
このコロナ禍にあって利益が上がっているゑびす屋様では、Habi*doをご利用いただいていいますが、そのデータから見えてきた特徴をいくつかご紹介させてください。

・メンバーの心理的資本(やり遂げる自信)が比較的高い
・メンバーがチーム状態が良いと自覚している
・「ありがとう」が多い=チーム力が発揮されている
・目標が一人ひとりまで浸透している
・行動の意識化ができている

坂本
坂本
人が楽しく仕事すること、やらされ仕事ではなく自分ごとにしていくことが大事ですよね。今年の4月から、リーダー格のアルバイトの方にもB/SやP/Lが読めるような研修をしたり、Habi*doを使ってもらっています。その結果、驚くくらい主体性が高くなっていて、キャンペーンに合わせた売り場づくりなど率先して行ってくれています。
古屋
古屋

やりがちな失敗としては、こういう時期だからこそ経営層から結果を押しつけられたり、数字ばかりに目が行ってしまうということがありますよね。
成功循環モデルじゃないですが、関係性の質から入らないとコミュニケーションも活性化しないですし、何か目標を持っても主体性が出てこないと思います。最終的に結果がついてくるのであって、結果から入るのは大間違いです。コミュニケーションの質が高いクラブが結果も伴っています。時間がかかるんですが、やはり組織づくりは丁寧にやった方がいいです。そういうクラブの方が、お客様へのサービス提供も丁寧で、お客様離れが少ないです。
坂野
坂野
私たちのような業態も丁寧な接客が一番求められるところです。人と人との繋がりもあり、お客様は癒されにいらっしゃいます。ささやかな幸せを感じていただける場所づくりを継続的にできるように、人材の育成が重要です。
石見
石見
会社の理念や考え方を現場まで浸透できる組織が強いということでしょうか。

質疑応答

店舗では顧客対応が優先されるのでOJTが行いづらいという状況がありますが、店舗での教育を効率的にするにはどうすればよいでしょうか?

坂野
坂野
当社では、新入社員は研修センターで2ヶ月間しっかり学び、その後所属店舗でしっかりOJTで学びます。顧客優先であることは当然なのですが、育成は優先度が高いですので、時間を作って効率的にというよりは効果的に教えて見せることをやっています。
坂本
坂本
本部が用意してくださる集合研修に参加したりもするのですが、それだけだとやはり日々の仕事に流されてしまい効果が持続しません。ですので、別に当社独自でOFF-JTの時間を毎週1時間とって、私や経営メンバーから経営数字の読み解き方などレクチャーをしています。私はこの時間を将来の投資として捉えています。それぞれの企業に見合った規模はありますが、投資できるものはまずは人にという考えです。
古屋
古屋

カスケードダウンしていくのが一番効率的かなと。デジタルも便利ですが、人によるOJTはすごく大事です。人間は経験から学ぶことが多いですので、勉強だけしていても気づけない。実際の現場でサービスを提供してみて、その様子を見守る上司からコーチングを受けて自ら課題に気づき、学習して、また実践と。この繰り返しを文化にしていくまでやる必要があります。
石見
石見
まさに経験学習サイクルですね。強い組織作りの大鉄則だと思います。

最後に

坂野
坂野
このコロナでダメージを受けた会社はすごく多いと思います。しかしこういう時こそ、ありふれた表現ですがピンチはチャンスです。新しいアイデア、新しいやり方、いろいろなことが出来ると思いますので、私も皆さんと一緒にがんばって参ります。
古屋
古屋

お恥ずかしながら、ちょっと前まで事業作りと組織作りだったら、事業作りの方が大切かなと思っていました。特にこういう時期だからこそ事業づくりだと。でも、組織作りや人のことって、事業作りと同じくらいもしくはそれ以上に大事だと最近になって気が付きました。インクルーシブな組織、マインドフルな組織じゃないと、アイデアも出てこないし、楽しくないし、長く続かないですよね。人や組織を大切にすることが長期的に見て会社や日本を豊かにすることにつながります。今まで人や組織の面にあまり注目されてなかった方も、ぜひ目を向けてみていただければと思います。
坂本
坂本
ヒト、モノ、カネ。すべてはヒトから始まります。このコロナの苦境でどうしてもおカネにいきがちになってまいます。事業モデルの見直しやDXもいいのですが、それを動かすのもヒトです。採用や教育の見直し、人事戦略を考え直すいい機会だと思っています。
当社もHabi*doを使ったことで、人のポテンシャルを引き出されてきたという感覚がありますが、人の力を引き出すことができれば日本はまだ2~3割元気になるのかなと思っています。
石見
石見
日本を元気に明るくしていきたいですね。今日はありがとうございました。