Habi*do通信

M&AにおけるPMI 企業×企業のシナジー発揮に必要なこと

日本企業のM&Aは、件数、金額ともに増加傾向にあります。
経営戦略実現の手段として定着しつつあるM&Aですが、その成功のためには「PMI」が必要不可欠です。しかしM&A実施後、PMIで苦労する企業が多いという実態があります。

「M&Aは分かるけど、PMIってなんだ?」
そう思われた方も多いかもしれません。

M&Aが多くのビジネスマンにとって「自分には関係ない」世界だったのは昔の話。ビジネスを取り巻く目まぐるしい変化は、M&Aを「経営手段のひとつ」としつつあります。他人事ではなく、あなたの会社が巻き込まれる可能性もゼロではないのです。今からでも遅くはありません。M&AとPMIについて知っておきましょう。
組織再編の勝敗を分けるマネジメントについて生討論! バナー

PMIとは?

PMIとは、「Post Merger Integration (合併後の統合)」のこと。M&A後の両社の経営方針や業務ルール、社員の意識を融合し、統合したメリットを最大化するためのプロセスです。M&Aはどうしても会社同士の合意までのプロセスに関心が集まりがちですが、実は、このPMIこそがM&Aの成功を左右する大切な要素です。

【PMIが不十分だと起きる弊害】
・業務上の重大なミスやシステム障害
・クレーム増加からの顧客離れ
・会社への不信感からの優秀な人材の離職・業務低下

かつての大手都市銀行の統合の際に、さまざまな混乱があったことを覚えている方も多いはず。社会的なニュースとして、大きく報道されました。その混乱がいかに企業のブランド価値を下げ、金銭的負担になったかを考えれば、PMIの重要性をお分かりいただけるかと思います。

PMIは、3段階で全体的な統合を図ります。
PMI 統合の3ステップ
①経営統合
新しい会社の原則や経営の方向性の統合を目指します。経営理念やビジョン、戦略などが含まれます。
②業務統合
統合される新しい会社がひとつの会社として運営を目指します。組織や拠点、業務プロセス、人事制度などが含まれます。
③意識統合
会社同士の相互理解や、新しい会社への理解を深めることを目指します。研修やワークショップが実施される場合が多いです。

PMIは「ソフト」と「ハード」2つにわけられる

3段階のPMIの統合プロセスですが、大きく2つにわけることもできます。「ハード面」と「ソフト面」です。
PMIの「ソフト」と「ハード」
・ハード面・・・「経営」「業務」
具体的には人事制度や売上管理、経理などの情報システム、営業や購買などの業務プロセス、組織体制の意思決定プロセスなど。これらは現場に直結するため、実際に業務が進むにつれ、否応なしに対応される可能性が高い部分です。
オペレーションが変わることから従業員の反発を招く可能性があるので、しっかりと準備をし、実施時期をよく検討する必要があります。

・ソフト面・・・「意識」
異なる企業文化や組織風土をもつ企業間では、摩擦が生じて当たり前。しかし、この摩擦がPMIを妨げる要因になります。お互いの企業間の文化の融合を図ることが重要です。

かつての大手都市銀行の合併の際の混乱は、ここに問題があったとされています。長い歴史を持ち、伝統のある銀行同士だからこそ、企業文化は全く異なりました。混乱が起きたのはその「企業文化の違い」を重要視せず、理解し合わずに統合を進めたからです。もちろん、どちらの文化が正解でどちらが間違いという問題ではありません。一方を優先させるのではなく、融合と価値観の構築が大切です。

ハード面は可視化しやすく、結果が測りやすいため注視されがちですが、ソフト面への対応を怠ってはいけません。優秀な人材の流出や、全体的なモチベーションの低下へつながる可能性もあるため、M&Aの前からソフト面について考えておく必要があるでしょう。

PMI成功のための4つのポイント

では、PMIを成功させるためには何が必要なのでしょうか。
PMI成功のための4つのポイント
①綿密な計画を立てること
計画がしっかりしているからこそ、M&A後の具体的な見通しを立てることができます。
②ビジョンの明確化
ビジョンを明確にして、従業員と共有します。しっかりとしたビジョンは従業員の不安を軽減させ、モチベーションの低下を防止します。
③強いリーダーシップとコミットメント
M&Aは、従業員に「会社が変わってしまう」という不安感を抱かせかねません。基本方針は、強いリーダーシップとコミットメントで提示する必要があります。
④KPIを設定すること
KPI(重要業績評価指標)とは、目標を達成する上で、その達成度合いを計測・監視するための定量的な指標をいいます。
PMIは中長期にわたることです。その成果がマネジメントによってモニタリングされ、測定されなければ意味がありません。そのため目標にも具体性が求められます。このとき合併によるシナジー効果を定量的に測るだけではなく、コミュニケーションなどの定性的な目標にもKPIを決め、達成度合いや推移をモニタリングすることが求められます。

一番大切なのは文化の醸成と、モニタリング

上記の4つのポイントはとても基本的なことです。そのうえでの最重要課題は、「文化の醸成」だと認識してください。買収を重ねながら成長しているアメリカのとあるメーカーは、M&Aのチェック項目に「文化が融合できるか」を入れ、慎重に検討することもあるそうです。そして買収後は、2社の文化を融合させるための仕組みをスピーディーに構築しています。

このとき大切なのは、「どちらの企業文化を採用して終わり」にしないこと。相手企業のブランド(無形資産)を理解し合い、融合後の新しい理念・価値観をつくり上げる過程を正しく踏めば、社員たちの参画意識を高めることができるでしょう。

またPMIは短期間で成果が分かるものでもありません。KPIの定期的なモニタリングと、随時の見直しが大切です。特に、M&Aを繰り返して成長する戦略を取っている企業は、多くの企業文化を取り入れながらスピーディーに文化を醸成することになります。その結果がどうだったか、双方のシナジーを発揮できたかを検証し、ノウハウや失敗を次のM&Aに活かすことも重要でしょう。

異なる企業文化を「うまく融合させる」

M&A
「自社の常識」は、一歩外に出ると通じなくなる…これは、会社で働くビジネスマンなら肌で感じていることでしょう。個人と個人なら相性や会話でカバーできる価値観の違いも、「会社と会社」となると簡単にはいきません。異なる文化を持つ企業同士で、阿吽(あうん)の呼吸は通じないのです。

しかしPMIがうまくいけば、互いの価値観を吸収しあい、学習が盛んになります。社員同士のコミュニケーションが生まれ、文化が融合して新しい「土壌」ができれば、M&Aの目的が達成され、効果が最大化されるでしょう。

PMIでは、作業や構造ばかりに注目せずに、ソフト面に目を向けてください。あなたの会社がM&Aで他社と融合したとき、(それが買う側であっても、買われる側であっても…)、まっさきに現場に影響が出るのは「人と人の価値観の問題」なのは、イメージできるのではないでしょうか?